次の街は?
走り出した馬車の荷台で、コウスケとロイドは膝を付き合わせていた。
「それでどうするのだ?」
「魔方陣が発展した物の中に、多重魔方陣というのがある」
「?・・・魔方陣を重ね威力を上げる、だったか?」
ロイドが習ったばかりの魔方陣知識を引っ張り出す。
「あぁ、でもそれは同じ魔法の魔方陣を重ねた場合だ。違う種類の魔方陣を重ねると・・・」
勿体ぶるコウスケの言葉をロイドは黙って待つ。
「合成魔法で合成した時と同じ効果が出るんだ」
「成る程。それを使って魔方陣を五つ重ねれば・・・」
その後をコウスケに任せるロイド。
「あぁ、五属性の合成魔法の出来上がりだ」
「ここまで来て魔方陣か・・・出来れば最後まで私の手で成し遂げたかったが」
まだ魔方陣を使いこなせないロイドには、五つもの魔方陣を重ねた多重魔方陣を構築するには荷が重い。
「あぁ、分かってる。任しとけッ!俺が完成させて、ロイドに見せてやるよ」
「楽しみに待つのもいいだろう。時間はあるからな」
そう言ってロイドは笑っていた。
こうして、ロイド発の実験は二人での実験を経て、コウスケ一人での実験になった。
すぐに完成する物でも無いので、気長にやる事に決めるコウスケ。
他にも、試したい事や作りたい物があるのである。
~~
それから数日、コウスケは同時進行で幾つかの作業を進めていた。
勿論、その中には五重魔方陣も含まれていたが、一筋縄では行かないでいた。
そんな中、完成した物もあった。
魔法鞄だ。これは、ロイドとの会話の中で閃いた新しい機能を備えた新・魔法鞄なのだ。
「ただの魔法鞄じゃない?どこが新しいの?」
出来上がった鞄を見てエルネが言った。
「付与魔法が・・・二種類?別の魔法も付与してあるのだな?」
これはロイドだ。流石だ。
「あぁ、これには[拡張]の他に、[停止]も付与してある」
コウスケがそう説明した。
「・・・?それでどうなるの?」
「ほぅ、更に便利になるな」
分からないエルネと、分かったロイド。
「時間属性魔法の[停止]も付与する事で、中に入れた物の時間が経過しない様になる。食材を入れたままにしても腐らなくなるぞ」
エルネの為に説明してやる。
「スゴイじゃないっ!それなら私が毎日狩りに出ても大丈夫ねっ」
(やめてくれ。消費が追い付かない)
そう思うが、エルネの機嫌を損ねる必要は無い。
ロイドはただ頷くばかりだ。
「みんなの鞄にも付与しとくから、街の露店とかで買った食事も暖かいまま外で食べられる様になる」
他の使い道も教えるコウスケ。
「アラッ!それもいいわねっ」
ドンドン機嫌が良くなるエルネ。
ロイドはただ頷くばかりだ。
まるでアカベコの様なロイドだが、少し前に拗ねたエルネの被害に遭ってからこうなった。
これはロイドなりに編み出した、エルネの安全な扱い方なのだろう。
それほど拗ねたエルネの威力は凄まじいのだ。
そんな平和?な日々を過ごしていた、ある日の事。
ちょうどコウスケがいつもの場所でタバコを咥え
(そう言えば、この中で一番年下って俺なのか?)
等と少しブルーになっていた時だった。
「次の街までは後どのくらいなのだ?少し欲しい素材ができたのだが」
そうロイドが荷台から顔を出して言った。
前に座っていた二人は揃って
「「さぁ?」」
と答えた。
「・・・知らないと言う意味か?」
「あぁ、どこにどんな街があるか知らないんだ」
コウスケが答えた。
「よくそれで旅をしようと思えたな?地図等は持っていないのか?」
地図という言葉を聞いた二人はハッとした。
「・・・地図ってあるのか?」
「・・・里長の家に張ってあるの見た事ある気がする」
「私の時代にもあったのだ。今無い筈が無いだろう?」
そう、地図等という物はどこの街でも買う事が出来る程出回っているのだ。
この二人が気付かなかっただけで。
「私はこの二人と旅をしていて良いのか?」
思わずそう呟くロイド。
「ロイドは昔とは言え、この辺通った事あるんだろ?知らないのか?」
「この辺りにダンジョンがあったと記憶しているが・・・あれから400年、流石にもう攻略されて消滅しているだろう」
ロイドから気になる単語が飛び出し、コウスケが食い付いた。
「ダンジョンッ!?ダンジョンなんてあるのか?」
「いや、だからもう消滅しているだろうと言っているのだ」
「最深部でボスを倒すと消滅するタイプか?」
何やらコウスケが一人で興奮している。
「違うタイプのダンジョンがあるのか?」
「へっ?あぁ、気にしないでくれ。それよりもダンジョンについて聞かせてくれ」
「私が知っているのは昔の話だぞ?」
そう前置きして話してくれるロイド。
曰く、この世界のダンジョンはランダムに突然現れるとの事だ。
ダンジョンの中には魔物が生息しているが、所々にアイテムが落ちているらしい。
このアイテムを狙って、ダンジョンが出来たと言う情報を手に入れた冒険者達が集まってくるらしい。
アイテムは定期的に復活する様で、ダンジョンが消滅するまで何度も潜り、安全な場所をアイテム回収をして回る冒険者もいるそうだ。
ただし、入手出来るアイテムは毎回ランダムで運が絡んでくるそうだ。
最深部に近づけば近づく程レアな物が手に入る傾向があるらしいが、同時に魔物も強くなる。
そして、ダンジョン一番の目玉は最深部にいるボス、ダンジョンマスターを倒すと手に入れる事が出来るアイテムだ。
このアイテムは、ボスを倒すとダンジョンが消滅するという性質上、一度しか入手チャンスが無く道中のアイテムよりもレアなアイテムが出る事が一般的だという。
そんな、冒険者にとっては「おいしい」場所なので、高ランク冒険者によってすぐに潰されるのが普通だ。
皆、最深部のアイテムが欲しいのだ。
そんな中、この世界には攻略されずに残っているダンジョンも存在する。
人知れず、と言う訳では無い。無い訳では無いが。
単に攻略難易度が高くて、誰も最深部まで辿り着けない。
そんなダンジョンが幾つかあり、そんな場所は例外無く近くに街が作られるらしい。
ダンジョンから出るアイテムを目的に人が集まって来るからだ。
その様な街は、ダンジョン都市と呼ばれるらしい。
そこまで聞いたコウスケは
「そうだ、ダンジョン都市に行こう」
そう言った。
「だからこの先にあったダンジョンは400年前の話だ。もう潰されているだろう。例え潰れていなかったとしても、それは同時に400年間攻略されなかった超高難度のダンジョンという事になる」
そう理路整然と説明するロイド。
「400年間攻略されなかった超高難易度ダンジョンッ!!」
火に油を注いだ様だ。
作業をしているコウスケや、魔法知識が豊富なコウスケを内心認めていたロイドだったが、今のコウスケを見て残念な気持ちになるロイド。
「・・・そうだな。あるといいな?ダンジョン」
そう言って、色々と諦めるロイド。
三人は次の街に向かって進む。ダンジョン都市かは分からないが。




