戦後処理
「コウスケさん、エルネさん、本当にありがとう。あなた達はこの街の救世主です」
翌朝、コウスケとエルネはこの街の役人と話していた。
「いやいや、俺も貴方達が生き延びていてくれて、助かりました。貴方達さえいれば、この街を元通りに出来ますからね」
この街の役人は全員生きていた。集められて牢屋に入れられていたのだ。
どうやらこの街の異変を周りの街や、首都に知られない様に、役人達に普段通りの書類仕事をさせて、欺いていた様だ。
盗賊団の中に、この様な書類仕事を出来る者がいる筈も無く、役人達を捕らえ、生かしていたのもその為だったらしい。
案外、あのお頭も賢さはあったらしい。
「私達も何とかしようと努力はしていたんですが・・・どうにもならなくて・・・本当に助かりました」
「牢屋に入れられていたんじゃ、どうしようも無いですよ」
「実は、助けを求める手紙を、書類に紛れ込ませたりもしていたんですが・・・」
「なッ!?見つかったら危ないじゃないですかッ!」
「書類を回収に来る兵士の中に一人、字が読めない奴がいたんですよ。ソイツが回収に来た時に・・・多分届いていると思うのですが」
「えっ?・・・じゃあ俺達が来なくても・・・」
「いやいやっ!そんな事はありませんッ!お二人が早く来て下さった分、それだけ周りの人々への被害を抑えられたと言う事ですから」
後ろにいたエルネが、悲しそうな顔をしたのが見えた。救えなかった二つの村の事を思い出したのだろう。
「・・・俺達は襲われた村を見て、ここに来たんです」
「ッ!!・・・そうですよね。抑えられたと言っても、襲われた所も・・・」
重苦しい空気が流れた。三人とも黙ってしまう。
そんな時、不意にコウスケは今までに無い悪寒を覚えた。
咄嗟に振り向き、何故だか分からないが、そうしなければならない様な気がして、腕を首の前に掲げた。
ガキンッ
コウスケの首を、横から正確に狙ったと思われる刃を、寸での所で防いだ。
コウスケに攻撃した者は、ヒラリと身を翻し、コウスケと役人との間に着地した。
「ちょっとッ!いきなり何すんのよッ!」
何もされていないエルネが相手を咎めた。
一方、コウスケは相手に見覚えがあった。
「あなたは・・・AAランク冒険者の・・・」
「・・・君は。・・・盗賊?」
向こうは覚えていない様だ。
コウスケを襲ったのは、AAランク冒険者のイーナだった。
突然の出来事に、震えていた役人だったが、冒険者と聞いて口を開く。
「冒険者?・・・まさか盗賊団を?」
「そう。依頼受けた。他にも、いる。」
どうやら冒険者ギルドで討伐隊が組まれたらしい。
イーナはその一員だと言う。
「・・・申し上げ難いのですが・・・その盗賊団は、こちらのお二人に依って既に・・・」
本当に言い辛そうに役人が言った。
「・・・そう。ならいい。」
コウスケから切っ先を背けなかった両刃の片手剣を、腰の鞘に戻すイーナ。
一息付けたコウスケは
「俺の事覚えて無いですか?ホラッ、ギルドの酒場で切れない装備について聞いた・・・」
「・・・・・・・・・・・・私の。ご飯。邪魔した。新人冒険者?」
「まぁ・・・間違っては無いです」
思い出してくれた様だ。
「君が。盗賊。倒した?」
「そう・・・なりますね」
あまり盗賊団を潰した、と言う実感が沸かないコウスケ。
「・・・私。イーナ。」
「はぁ・・・イーナ、さん?」
「・・・」
無言でコウスケを見つめるイーナ。突然、自己紹介され少し考えて、ハッと気付くコウスケ。
「どうも、コウスケです」
自己紹介を要求されていた様だ。
「ん。覚えとく。」
名乗り合った所で、新たな男が後ろから走って来た。
「イーナッ!先に行くなと言っただろう!」
どうやらこの男も、討伐隊の一員らしい。
「襲われてる。思った。」
「違ったのか?」
「盗賊。もういない。」
面倒な説明は役人に丸投げする事にした。
討伐隊の男は、役人にあらましを聞いた様で
「本来なら我々が、もっと早く来るべきだったんだが・・・イーナの知り合いだったか?君には礼を言う」
そう言ってコウスケに頭を下げた。
「俺の方こそ仕事を横取りしたみたいで・・・すいません」
コウスケも頭を下げる。社会人の様だ。
大体の説明を終えたコウスケは
「じゃあ、後は討伐隊の人達に任せて、俺達は旅に戻らせてもらうか?」
そうエルネに言う。
「そうだね!まだ猪鍋も食べて無いし、お風呂にも入りたいよっ」
そうコウスケに返す。
それを聞き付けた役人は
「そんなッ!まだお礼も出来ていないのに」
「いいですよ、そんなの。俺達は依頼を受けた訳じゃ無いですし・・・俺達はやりたい様にやっただけですよ」
「いや、でもそれでは・・・」
「その分は、街を元に戻すのにでも使ってください」
そうカッコつけて去ろうとしたコウスケ。しかし
「待って下さ~いッ!・・・ハァ、ハァ、こちらにおいででしたか」
別の役人がコウスケを呼び止めた。少し恥ずかしく思うコウスケ。
「・・・どうしたんですか?」
「コウスケさんにお願いしたい事がありまして・・・来ては頂けませんか?」
「いいですけど・・・どこへ?」
面倒事の臭いがして、コウスケは項垂れる。
「牢屋です」
「ッ!イモムシが逃げたんですか?」
「イモムシ?・・・あぁ。いえ、イモムシはイモムシのまま転がってます」
「?・・・じゃあ」
それ以外、思い付かないコウスケ。
「取り敢えず見て下さい。私じゃ手に負えません」
そう言うとブルブルと震えだした。
(俺にも手に負えない様な気がする)
そう思いながら、役人の後に付いて、牢屋に向かうコウスケだった。




