お頭退治
拍子抜けする程静かな街を歩くコウスケとエルネ。
「ホントにあれで全員だったみたいね」
街中に兵士の姿が見えない事で、エルネがそう言った。
「俺も驚いてるよ。まさか本当に全員出てくるとはな・・・まぁそれだけ俺が強そうに見えたって事だろうな」
ハッハッと上機嫌に笑うコウスケ。
「ん~・・・コウスケはそんなに強そうに見えないと思うけどなぁ」
切って捨てるエルネ。
「・・・・・・、本当にあそこにお頭とか言うヤツがいるのか?」
逃げる様に話を変えるコウスケ。
「ここがお頭の屋敷だ。って言ってたよ?」
昨日、エルネが捕まっている時に聞いたらしい。
そして、正にエルネが捕まっていた場所がその屋敷だと言う。
「俺、あの屋敷見て回ったけど、居なかった様な気が・・・」
「昨日は居なかったみたい。私を会わせるのを朝にしたのも、そのせいらしいよ」
捕まっていたにも関わらず、意外と情報を得ているエルネ。
(まぁ行ってみれば分かるか)
そう思い、その屋敷に向かう。
屋敷に着くと、見張りすら居なかった。
「明かりは点いてるね」
「あぁ、誰かは居るって事だろ?じゃあ、派手にお邪魔しようか」
そう言って、身体強化の魔法を纏うコウスケ。さらに、扉の前でおもむろに片足を上げた。
~~
「オイッ!どうなったんだッ!何故誰も戻って来ねぇんだッ!」
お頭の怒号が響く。
「誰も戻って来ないんで、わかんないッス」
唯一人残された兵士が、お頭に答える。
「戻って来ねぇワケねぇだろッ!全員出したんだぞ?すぐ片付けて戻って来るはずだろうがッ!」
機嫌が悪くなっていくお頭。同時に声も大きくなる。
「そんな事言われても・・・あっ、皆やられちゃったんじゃないんスかね?」
意図せず正解を言い当てる兵士。
「バカな事言ってんじゃねぇッ!!お前と話してても埒が明かねぇ、ベラベラ喋ってねぇでちょっと見て来いッ!」
「いいんスか?お頭一人になるッスよ?」
この兵士は一応護衛らしい。
「いいから行けッ!」
「了解ッス。行ってくるッス」
そう言い残して部屋を出ていった。
その時だった。
ドゴォ~ン
「お邪魔しま~すッッ!!」
下の階から、誰かの来訪を知らせる挨拶が、大声で聞こえてきた。
~~
玄関の扉を全力で蹴り抜いたコウスケ。そして
「お邪魔しま~すッッ!」
大声で叫んだ。礼儀正しいのか、正しくないのか。
そのまま、扉の上を歩く。
蹴り抜いた扉が外れて、床に倒れているからだ。
「コウスケ!扉の下に誰か倒れてるよ?」
横にいたエルネがコウスケに教える。
「げっ!これがお頭とか言うんじゃねぇだろうな?」
これで終わりじゃ呆気なさすぎる。と焦るコウスケ。
「兵士の服着てるよ?違うんじゃない?」
「・・・確かにそうだな」
少し安心するコウスケ。
「きっと上だよっ!行くよっ、コウスケ」
何故か張り切りだすエルネ。
エルネを追いかけコウスケも階段を上がる。
階段の上では、エルネが左右の廊下を交互に見ていた。
「お頭とやらは何処なんだ?」
「分かんないよ・・・!あっ、コウスケ!あの部屋明かり点いてる。きっとあの部屋だよっ」
「ちょ、待てって!一人で先に行くなって」
コウスケがそう声を掛けるが、エルネはすでに勢い良く部屋の扉を開けていた。
そのまま、部屋に踏み込んだ。
その瞬間
カチャリ
扉の影から伸びた手が、エルネの首筋を撫でていった。
「なっ!?」
異変に気付き、コウスケの隣まで大きく飛び退くエルネ。
扉の影から、男が姿を現す。
「がっはっはっ!魔法の使えなくなったエルフと、ヒョロっちぃ優男。俺の勝ちは決まったなぁ!!」
どうやらこの男がお頭らしい。とコウスケとエルネは顔を見合わせる。
そのまま、コウスケはエルネの首元に目を落とした。
「エルネもその首輪好きだな?この前も付けて無かった?」
「そんな訳無いでしょッ!!・・・もぅ~またなのッ!」
「オメェら随分と余裕だな?状況分かってんのか?あぁ?」
不利な状況のはずの二人が、普通に会話をしている事に苛立ちが募るお頭。
「ソレどうやって外すんだ?普通に外せる・・・訳無いか」
「え~と・・・たしかこの前は、何か石みたいなのを近付けたら、パカッって外れた気がする」
お頭を無視したまま、尚も会話を続ける二人。
「それが鍵の役割をしてるんだろうな」
「そうだと思うわ」
「なら魔方陣くさいな、ちょっと見せてくれ」
「う、うん」
コウスケがエルネの首輪を観察し始めた所で
「その鍵ってのは、コレの事か?」
お頭はそう言って石の様な物を取り出した。
そして
ガシャン
思いきり床に叩き付けて、破壊した。
「悪りぃな、手が滑っちまった。これでオメェらもお終いだなぁ?」
そう言ってニヤリと笑った。
「どうすんだぁ?諦めて降参すっか?一か八かで掛かってくんのか?」
すでに勝った気でいるお頭は、高笑いだ。
「・・・コウスケ、あの人五月蝿いっ」
「そう思うなら黙らせればいいだろ?」
「私には今、コレが付いてるのよっ!」
自分の首を指差すエルネ。
「魔法が使えないだけだろ?その細剣使えよ」
「動きも鈍くなるのよっ!」
これは嘘である。しかし、コウスケにはそんな事は分からない。
「・・・いいのか?今回は一応、エルネが決めた戦いだぞ?」
確かに今回はエルネが決めた。だからこそ、最後は自分で締めなくていいのか?と問う。
「決めたのは確かに私よ!でも、村の人達の敵討ちは二人でやってるの。・・・どっちがやっても同じよっ!」
開き直り、そう言いきった。
「おぉぅ・・・マジか・・・」
諦めたコウスケは、お頭に向き直る。
「なんだぁ?一か八かに賭けるのか?おもしれぇ、少し揉んでやるよ」
そう言って構えるお頭だったが
「悪りぃな」
背後から聞こえた声に、振り向く間も無く首筋に衝撃を受けて、意識を手放した。
やると決めてからのコウスケは、早かった。
お頭の背後に転移で跳び、首筋への一撃で意識を刈ったのだ。
「・・・殺さないの?って言うか今の何?」
「あぁ、コイツは生け捕りにして、然るべき所に突き出す。責任はトップが取るモンだ」
「・・・そうね。・・・で?さっきのは何なの?」
狙った獲物は逃がさないエルネ。
「転移って魔法だよ」
「・・・あぁ転移ね、転移。うん、知ってるわ、転移」
エルネは知ったか振りを発動した。
そんなエルネを無視して、転がっているお頭を、縄でグルグルと巻いていくコウスケ。
隙間無くみっちりと巻き終えると、再び、転がした。
「よしっ!次はソレ外すから、もう一回見せて」
「あぁ、うん」
エルネの首元を覗き込むコウスケ。エルネは少し紅くなる。
「どこだ?・・・あった・・・成る程、こういう仕組みか。おもしろいな・・・待てよ、アレと組み合わせれば・・・」
等と、思考に沈み掛けるコウスケ。
「ちょっとッ!早くッ!」
それを感じ取ったエルネはコウスケを急かした。
「・・・!あぁ、悪い」
そう言って、取り出した紙に、何やら書き始めた。
そして、それを首輪の魔方陣にあてる。
パカッ
いとも簡単に外れた。
「もう二度と見たく無いわッ!」
そう言いながら首を擦るエルネ。
「油断したエルネが悪いんだろ?」
そう言いながら首輪をボックスに仕舞うコウスケ。
「・・・」
「・・・?」
「・・・何で仕舞うのよ?捨てなさいよ、そんな物!」
「・・・研究材料です」
コウスケの目的は誰にも分からない。




