二人旅part2
翌朝、クッキリとした隈を作ったコウスケが朝食の用意をしていた。
「ファ~・・・ねみぃ」
昨夜のエルネによる、風呂の素晴らしさ語りはかなり遅くまで続いた。
そのエルネは、同じ時間まで起きていたにも関わらず元気だった。
しかも、興奮はまだ冷めていないようだ。
「一晩たってもこの髪、この肌、この匂い・・・世の中にこんなスゴイ物があるなんてっ」
この様に、一人で浸っている。そしてたまに
「コウスケ、何で隠してたのッ?まさかッ!・・・独り占めするつもりだったのねッ?」
と、絡んでくる。朝からこの繰り返しである。
「風呂が気に入ったのは分かったから、さっさと食って出発するぞ?それとも、要らねぇのか?」
出来上がった朝食を出しながら、ウンザリした様子でコウスケが言う。
「この髪・・・食べるっ、食べるわよ」
ようやく戻ってきたエルネと朝食を摂り、出発する。
「一日の終わりにお風呂に入れるなら、多少の汚れもこれからは気になら無くなるわねっ」
馬車を操りながらご機嫌なエルネが言う。えらく気に入ったものだ。
「・・・毎日は入れないぞ?近くに川なんかが無いと排水の問題があるからなぁ」
エルネの隣で何時もの様にタバコを咥えて、景色を眺めていたコウスケがそう告げる。
「えっ!?じゃあ今日からどうすればいいのっ?」
「仕方無いだろ?流すトコが無いと水浸しになって、後でその夜営場所使う人が困るだろ」
「そんなぁ・・・」
「我慢だ、我慢。たまの楽しみにすればいいだろ?」
そうエルネを宥めながら、馬車は目的地も分からない道を走る。
~~
ある日、馬車を停め、ふたりが昼食を食べている時の事だ。
直前まで狩りをしていたエルネが、馬車に弓を立て掛けていた。
それを見たコウスケは何の気無しに弓を手に取った。
殆どの武器を使えないコウスケだが、興味が無い訳では無い。
興味が無いどころか、出来るなら武器を装備して格好良く戦いたいと思っている程だ。
そんな事もあって、弓を手に取ったのだ。
まじまじと観察したり、構えたりしてみる。
「・・・何やってるの?」
食べ終えたエルネが聞いた。
「俺も普通に武器が使えればなぁ、と思ってさ」
「何言ってるの?スキルなんだから、練習すれば使える様になるじゃない」
武器スキルは、ゲームで言う熟練度の様に使えば使うほど、初級、中級、上級、マスタリーとスキルが進化して行くのである。
初級が無くても根気強く努力すれば、習得出来るのだ。
「いや分かってるんだけど、格闘マスタリー持ってると・・・ねぇ?」
「練習するのが面倒なだけでしょ?」
「・・・そう、とも、言えるかな。ハッハッハ」
「・・・まったくもうっ」
笑って誤魔化すコウスケ。言っても無駄だと思うエルネ。
「コレ、ちょっと射ってみてもいい?」
手に持つ弓を指してコウスケが聞いた。どうやら前から使ってみたかった様だ。
エルネの弓は、弓自体に特殊な能力がある。
それは、使用者の魔力を使って矢を作り出し、それを撃ち出せると言う物だ。
矢を持ち歩く必要の無い便利な弓なのだ。
もちろん用意すれば普通の矢も使える。
「別にいいけど・・・コッチ向けないでよねっ」
危なっかしく扱うコウスケを見て、不安になるエルネ。
「分かってるって」
そう言って何も無い方に向け構えた。
「まずは、構えて・・・弦を引いて・・・魔力は魔道具みたいでいいの?」
「えぇ、そうよ。同じでいいわ」
「ん~~・・・おっ!出来たッ!」
魔力製の半透明な矢が現れた。
「・・・あれ?でもエルネのは赤っぽいピンクじゃなかった?」
今コウスケが作り出した矢は、氷の様な蒼だった。
「使う人の魔力によって違うみたいよ?里の族長様は真っ赤だったもの」
「へぇ~そうなんだ」
別にその色に準じた属性が付く訳では無い様だ。
狙いを定め、放つコウスケ。
シュッ、ザクッ
「初めてにしては上手ね?ちゃんと木に当たったわっ」
嬉しそうに言うエルネ。
「・・・三つ隣の木を狙ったんだけど」
恥ずかしそうに言うコウスケ。
「・・・弓はやめた方がいいわね」
「そうする」
その後、弓には触らないコウスケであった。
~~
また別の日の事。
「コウスケって魔法、あんまり使わないわよね?」
お馴染み、馬車を操作するエルネだ。
「そんな事無いだろ?付与魔法に魔方陣魔法、よく使ってんじゃん」
こちらもお馴染み、咥えタバコのコウスケである。
「そう言う事じゃ無くて、戦闘でって事!」
「あぁ属性魔法とかか?」
「そうそうっ!・・・もしかして使えないとか?」
「いやいや、薪に火着けたり、溝掘ったりしてるの見てるだろ?」
「そっか!じゃあコウスケは火と土の二属性持ちなんだ?」
魔法の属性は多岐に渡る。
一般的に知られているのは、基本属性(火、水、風、土、雷)、上位属性(光、闇)位だろう。
さらに、過去に使える者がいたり、学者が研究の末見つけた特殊属性などもある。
エルネの植物属性がそれだ。見つかっていない物も多いが。
コウスケは全部使えたりする。
「えぇっと・・・もうちょっとあるかな?」
「三属性なの?凄いわね?」
「・・・もうちょっと」
「ッ!四属性ッ?魔法が得意なエルフにも中々いないわよ」
「もうちょっとあるかなぁ~なんて・・・」
ハッキリ言わないコウスケ。
「一体幾つあるのよ!隠してないで言いなさいよっ」
「全部・・・かな?」
意を決して白状するコウスケ。
「・・・今日は良い天気ね?」
まだ早かった様だ。ちなみに、曇りである。
その後、再起動したエルネに情報がある魔法なら使える事、情報が無い魔法は探すのが面倒で使えない事、時間さえ掛ければ探し出して全魔法が使える事を話した。
当然呆れられた。
「道理であの時、身体強化の魔法すら使わなかったのね?相手は使ってたわよ?」
あの時とは貴族の護衛戦、身体強化とは魔力で身体能力を強化出来る無属性魔法に分類される魔法だ。
無属性は特殊属性に分類される。
「なっ!あの野郎、ズルしてたのか?道理で速いと思ったんだよ」
「ズルって・・・あのねぇ、冒険者だったら魔術師じゃ無くても、身体強化の魔法ぐらい使えるのが普通よ?」
前衛であっても、まず覚えろっ!と言われる程、重要且つ、比較的簡単に覚える事の出来る魔法なのだ。
「そうなの?じゃあこれからは使わないとなぁ」
コウスケにとって、ひとつ勉強になった日であった。




