遂に完成
それから数日間、コウスケはモン爺と共に作業を続けた。
スキルのお陰か、モン爺の助手も見事に勤める事が出来た。
これにはモン爺も驚いていた。工房にスカウトされる程に。断ったが。
そして、遂に
「これで完成じゃ」
「疲れた・・・」
モン爺は満足した様子だ。
コウスケは逆に疲労困憊、脱け殻の様になっている。
「こんな物作ったはいいが動かせんじゃろ?どうするんじゃ?」
「あぁ、それは大丈夫です」
何とか復活したコウスケは出来上がった物に近づき、魔法鞄を押し当てる。
すると、吸い込まれて無くなった。
「!・・・隠しても無駄じゃ。今のはボックスじゃな?」
「・・・知ってるんですか?」
「魔法鞄じゃそんな事は出来ん。出来るとしたらボックス持ちだけじゃ」
バレてしまっては仕方が無い。
「内緒にしてるんでモン爺もお願いしますね?」
「分かっとるわい。それにしても、アレを自由に動かせるとなると・・・確かに便利じゃな」
「そうでしょ?今までの旅ではこれが無くて困ってたんですよ」
「・・・旅で使うつもりなのか?ワシはてっきり何処かの家に備え付けるのかと思うとったわい」
「この街に住み着くつもりはありませんよ」
「まぁそうじゃろうな。なら残りの仕事も早く終わらせんとな」
「お願いします。そっちは手伝えないので・・・」
「分かっとるよ・・・ところで嬢ちゃんはどうした?」
「エルネですか?ここの従業員に連れられて、宴会を回ってるみたいです」
「ウチの者が?・・・悪いのぅ」
「エルネは楽しそうだし、いいんじゃないですか?」
二人は工房に籠っていてまだ知らない。
エルネが酒の女神と呼ばれ、この街でアイドルの様な存在になっている事に。
モン爺が細剣とナイフ二本を作るのに数日掛かった。いや、掛けたのだ。
その間、エルネは相も変わらず宴会をハシゴしていた。
今度はコウスケがほったらかしにされ、時間が空いた。
なので工房の一画を借りて、モン爺と作り上げた例の物に付与魔法や魔方陣を施し、さらには付属品を作っていた。
~~
今二人はモン爺から注文した品を受け取っていた。
「どうじゃ?自分でも相当な物が打てたと思っとるが・・・試してみるとええ」
二人は受け取った物を握り、感触を確かめていた。
「これスゴイッ!前のよりしっくりくるし、振り易いっ」
エルネの細剣は、黒い刀身に片刃、持ち手には相手の攻撃から手を守るナックルガードと呼ばれる物が付いている。
「こっちもしっくり来る」
コウスケのナイフは、逆手に握った時に拳からナイフの刃以外が出ないサイズだ。
余計な装飾を省き、握りやすい様に持ち手は指の形にヘコんでいる。
「客の注文を叶え、さらにその上を行くのが工房・モンブラントの仕事じゃよ」
この街一番の工房たる由縁だ。
「ここまで良い物だとお値段が気になりますね?」
テレビショッピングの様なフリをするコウスケ。
テレビだと、ここで普通より安い値段を発表して「安~い」等と言うのがお約束である。しかし・・・
「なに、その二つは大して難しい注文でも無いわい。・・・こんなモンじゃろ?」
しっかりと目が飛び出るような金額を請求された。コウスケのフリには乗ってくれなかった様だ。
「後はアレなんじゃが・・・」
モン爺が言い淀む。
「もしかして、結構高く付いちゃいました?」
お金が足りなかった時の事を心配して、そう聞くコウスケ。
「本来は客のコウスケに手伝わせてしまった。金は取れんよ」
どうやら、逆だった様だ。しかし、それはそれで納得できない。
「それはダメですよ。せめて材料費だけでも・・・」
「コウスケ、ドワーフはみんな一度言い出したら聞かないよ?」
宴会を飛び回り、ドワーフと言う種族がどの様な種族か知っているエルネが言った。
「まぁ、そう言う事じゃな。ドワーフの頑固を覆せるなら大したモンじゃがな」
ガハガハと笑うモン爺。
ならば違う形でお礼をしようと考えるコウスケ。ドワーフが断らない物。いや、断れない物で。
「じゃあ代わりにこれでお支払するって言うのはどうです?」
そう言って魔法鞄に手を入れる。そして【創造の産物】を発動した。
取り出したのは、日本酒が入った一升瓶だった。
「なんでぇ?えらくデカイ瓶だな?水か?」
無色透明なので水だと思ったのだろう。
「これは多分モン爺でも飲んだ事の無いお酒ですよ?」
「!!・・・まぁ・・・味を見てみん事には・・・のう?」
未知の酒への興味に、一口寄越せと手を出すモン爺。
(勝った!)
そう確信し、おちょこに注いで渡す。
「これっぽっちか?」
不満そうなモン爺だがクイッと飲み干す。
「・・・」
モン爺は何も言わなかった。口に合わなかったか?と焦るコウスケ。
「・・・どうしてもと言うんじゃったら貰ってやらなくもない・・・100本って所かの?」
しっかり気に入った様だ。
(それ本来の値段より高く付いてねぇ?)
等と思いながらも日本酒100本を渡した。
(まぁ俺の魔力以外はタダだし、いっか)
上手く行ったな、と隣のエルネを見る。
エルネは無言でコウスケを見つめていた。こちらに手を差し出して。
しばらく、見つめ合う二人。
その間、モン爺は若い衆を使って日本酒を工房に運び込んでいた。
しばらく経っても二人は無言で見つめ合っている。言っておくが、二人の間に甘い空気が漂っている訳では無い。
これはお互いに無言の圧力を掛け合って、激闘を繰り広げているのである。
「私にもそのお酒を寄越しなさい」
「エルネは最近飲みすぎだ!控えなさい」
「余計なお世話よッ!寄越しなさい」
「いいや!ダメだ」
きっとこんな感じだろう。・・・何だコイツら?
見つめ合っていた二人だがようやく決着が付いた様だ。
急に片膝を付いたコウスケ。
上から見下ろし、ニヤリと笑うエルネ。
どうやらコウスケが敗れた様だ。
悔しそうに魔法鞄に手を入れ、日本酒を取り出す。
それを引ったくる様に奪うと、エルネは頬擦りしてから自分の魔法鞄に押し込んだ。
そんな二人を、酒を運び終えたモン爺は眺めていた。そして、一言
「嬢ちゃん・・・だいぶワシらドワーフに毒されて来とるのう?酒への執着がまるでドワーフじゃ」
それを聞いたエルネは流石に恥ずかしく思ったのか
「そ、そんな事ないもんっ」
「エルネ、量はちゃんと考えろよ?」
何とか立ち上がったコウスケもそう言った。
「わ、分かってるもん」
これからは少し気を付けようと思うエルネであった。




