モン爺の正体
追い返されたと言う苦い記憶に顔を引き攣らせ、工房の前に立つコウスケ。
エルネは何も考えて無い・・・はず。
フゥと息を吐いてから中に入った。
「すいません」
今回は大声を出したりはしない。
「御用はなん・・・またお前らか?何度来てもダメな物はダメなんだよッ」
「今度はダメじゃないもんねっ」
エルネがコウスケを盾にする様に後ろから顔だけ出して言い放つ。
「あぁん?紹介状用意して来たのか?この短時間で?」
「・・・紹介状は無いけど・・・でもでもっ「紹介状が無けりゃダメだ」・・・」
最後まで言わせてもらえ無かったエルネは戦意喪失。隠れるようにコウスケの後ろに引っ込んだ。
そして、「コウスケ、君に決めたッ!」と言わんばかりにコウスケを押し出した。
(初めから黙って見てればいいのに)
そう思いながらも仕方なく選手交替。
「紹介状は無いんですが紹介を貰って来まして・・・」
「はぁ?紹介だと?・・・いいだろ。聞くだけ聞いてやる。誰からの紹介だ?」
これで通じ無かったら違う意味でモン爺を探さねば、と思いながら
「モン爺からの紹介だって言えば分かると言われまして・・・」
目の前のドワーフの表情が険しくなる。
「オイオイ、その名前を出して嘘だったらただじゃ済まねぇぞ?分かってんのか?」
こちらの言っている事が嘘だと思っているのか、そう脅してくる。
しかし、嘘では無いので
「大丈夫です。嘘じゃ無いですから」
ドワーフはこちらを探る様に上から下まで見た後
「・・・分かった。今確認してくる・・・逃げんじゃねぇぞッ」
そう言って奥に引っ込んだ。
「これで何とかなったね?」
エルネはもう成功した気でいる。
「まだ分かんないぞ。大体どうやってホントかウソか判断するんだよ?」
「でも確認してくるって言ってたよ?なにか方法があるんじゃない?」
あーでも無い、こーでも無いと話していると声が掛かった。
「まさかと思ったが、やっぱりオメェらだったか?」
一人のドワーフが出てきた。
「アレ?・・・モン爺?だよね?」
出てきたのはモン爺だった。
「おぉ嬢ちゃんさっき振りじゃな」
「やっぱりモン爺だっ!モン爺ここで働いてるの?」
「・・・ここで働いてるか、と聞かれれば働いておるのぅ」
エルネの察しの悪さに間が空くモン爺。そして、コウスケはどうかと目を向ける。
コウスケは勿論気付いた。
この辺りの工房全てで「モン爺の紹介」が効く事。この工房の名前がモンブラントである事。
そして、その工房にいるモン爺。
気付かない方が無理である。いやエルネである。
「すいませんモンブラントさん。こんな事になるなんて思ってなくて・・・」
「よせよせ。モン爺でいい。ワシもコウスケが言ってたのがウチだとは思わんかったしのぅ」
何となく解決した様な空気を感じてエルネが出てきた。
「じゃあ私の細剣ここで作ってくれるの?あっじゃあモン爺に作ってもらおっかなっ」
ご機嫌に爆弾発言である。
コウスケはエルネを引き寄せると顔を近づけ小声で言った。
「バカかお前は?モン爺はなこの辺りで一番腕の良い工房の一番腕の良い職人。つまりこの工房のトップ!一番偉い人なんだよ?そんな人に簡単に仕事頼める訳ないだろ?」
捲し立てる様に言った。
黙って聞いているエルネにハッとする。
(ヤベッ言いすぎたか?ゆっくり分かる様に言った方が・・・怒ってる様に見えるよな)
後悔しているコウスケ。まぁエルネは顔の近さにドキドキして何も聞いてはいなかったが。
そんな二人をモン爺の一言が現実に戻す。
「ええよ?ワシが作ろう」
「いいの?やったぁ」
しかしこれには後ろに控えていたドワーフが
「何言ってんだ親方!アンタいくつ仕事抱えてると思ってんだ?」
このドワーフはモン爺に結構言える立場の様だ。
「期限のある仕事は無いじゃろ?後回しにしてもよかろ?」
「そ、それはそうだけどよぉ・・・依頼主に文句言われても知らねぇぞ?」
「ワシに文句を言ってくるヤツが居たら大したモンじゃ!」
ガハガハと笑うモン爺。これには後ろのドワーフも諦めた様だ。
モン爺改め、鍛冶師モンブラントとはこの大陸でも、延いてはこの世界でも有数の腕を持つ鍛冶師である。
鍛冶師とは言っても木工から彫金まで何でも熟すのだ。
モンブラントには豪商、貴族、王族ありとあらゆる金持ちから仕事が舞い込む。
しかし、その誰もが断られても文句を言えず、期限を切れなくても文句を言えず、それ程の腕だという事だ。
「さて。じゃあ仕事の内容を聞こうかの?願わくは作った事の無い様な物が作ってみたいのぅ」
作って欲しい物を言っていく中で、コウスケの二本のナイフにもエルネの細剣にも然して興味を示さなかったモン爺がひとつだけ興味を示した物があった。
「金持ちが持っているとは聞いた事があるが、それを全部木で作るなんぞ聞いた事も無いわい」
「そこを何とか木で作って欲しいんだ」
「ここはどうするんじゃ?」
「ここはこんな感じで組むんだよ」
「なるほどのぅ・・・ならここは?」
「ここは・・・」
「じゃあ・・・」
「それなら・・・」
二人の物作り談義に付いて行けずエルネは窓の外の雲を数えるしかする事が無かった。




