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エドの悲劇

波の出るプールを後にしたコウスケは、エドのいるスライダーへと向かった。


エドは未だにスライダーの上で二の足を踏んでいた。


スライダーを登ったコウスケは、そんなエドに近づく。


「エド?何やってんだ?」


そんな声を掛けながら。


「え?あっ!コウスケ。いや、遠くから見たら楽しそうに見えたんだけどね・・・登ってみるとコレが・・・」


そう言って苦笑いを浮かべるエド。


その足は明らかに震えている。


「なんだよ、ビビってんのか?」


呆れた表情のコウスケは、そう言って自らも下を覗き込んだ。


この施設に作ったスライダーは、ウネウネと走るチューブの中を水と一緒に流れ落ちるタイプの物ではなかった。


簡単に説明するならば、水を流した滑り台。そんな物だった。


しかし、滑り台ほど単調な物では無く、不規則に蛇行したコースはその度に滑り降りる者を左右に大きく揺さぶり、高さも二階建ての一軒家の屋根上程もある。


そんなコースが、蛇行具合の違う5つが横並びに並んでいる。


これは、チューブ状のスライダーを断念したコウスケが、その代わりに田舎で子供達が遊んでいそうな高低差の無い、傾斜の緩やかな滝をイメージして作ったものだった。


身を乗り出して下を覗き込んだコウスケは


「何だよ、別にビビるような高さでもねぇだろ?」


そんな言葉をエドへとかける。


しかしエドは


「結構高いよ?」


と、及び腰だ。


そんな二人の横を、試験開業に選ばれたのであろう子供達が、ゲラゲラと笑いながら走り抜ける。


子供達は何の躊躇も無くスライダーの縁に腰かけると、これまた何の躊躇も無く滑り降りて行った。


甲高い喚声を上げて。


「あんなチビ共でもビビってねぇのに・・・」


そんな言葉と共に、蔑むような視線をエドへと送るコウスケ。


「いやホラ?子供は時々怖いもの知らずなところがあるでしょ?」


エドは苦しい言い訳をした。


そんなエドの言葉に、一つため息を溢したコウスケは


「ハァ・・・仕方ねぇな。んじゃ俺が特別に怖く無い滑り方を教えてやるよ」


そう言ってエドの肩を叩いた。


「ホントッ!助かるよ!きっと最初の一回さえ乗り越えれば、後は楽しめる様になると思うんだ!」


エドはそう言って笑顔を見せた。




「・・・これはどうなんだい?」


コウスケから教わった‘怖く無い滑り方’で滑り降りる準備をしたエドが、そんな疑問を口にする。


「大丈夫だって!俺の目だけ見てれば良いから」


そう返すコウスケ。


「なんか逆に怖さが倍増してる様な・・・」


そう言って顔を顰めたエドは、コウスケが言う通りにコウスケの目を見詰め返す。


二人は今、向かい合っていた。


エドはスライダーの縁に背中を向けて腰掛け、コウスケはそのエドと向かい合う様にしゃがんでいた。


「いいか?高いのが怖い奴は、その高さを認識するから怖く感じるんだ。だったら見なけりゃいい。要するに‘下を見るな’ってヤツだな。怖くねぇだろ?今は」


エドの目を真っ直ぐに見るコウスケは、そんな説明をエドにする。


「いや、確かに高さへの恐怖は薄れてるかもしれないけど、別の恐怖を強く感じるんだけど?」


そう言って、エドは怯え始める。


怯えを見せたエドに、呆れた表情を向けたコウスケは


「エドは怖ぇモンばっかだな?たまには、当たって砕けてみろよ?」


そう言うと、面倒臭そうに頭を掻いた。


「当たって砕ける?それ、失敗してるよね?砕けるんでしょ?」


エドはそう言うと、体を支えていた手に力を込めた。


奮い立たせようとしたコウスケの言葉は、逆にエドの不安を煽っていた。


コウスケはひとつ息を吐くと、諦めた様な表情で立ち上がり


「怖ぇモンは怖ぇわな。まぁ人には向き不向きってのがあるって言うしな?」


そう言って、エドへと手を差し出す。


そんなコウスケを見上げたエドは、少しばつの悪そうな表情で


「でも、いずれ克服してみせるよ!」


そんな言葉と共に体を支えていた手を片方だけ離し、コウスケが差し出した手に手を伸ばした。


すると、エドがコウスケの手を取ろうかという瞬間に


「いつやるんだ?」


そんな言葉がエドへと降り注ぐ。


「へ?」


予想外のタイミングでの質問に、エドがそんな声を漏らす。


しかしコウスケは、端からエドの答えなど待ってはいなかった様に


「今でしょッッ!!」


そう叫ぶと、コウスケの方へと向けられていたエドの足裏を、自らの足で押し出すように蹴り出した。


片手で体を支えていたエドは、コウスケの押し出す力に抵抗出来ず、その身を後方へと傾けていく。


そのまま、足を上に頭を下にして滑り落ちていった。


落ちていくエドが最後に見たのは、笑顔で手を振るコウスケだった。


まっ逆さまに滑り落ちて行ったエドは、スライダーの蛇行に合わせ左右に大きく振られている。


スライダーの最後は、水面から1メートルほど上で切れている。


そこから水面へと放り出される仕様だ。


当然、エドが辿る末路もそれに違わず、スライダーを逆さまに滑り終えたエドは、頭から待ち受けているプールへと放り込まれた。


「・・・派手に散ったな?」


上からエドの様子を眺めていたコウスケは、そんな感想を呟く。


エドが盛大な水音と、派手な水飛沫を上げ落水したのを見届けたコウスケは、エドが水面から顔を出すのを待つ。


しかし、エドが水面から顔を出す前に、コウスケの顔が引き吊った。


何故ならば、まだ波紋が残る水面に見覚えのある水着が浮かんでいたからだ。


急いでスライダーを駆け降りるコウスケ。


コウスケがプールの縁にたどり着くと、エドは既に水面から顔を出し


「酷いじゃないか、コウスケッ!」


と言う声と共に、プールの縁へと向かって来ていた。


「ストップ!止まれ、エド!」


水を掻き分けながらコウスケの方へと進むエドへ、そう叫ぶコウスケ。


周りには先程の子供達が、エドの見事な逆さ滑りに興奮した様子で集まっていた。


コウスケは、エドの背後に浮かぶ水着を指差しながら


「脱げてる!脱げてるからッ!」


そう必死に叫ぶ。


しかし、自らが掻き分ける水音で聞こえないのか


「え?どうしたんだい?これ以上僕にイタズラを仕掛けようってつもりじゃ無いだろうね?」


呑気にそう言いながら、水の中を歩くエド。


これは助からない。そう思ったコウスケは・・・逃げた。


逃げ出したコウスケの耳には


「うわッ!領主様、すっぽんぽんだぜ!」


「ホントだ~!」


そんな子供達の声と


「エ?・・・!?~~~~ッ!!」


という、エドの声にならない声が聞こえていた。




何度も背後を振り返りながら、コウスケが次に向かったのは競泳用のプールだった。


途中に通った飛び込み台には、ミランダの姿が無かったからだ。


競泳用のプールには、シャズがコウスケとの勝負を待っている。


競泳用プールに近づいたコウスケは、シャズの姿を探す。


姿は見えないが水音がすることから、シャズは泳いでいるとあたりを付けたコウスケは、這う用に進むと全体が見渡せる位置で止まり伏せた。


「出来れば負けたくはないからな?どれ程のもんか敵情視察だ!」


そう呟いたコウスケは、水面にシャズの姿を探す。


コウスケが見つけたシャズは、中央のレーンで堂々と泳いでいた。


そんなシャズの泳ぎを見たコウスケは


「あれは・・・のし?だったか?」


そう呟き、目を見開いた。


シャズは、日本では「のし」などと呼ばれる横泳ぎで泳いでいた。


のしとは、半身を常に水面から出した状態で、水中にある方の腕を伸ばし、水上にある方の腕で水を掻いて進む泳法の事だ。


日本のものは、重い甲冑姿でも泳げる様にと編み出されたものだとか。


そんな情報を頭の中で思い出していたコウスケは


「・・・イケるッ!」


そう言って立ち上がると、プールの縁へと歩き出した。


コウスケがプールの縁で待っていると、泳ぎ着いたシャズがコウスケに気づいた。


「コウスケ、ようやく来たか。直ぐに始めるか?」


コウスケを見上げたシャズが、そう尋ねる。


そんなシャズの問いに


「泳ぎ疲れてた、なんて言い訳されたくねぇからな?少し休んでからでどうだ?」


両手を腰にあて、仁王立ちでシャズを見下ろしながら言うコウスケ。


「フッ。いいだろう」


コウスケの言葉にそう返したシャズは、プールの縁に手をかけると、一息に体を持ち上げた。


そのまま立ち上がり、コウスケの横に並ぶと


「泳ぐというのがこれ程気持ちが良いとは。忘れていた様だ」


そう言うと、顔に付いていた水滴を爽やかに払うシャズ。


コウスケは、その仕草も含めたシャズの全体を見て、舌打ちをするのだった。


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