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案件2

次にコウスケが向かったのは縫製屋・マリーだった。


因に、エルネは新たに手に入れた弓を試してみたいとギルドへ向かった。


故に一人となったコウスケ。


しかし、この縫製屋・マリーへの道中で散歩中だった小次郎を見付け、見事捕獲に成功していたコウスケ。


散歩を邪魔され不機嫌を顔に張り付けた小次郎を肩に乗せ、縫製屋・マリーの前に立っていた。


「貴様は使いも一人で行けんのか?」


肩の上からの呆れを含んだ言葉に、目を逸らすコウスケ。


そんなコウスケの様子を見た小次郎は


「猫の手も借りたいとは言うが、そこまで忙しい様には見えんがな?」


そう続けると、猫の手をコウスケの頬へと押し付けた。


コウスケはその手に抵抗して頬を潰すと、小次郎に横目を向ける。


「・・・いや、借りたいのは手だけじゃないんだけどな?」


そう言うと、再び目を逸らす。


そんなコウスケに不穏なものを感じたのか


「・・・貴様、何を企んでおる」


そう、声を低くして言う小次郎。


しかし、コウスケは


「まぁ・・・使い魔としての初仕事って事で」


と、小次郎に目を向ける事無く言った。


そして、眉間にシワを寄せる小次郎の言葉を待つこと無く、目の前の扉を開き踏み入った。


「おばちゃ~ん!注文したモン取りに来たぞぉ~!」


中に入ると同時に、そう声を上げるコウスケ。


小次郎に喋る隙を与えないようにしている様だった。


すると、コウスケの声に答える様にカウンターの奥に引かれていたカーテンが開く。


そこから現れたのは、この店の店主マリーだった。


「ハイハ~イ・・・ってアンタかい」


店先にいるのがコウスケだと気づいたマリーは、そう言ってカウンターについた。


そんなマリーの言葉に、コウスケは恐る恐るカウンターに近付く。


コウスケのそんな様子に、眉を寄せるマリー。


しかしコウスケはマリーには目もくれず、その背後にあるカーテンの奥に目をやる。


そこには、仕事に励む針子達が。


しかし、マリーの言葉でコウスケが訪れた事を知ったのか、針子達もカーテンの向こうに目をやっていた。


そうして、図らずも針子達と目が合ってしまうコウスケ。


見られている事に気づいたコウスケは、気まずげに目を逸らす。


一方の針子達は、コウスケの姿を確認すると顔を赤らめヒソヒソと囁き合った。


「大変な仕事持って来といて、一度も顔出さないと思ってたら・・・まだ気にしてんのかい?」


コウスケの様子に、呆れた様に言うマリー。


マリーの言葉に苦笑いを浮かべるコウスケ。


そして、徐に手を上げる。


その手は自らの肩に伸びると、その上にいた小次郎の首を掴んだ。


突然首根っこを掴まれた小次郎は


「なッ!貴様ッ、何をするッ!?」


そう、驚きの声を上げた。


それを聞いたマリーは


「なッ!?喋るのかい?その黒猫」


同じ様に驚いている。


しかし、コウスケはそんなマリーには答えず、ぶら下げた小次郎を振りかぶるとカーテンの奥へと投げた。


「頑張れ・・・」


そんな言葉と共に。


見事針子達のド真ん中に放り込まれた小次郎。


すると、コウスケに注目していた針子達は、投げ込まれた小次郎に気づいた途端、黄色い声を上げ小次郎に群がった。


針子達に揉みくちゃにされる小次郎を確認したコウスケは、ひとつ頷くと


「それで?連絡が来たって事は、出来上がったんですよね?」


そう、本題を切り出した。


しかし、コウスケの行動と、自らの店の従業員の様子に顔を引き吊らせたマリーは


「アンタ、その為に黒猫連れて来たのかい?アレじゃまるで生け贄じゃないかい。それにあの娘達を見なよ?仕事そっちのけじゃないかい。困るねぇ、アンタのお陰で細かい仕事が溜まってんだよ?」


そう言ってコウスケを見る。


しかしコウスケは、死んだ魚の様な目で遠くを見ると


「・・・あんな視線には耐えられない」


そう呟いた。


「ちっちゃい男だねぇ?頬を染めた若い娘に熱い視線を送られてんだよ?少しは喜んだらどうだい?」


遠くを見つめるコウスケに、そんな言葉をかけるマリー。


口の端が僅かに上がっているあたり、コウスケをからかっている様だ。


「そういう目じゃねぇだろ?アレは」


マリーのからかいに、そう言い返すコウスケ。


「全く・・・じゃあちょっと待っといで。今品物を取って来るから」


呆れつつも、そう言ってカウンターを離れるマリー。


「カーテン閉めれば済む話なのにねぇ」


そう呟きながらどこかへ消えていった。


良いように遊ばれる小次郎をしばらく眺めるコウスケ。


そうしているとマリーが戻ってきた。


抱える程の木箱を四つも抱えて。


「よっと・・・これが注文の品だよ?確かめてみな?」


カウンターに木箱を置いたマリーはそう言うと、木箱をひとつ開け中の水着を取り出す。


取り出した水着をカウンターに広げると、コウスケの前に滑らせた。


広げられた水着を手に取り持ち上げるコウスケ。


それは紛う事なく、女性用の水着だった。


コウスケが手にしたのは、上から下までひとつなぎのワンピースタイプだった。


「注文通り上と下が分かれてるのもあるよ?それぞれ色違いもいくつか用意したからね」


水着を確かめるコウスケにそう説明して、残りの木箱を顎で指すマリー。


その言葉に、そちらも確認して問題が無いと言う様に頷くコウスケ。


「ちゃんと着心地なんかもウチの娘達で試してもらって作ったから問題無い筈さね?」


そう続けるマリー。


それを聞いたコウスケは、手に持つ水着に目を見開く。


しかし


「残念だったね。試作品で、だよ。一度でも着た物を渡せる訳が無いだろ?」


コウスケの考えを見透かした様にニヤけながら言うマリー。


「ハ、ハァ?そんな事考えてねぇし!直に着たのか、それとも間に一枚着たのかなんて考えてねぇし!」


そう答えるコウスケの目は泳いでいた。


「・・・アンタ、分かり易いねぇ」


そう、呆れた表情で言うマリー。


そして


「そんなに欲しけりゃアンタにあげようかい?」


そう続けたマリー。


マリーのそんな言葉に


「・・・」


黙り込むコウスケ。


しかし、ゴクリッという音がマリーの耳には届いた。


「アンタも素直じゃないね?・・・あの娘達には内緒だよ?」


そう言うと、背後のカーテンを閉じるマリー。


そして、カウンターの下から先程の水着と同じ様な水着を取り出し、それをカウンターに乗せた。


カウンターに乗せた水着から顔を上げるとパチリと片目を閉じ、コウスケの方に押し出す。


「おばちゃんッ!!」


マリーの言動に、コウスケは歓喜の声を上げた。


「まっ、最後に試着したのはアタシだけどね」


領収書か何かを書きながら、そう呟くマリー。


差し出された水着を手に取り、キラキラとした目で掲げていたコウスケだったが、その呟きに


「台無しだよッ!!」


そう言って、床に水着を叩きつけた。


マリーは


「失礼なヤツだね?アタシだって歴とした女さねッ!!」


そう抗議の言葉を上げるが、表情はさして怒りはしていなかった。


マリーの言葉に、水着を床に叩きつけた体勢を元に戻すコウスケ。


その顔は完全に表情の消えた真顔だった。


そして


「お会計お願いします」


そう、抑揚の無い声で静かに言うコウスケ。


その様子に小さく笑ったマリーは


「本当に分かり易いね?アンタ。・・・それならウチの娘一人連れてくかい?アンタ意外と良いもん着てるしね?金持ちなんだろ?浮気が少し心配だけど、金があれば我慢も出来るってモンだ。どうだい?」


そう言って目を光らせる。


おそらく本当の娘では無いのだろう。


似ているとは間違っても言えず、人数が人数だ。


親元から従業員として預かっている、と言ったところか。


しかし、そんな従業員を実の子供の様に可愛がっているマリーは、その娘達に良い相手を見繕い、縁談をまとめ、幸せになってもらう事も自分の仕事だと思っていた。


故に、コウスケの様な金持ちそうで人柄も悪くなさそうだと判断した客には、こうして声をかけているのだ。


しかしコウスケは


「いえ、結構です。間に合ってます。お会計お願いします」


そう、表情ひとつ変えずに答える。


「さっきみたいな反応するヤツが間に合ってるモンかね!意地張らずにどうだい?不自由無く生活させる。泣かさない。この二つさえ守ってくれれば良いからさ?ん?ん?」


そう言うマリー。


頼んでいるのか、押し付けているのか分からない程コウスケに迫っている。


一方コウスケは、鋭い指摘に僅かに表情を崩しかけたものの


「・・・小次郎ぉ~?帰るぞぉ~?」


そう、カーテンの向こうに声をかけ、マリーから目を逸らす事に成功する。


そんなコウスケに、尚も食い下がろうと口を開くマリーだったが、その前に


「ンンガァァ~!!人間共めッ!皆殺しにしてやるッ!!」


そんな咆哮がカーテンの向こうから聞こえた。


ゾッとするそんな言葉に、開いていた口を閉じコウスケを見るマリー。


おそらく「大丈夫なのかい?」と言ったところだろう。


しかし、そんな視線にコウスケは答える事はせず、代わりに両肩を上げおどける様な仕草で返した。


何故ならば、カーテンの向こうからは逃げ回る小次郎の足音。


それを、喜色の籠った声を上げ追い回している様に聞こえる複数の足音。


先程聞こえた耳を疑う様な言葉が実際に行われているのならば、足音は逆、歓声は悲鳴でなくてはおかしいのだ。


コウスケのその態度と、聞こえてくる音の違和感に気づいたマリーは、表情を弛めカーテンへと振り向く。


丁度その時、重力に従って垂れ下がっていたカーテンの中央あたりが、何かが突っ込んだ様に膨らむ。


ボフッと音を立てたその膨らみは一瞬で消え、そのすぐ後にカーテンの裾から可愛い前足が現れた。


それを見下ろすコウスケとマリー。


しばらく見ていると、ゆっくりと這い出してくる小次郎。


満身創痍といった様子で頭まで出した小次郎は、見下ろしているコウスケを見付けキッと睨み上げる。


文句でも言おうとしたのか大きく息を吸ったところで、こちらに出ている小次郎の体がビクリッと強張った。


小次郎の変化に気づいたコウスケは首を傾げる。


不思議に思ったコウスケが注意深く小次郎を観察すると、這いつくばり顔の前に伸ばしている前足の先から鋭い爪が出ている。


それに気づいたコウスケは、眉を寄せた。


その瞬間に、頭まで出ていた小次郎が僅かにカーテンの向こうへと引き込まれる。


その光景に


「・・・あぁ!」


と、納得したような声を上げるコウスケ。


その間にも、小次郎は床に爪痕を残しズルズルと引き込まれていく。


その様子を、おもしろ動物映像でも見ている様に、微笑みながら眺めるコウスケとマリー。


小次郎は鬼の様な形相で踏ん張っていた。


それをしばらく楽しんでいた二人だったが、小次郎が完全に引きずり込まれるかという所で


「さて。どれくらい仕事が進んでるか、そろそろ確認しとくかね?」


そう、カーテンの向こうに聞こえる様に態とらしく呟くマリー。


途端に小次郎の後退が止まる。


チャンスだとばかりにこちらに飛び込んでくる小次郎。


尻尾どころか尻まで丸める様にして、ほぼ前足だけで移動していた。


小次郎の生還を確認したコウスケは、カウンターの上の木箱を魔法鞄に押し込むと、空いたその場所に代金を乗せた。


それを見たマリーは


「仕事が溜まってるって忘れてたわ。もう少しアンタをからかってても面白そうだけど、アンタがいる間は・・・いや、その喋る猫ちゃんがいる間は、あの娘達も身が入りそうに無いからね?仕方ないさね」


そう言って、コウスケが出した代金を数え始める。


しばらくしてマリーが代金を数え終わると


「確かに。金払いの良い客は助かるよ。また作ってほしい物があったらいつでも来な?アンタみたいな客は大歓迎さね。それまでにさっきの話も考えといておくれ」


そう言って、最後にニヤリと笑う。


そんなマリーの言葉に数秒黙ったコウスケは


「・・・結構です。間に合ってます。ありがとうございました」


そう、酷く棒読みで返すと、伸びきった小次郎をつまみ上げ出口へと向かう。


そんなコウスケの背中に


「ちょっとアンタッ!忘れ物だよッ!」


カウンターから身を乗り出し、床に落ちている水着を指差し言うマリー。


しかし、コウスケは振り向く事無く店を出ていった。





「貴様、ワシを魔物の巣窟に放り込んでくれたな?覚悟は出来とるんじゃろうな?ん?ん?」


縫製屋・マリーを出てしばらく歩いた所で、いつも通りコウスケの肩へと移動した小次郎が、コウスケの頬に頭突きを見舞いながら言った。


しかしコウスケは、煩わしそうに頭突きを受けると


「ご主人様を身を呈して守るのは、使い魔として当然だろ?」


そう返す。


途端に頭突きの強さと回数が増える。


「誰がご主人様じゃ!覚えておれ!貴様は必ず食い殺してやるわッ!!」


頭に来たのか、その怒りをぶつける様にそう言って頭突きを繰り返す小次郎。


しかしコウスケは


「面倒臭ぇよ。小次郎が覚えとけば良いだろ?」


そう、気にした風も無く答えた。


この日、小次郎はピィちゃんに何度も挑み掛かった挙句、仲裁に入ったエルネに可愛い猫パンチを繰り出し、それに反応したピィちゃんにシャレにならないドロップキックを食らうなど、荒れに荒れたそうだ。


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