小次郎の過去
「え?それって、これから目覚める力とか、勿体ぶって見せてない力とかじゃなくて?言葉通り誰かに力を隠されたって事?」
小次郎が鼻で笑うのも気にする事無く、そう問い返すコウスケ。
「理解が遅いの?そういう事じゃ」
そう答える小次郎。
「ふ~ん・・・って事は、さっき言ってた、本気出せばとか、高位の使い魔ってのは本当の話なのか?」
再び小次郎に質問を投げるコウスケ。
しかし、それ程興味が無いのか、その質問はタバコを取り出しながらの言葉だった。
そして、一服の為か通り掛かった石垣に腰を下ろすコウスケ。
小次郎もコウスケの肩から飛び降りると、コウスケの隣に座る様に石垣に腰を下ろす。
「そこから信じておらんかったのか?言うておくが、力を隠される前のワシはこんな猫の姿とは比べ物にならん程凛々しい姿なのじゃ!如何にふざけた性格の貴様でも、思わず跪いてしまう程のなッ!」
コウスケの態度が気に食わなかったのか、小さな体を精一杯伸ばし、何とか見下してやろうという様子で抗議する小次郎。
しかしコウスケは
「ヘェ~・・・」
素っ気なくそう答えると、咥えたタバコに火をつける。
「聞いておるのか!?煙なぞ吸いおって!」
そう抗議の声を上げる小次郎だが
「フゥ~~・・・聞いてる、聞いてる。昔はスゴかったぞ!って話だろ?年寄りは皆するんだよ。そういう話」
と、さして信じていない様子で答えるコウスケ。
「なッ!?ワシの話は本当じゃ!!」
そう息巻く小次郎。
そんなムキになっている小次郎を、煙を吐き出しながら眺めたコウスケは
「フ~ン・・・じゃあ聞くけど、そんなスゲェ奴だったのに何で力隠されるんだ?それってソイツに負けたって事だろ?」
そう言って、どうだ?とでも言わんばかりのしたり顔をする。
それを聞いた小次郎は、ゆっくりと前を向くと、何かを思い出す様に空を見上げる。
「・・・人間と言う奴等は数だけは多いからな。まさかあれ程の命を犠牲にしてワシの力を奪いに来るとは思わなんだのじゃ」
そう遠くを見て言う小次郎。
それを、タバコの灰を落としながら聞いていたコウスケ。
そんな話半分という様子だったコウスケだったが、小次郎のその言葉に動きを止める。
そして
「・・・ちょっと待て。それは、大勢の人間が命を賭けて小次郎を倒そうとしてたって事か?」
急に雲行きが怪しくなってきた話に、顔を引き吊らせ始めるコウスケ。
しかし小次郎は、そんなコウスケの事などお構い無しに
「ん?あぁ、そうなんじゃろうな?」
そう軽く答えた。
「ん?ん?ちょ、何か分かんなくなって来た・・・その時は小次郎、使い魔じゃ無かったのか?」
そう言うと、重要な話だと考えを改めたのか、慌ててタバコを揉み消すコウスケ。
「いや。使い魔じゃったよ?」
当たり前とでも言う様に答える小次郎。
「って事は、呼び出されたんだよな?」
「当然じゃ」
「人間に?」
「そうじゃ」
「契約は?」
「しとらん」
「何で?」
「考えてもみろ?ワシの様な高位の存在を、あんなちっぽけな生き物が呼び出すなぞ許せるか?」
「いや、使い魔召喚ってそういう物だろ?・・・で?どうしたんだ?」
「腹が立ったんで、人間の街を2、3消し飛ばしてやったわ!そうしたら、まぁワラワラと」
軽快な掛け合いでもする様に、テンポ良く言葉を交わす二人。
しかし、小次郎の最後の言葉を聞いたコウスケは、少し間を取って会話を切ると
「・・・小次郎。それって・・・お前封印されたんじゃね?」
そう言って、表情を盛大に引き吊らせた。
しかし小次郎は
「フッ、何を馬鹿な事を。確かに力を削がれ、この姿でしか存在出来なくはなったが、送り返された向こうで自由を奪われた事は無いぞ?封印とはそれすら奪う事を言うのじゃ」
そう言うと、呆れた様に鼻で笑った。
「・・・この際、その向こうってのがどこなのかは置いといて。それ以来こっちには呼ばれなかったんだろ?」
新たに気になるワードが出てきたが、今はそれどころでは無いと話を進めに掛かるコウスケ。
そんなコウスケの質問に
「何を言うとる?ワシはこうして、こちらにおるではないか」
そう言って猫の顔で器用に眉を寄せると、怪訝な表情を作る小次郎。
「いや、俺に呼び出されるまでの間にって事だよッ!」
そう焦れた様に声を上げるコウスケ。
「まぁそれはそうじゃが・・・しかし、呼び出されて役目を終えた使い魔は、次に呼び出されるまでに時間が掛かるのは普通じゃぞ?ワシの様に高位の使い魔ともなれば、その力に見合った契約者が現れるまでに時間が掛かる事にも頷けると言うものじゃ。第一貴様は呼び出したではないか?ワシを」
怪訝な表情を崩さず、そうコウスケに返す小次郎。
そんな言葉を聞いたコウスケは、小次郎の言葉に答える事無く頭を抱える。
そして
「うわぁ~・・・俺じゃん。ヤっちゃってんじゃん俺。アレ絶対封印の一環じゃん?」
そうブツブツと呟き始めるコウスケ。
急に頭を抱え、何事かを呟き始めたコウスケの様子に、首を傾げる小次郎。
その仕草は実に愛らしいものだった。
「何を一人でブツブツ言うとる?頭なんぞ抱えおって」
しかし、その口から出る言葉は、酷く年寄り染みたものなのだが。
そんな小次郎の言葉に顔を上げたコウスケは
「・・・やっぱ封印されてたんだよ、小次郎。それを俺が解いちまったんだ」
そう呟く様に小さな声で言った。
そして、落ち着く為なのか、再びタバコを取り出すコウスケ。
「どういう事じゃ?」
分からないという表情の小次郎。
タバコで一息ついたコウスケは
「一般的に使われてた使い魔召喚の魔方陣には、特定の種類を呼び出さない様にする‘制限’が掛かってたんだ。俺が小次郎を呼び出した時、ソレが不必要に感じて外しちまったんだよ。多分あの‘制限’は、小次郎が呼び出されない様にする為の物だったんだ。要するに、小次郎は‘向こう’に封印されてたんだ」
そう言って肩を落とす。
「ホウ?力を奪うだけでは飽きたらず、念入りな事じゃの?まぁ、それが本当ならば少しは貴様に感謝してやっても良いぞ?」
呆れる様な、感心する様な言葉を漏らした後、猫の顔で器用にニヤけると、そうコウスケに言う小次郎。
しかし、その言葉に答えないコウスケ。
そんなコウスケに
「ワシが感謝してやると言っておるのに・・・何を落ち込んでおる?」
小言でも言ってやろうと思ったのか、そう言って腹立たしげにコウスケを見た小次郎だったが、落ち込んでいる様子のコウスケが目に入り、小言を途中で切り上げ、そんな事を尋ねる。
その言葉に、しばらく間を置いて答えるコウスケ。
「・・・俺は昔の人の犠牲を無駄にしちまったって事だろ?」
と。
しかし、そんなコウスケの言葉を聞いた小次郎は
「何じゃ?会った事も無い人間の事で落ち込んでおるのか?思ったよりも繊細なんじゃな?貴様」
そう言って鼻で笑った。
そんな小次郎の言葉に、ジロリと小次郎を睨むコウスケ。
そして、力強くタバコを揉み消すと
「決めたッ!俺は小次郎が人に危害を加えない様に監視するッ!それが、封印を解いちまった俺の責任だッ!!」
そう立ち上がり宣言する様に声を上げるコウスケ。
その様子を見上げた小次郎は、呆れた様な表情を作ると
「そうしたいなら好きにすれば良いじゃろ?まぁ、今のワシに何が出来ると言う話じゃがな?それこそ、太った鳥にも負かされる様なワシに・・・じゃが、仮にワシが力を取り戻した時。貴様に何が出来るかの?」
そう言った。
しかし、最後の一言を呟いた時、小次郎のその目には獰猛な光が灯っていた。
そんな小次郎の目にも怯まずに、真っ直ぐに見返したコウスケは
「舐めんな?言う事聞くまでぶん殴ってやる!それに忘れたのか?使い魔は、実力に見合った契約者に呼び出されるんだろ?小次郎を呼び出せた俺は、小次郎に見合った実力を持ってるって事だ」
そう真剣な表情で言った。
コウスケのその言葉を聞いた小次郎は
「・・・それは楽しみじゃの」
そう言うと、瞳に灯していた獰猛な光を一層強くする。
しばらくそうして睨み合っていた二人だったが
「フッ、まぁ精々ワシの力が戻らぬ様に祈る事じゃな?」
表情を崩し、先にそう口を開く小次郎。
「うっせ!」
コウスケも表情を崩し、そう答える。
そんなコウスケの言葉を合図に、話は終わりとでも言う様に石垣から飛び降りる小次郎。
そのまま歩き出すのかとコウスケも小次郎を追う姿勢を取るが、不意に小次郎が振り返る。
そして
「そう言えば、前にワシを呼び出した人間は、その場で食い殺したのじゃったな?」
まるで独り言の様に、そう言った小次郎。
しかし、その視線は確りとコウスケに向けられている。
それだけ言うと、小次郎は歩き出した。
小次郎の言葉を聞いたコウスケは顔を顰め、その後首を捻る。
そして、小次郎の言葉の意味を理解したのか
「・・・実力が見合った相手なんじゃねぇのかよッ!」
そう叫ぶと、慌てて小次郎を追う。
小次郎は
「さぁの」
そう答えただけで歩き続けた。
そんな小次郎に追い付いたコウスケは
「力を取り戻す方法を探すか?」
そう顎に手を当て呟く。
「何じゃ?そんなにワシに食い殺されたいのか?」
猫の顔で意外そうな顔を器用に作った小次郎が、そう言ってコウスケを見上げれば
「力が戻らない様に全力で破壊するか封印する!」
そう言って、力強く頷くコウスケ。
「方法が見つかった時点で、貴様とはオサラバじゃわい!」
「ズリィぞ!?・・・なら、‘向こう’とやらに送り返して、そのまま呼び出さねぇかんな?」
「それは卑怯じゃ!」
「卑怯もクソもあるか!」
「いーや。卑怯じゃ!」
この日、冒険者ギルドと宿屋の間で、黒猫と真剣に言い争う不審な男が目撃されたそうだ。




