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小次郎との色々

翌朝。


朝食前にコウスケの部屋へと集まった、三人と一羽と一匹。


部屋に備え付けられていた丸テーブルに着き、話をしていた。


昨夜の内に、冒険者組二名と小次郎との顔合わせは無事に済んでいた。


喋る猫。という事で驚きはあったものの、距離を詰める早さが異常なエルネと、誰に対しても礼儀正しいミランダは、すんなりと小次郎を受け入れた。


しかし、適度な距離を測れるミランダは小次郎からも受け入れられていたが、そうでは無いエルネは


「コジちゃん、おはよ~!昨日も思ったけど、毛ツヤツヤだね?撫でちゃおっ!あぁ~尻尾も可愛い!あっ、肉球っ!!」


「よ、止せ!やめろッ!は、離せッ!!無礼なヤツめッ!」


過剰なスキンシップにより、受け入れてもらえてはいなかった。


小次郎の猫故の気質か、或は、エルネが一方的過ぎるのかは、コウスケには分からなかったが


「ウムム・・・いい加減にせんかッ!」


揉みくちゃにされる事に我慢しきれなくなった小次郎がそう声を上げると、実に猫らしい動きを発揮してエルネの腕から脱出する。


「ワッ!?」


腕の中で小次郎に暴れられたエルネは、そんな声を上げると小次郎を手放した。


脱出に成功した小次郎は、これ又猫らしい動きでコウスケの体を登ると、定位置と決めた肩の上に腰を下ろす。


「餓鬼は嫌いじゃ」


そう言い放ち、コウスケの肩の上で毛繕いを始める小次郎。


そんな小次郎に、今足蹴にされたにも関わらず、キラキラと目を輝かせ熱い視線を送るエルネ。


それを見ていたコウスケは、昨夜に起きたある事件を思い出し


「エルネ、そのくらいにしとけ?じゃないと、そろそろアイツが黙って無いぞ?」


そうエルネに忠告を飛ばす。


その言葉に、ハッとした表情を見せたエルネは慌てて膝の上に手をやるが


「アララ」


そんな声と共に、膝元から飛び上がった何かを目で追うと眉尻を下げた。


エルネの手をすり抜ける様に飛び上がった何かは、危なげ無く机に着地すると


「ピィィィィッ!!」


そう威嚇とも取れる鳴き声を上げ、コウスケの肩の上の小次郎を睨んだ。


「フン!またワシに挑もうと言うのか?デブ鳥め。昨夜で懲りておけばよいものを」


猫の顔で器用に口元を歪めた小次郎は、コウスケの肩の上からピィちゃんを見下ろし、そう言った。


コウスケが思い出していた昨夜のある事件とは、コウスケが二人に小次郎を紹介した時、今しがたの様な反応を見せたエルネに焼きもちを焼いたピィちゃんが、小次郎に襲いかかるという事件だった。


大好きなご主人様が自分以外の動物にその様な反応をすれば、その原因である小次郎を亡き者にしようと動こうというピィちゃんの気持ちも分からなくは無い。


しかし、そのせいで昨夜は大騒ぎだったのだ。


昨夜の二の舞を避けようと、コウスケはエルネへと言葉を掛けたのだが、それは遅かったようだ。


机の上で闘志を燃やし小次郎を見上げるピィちゃん。


そんなピィちゃんを、余裕の表情で見下ろす小次郎。


一触即発の雰囲気が丸テーブル周辺を包んでいるが、流石に朝から騒がしくしては宿に迷惑だ。


そんな判断からか、其々の飼い主は其々のペットを止めに掛かる。


「ピィちゃん?ダメだよ、そんな事しちゃ!心配しなくてもピィちゃんが一番だからね?」


机の上で荒ぶるピィちゃんを、両手で抱き寄せたエルネは、そう声を掛け宥める。


一方のコウスケは、エルネの様に小次郎を抱き寄せる事はしないが、顔の真横で魔王の様に邪悪な笑みを浮かべる小次郎に


「小次郎もあんま挑発すんな?仲良くしてくれよ」


そう言って肩を揺する。


エルネの抱擁によってピィちゃんの闘志は鳴りを潜めたが、コウスケの肩の上の小次郎は


「ワシに挑もうなどと馬鹿な事を考える、そのデブ鳥が悪いのだ!」


と、未だに魔王の様な台詞を吐いている。


小次郎のそんな言葉を聞いたコウスケは、呆れた表情は変えずに小次郎からピィちゃんに視線を移すと


「いや。昨日ボロッカスにヤられてたの小次郎の方じゃん」


そう呟いた。


コウスケの呟きに、エルネとミランダは顔を背けて震え出す。


ピィちゃんも心なしかニヤついている様にコウスケには見えた。


昨夜の一戦の勝者はピィちゃんだった。


空き地の決闘の再現かとコウスケが思う程に、一方的な一戦だったのだ。


「あ、あれは・・・遊びが過ぎただけじゃ!ほ、本気出せば一捻りなんじゃッ!!」


そう取り繕う小次郎。


「ギルドの訓練場、取ってやろうか?」


そう小次郎を追い込むコウスケ。


「・・・」


小次郎は無言で顔を背ける。


顔を背けた時に見えた首筋のひっかき傷が、何とも痛々しくコウスケには見えたのだった。





二人と一羽を見送った一人と一匹は今、ガラルクラフトの街を歩いていた。


歩いているのはコウスケだけで、小次郎は定位置である肩の上に乗っているだけではあるが。


そんな、黒猫を肩に乗せたコウスケが向かっているのは、工房・モンブラント。


弓の進捗具合を見るついでに、小次郎も紹介しておこうというつもりの様だ。


小次郎と雑談を交わしながら歩いたコウスケは工房に着く。


慣れた様子で裏へと回ると、見慣れた背中を見つけ声を掛けた。


「ウィーッス。どんな感じ?」


モン爺の背中にそんな軽い言葉を投げると、ゆっくりと振り返るモン爺。


声だけでコウスケだと分かったのか


「おうっ。コウスケか?」


振り返る途中。コウスケの姿を確認する前から、そんな言葉を返す。


しかし、確りと振り返り、コウスケの姿を確認すると


「・・・何だ、そのくろ助は?ん?猫か?よくそんな物乗せて歩けるな?というか、よく大人しく乗っておるな?」


やはり小次郎が気になったのか、そう言って小次郎を見るモン爺。


ドワーフであるモン爺が、人間であるコウスケの肩の上を見ると、必然的に見上げる形になる。


逆に、小次郎からはモン爺を見下ろす形になる。


流石に猫に見下ろさせたままでは失礼か。と、小次郎を降ろそうかと考えるコウスケの耳に、正に耳を疑う様な言葉が飛び込んできた。


「何じゃ?この失礼な毛むくじゃらは?このワシをくろ助?そんな物じゃと?貴様こそ毛の生えた樽の様な姿ではないか!しかも大分と小さい。子供か?・・・あぁ!ドワーフというヤツか!見ろコウスケ。お前もワシの前では、これくらい頭を下げんとな?」


この工房の主を見下ろし、そう言い放つ小次郎。


コウスケは背中に冷たい物が流れるのを感じた。


しかし、モン爺は


「ガッハッハッ!何じゃコレは?喋ったぞい!どういう仕組みじゃ?魔法でもつこうとるのか?」


そう豪快に笑うと、物珍しそうに小次郎を見上げる。


更には、短い腕を一杯に伸ばし、小次郎の顔の前まで持っていくと、野太い指をユラユラと揺らし始める。


「クッ!な、何じゃこの攻撃はッ!?か、体が勝手にッ!!」


そう驚愕の声を上げる小次郎だが、その姿は誰が見ても、猫じゃらしにじゃれ着く猫その物だった。


そんな楽しげなモン爺と、楽しげ?な小次郎を見たコウスケは、内心で胸を撫で下ろす。


そして、小次郎を肩から降ろし、案内された椅子へ腰を下ろすと、小次郎が使い魔である事を説明した。



「何じゃ、そうじゃったのか。ワシはてっきりコウスケが魔法で喋らせておるのかと思ったわい!生意気な口の利き方がコウスケそっくりじゃったからな」


説明を聞いたモン爺は、そう言って笑った。


特に気にしている様子は無いようだ。


「流石に俺はここまで失礼な事は言わねぇよ」


そう反論するコウスケだったが


「大した違いは無いわい。飼い主に似るっちゅうヤツじゃ!まぁ、さっきのそのくろ助の口ぶりからすると、どっちが飼い主か分からんがの!」


そう言って愉快そうに笑うモン爺。


それを聞いたコウスケは、面白く無さそうに顔を顰めるが


「何じゃ!話の分かる髭樽ではないか!そうじゃろう?ワシの方が飼い主らしいじゃろ?」


そう言って、小次郎が得意気に割り込んで来る。


モン爺は


「そうかもなぁ!!」


そう言うと、膝を打って一際豪快に笑った。


その後は、不貞腐れながらも弓の進捗状況を確認し、材料の確認や雑談を交わすコウスケ。


一通りの確認を終えると、来た時同様、小次郎を肩に乗せ工房を後にする。



通りへと出たコウスケと小次郎。


「結局ヒマになっちまったなぁ」


そう呟くコウスケ。


モン爺の工房への顔出しも終えた今、特にやる事が思い付かないのだろう。


そんなコウスケの呟きに、顔のすぐ隣から返事が返ってくる。


「それならば、朝に会った二人の様に依頼とやらに出掛ければ良いだろう?」


小次郎のそんな返事が。


小次郎のそんな言葉に、眉を寄せ顔を向けたコウスケは


「それは面倒臭ぇじゃん?」


そう返した。


猫の顔で器用に呆れた表情を作った小次郎は


「そんな精神で良くワシを呼び出せたものじゃな?」


そう言って首を振る。


その言葉に


「え?何?使い魔呼び出すのに、そういうの関係あんの?」


そう尋ねるコウスケ。


「呼び出される使い魔は、術者の実力に見合った者が選ばれるのは知っておるじゃろ?ワシの様な高位の使い魔を呼び出すのは、努力を怠らず研鑽を重ねる事を苦とも思わない様な者であるべきじゃ!今朝のあの二人ならばまだしも、フラフラとしておる貴様の様なヤツに呼ばれるとは・・・」


そう言って項垂れる小次郎は、器用に猫の額を肉球で押さえる。


そんな小次郎に、細めた横目を向けたコウスケは


「誰が高位の使い魔だって?鳥に負ける様な使い魔の事じゃねぇだろうな?」


そう皮肉めいた言葉を吐く。


そんなコウスケの言葉に、項垂れていた小次郎は目を吊り上げると


「だ・か・ら!本気を出せば一捻りだと言ったろうがッ!」


コウスケの頬に肉球を押し付けながら、語気を強め言う。


そんな小次郎の行動に、思いがけず癒されるコウスケだったが、それを表には出さずに


「その台詞を吐くヤツは大した事無い。って相場が決まってんだよ!悔しかったら見せてみろ?その本気ってヤツを」


そう煽る様に言った。


コウスケのその言葉に、コウスケの頬を押していた肉球を引いた小次郎は


「・・・今は無理じゃ」


そう短く答えた。


「ホラ見ろ!どうせ意地張ってんだろ?それとも何か?「ワシには隠された力が!」とか言っちゃう系?」


小次郎の言葉にそう返したコウスケは、笑いを堪える様に小刻みに肩を揺らした。


しかし、小次郎は不意に遠くを見ると


「‘隠された’力、か・・・言い得て妙と言うヤツじゃな」


至極真面目な声色でそう呟いた。


その言葉と声色に、小次郎の雰囲気が変わった事に気づくコウスケ。


「え?マ、マジで?マジで何か隠してんなら教えろよ?」


戸惑いながらも、そう問いかけるコウスケ。


しかし小次郎は


「貴様は馬鹿なのか?‘隠された’と言っているじゃろ?言葉も満足に扱えんのか?」


そう言って、鼻で笑う小次郎。


それを聞いたコウスケは、眉を寄せ首を傾げるのだった。


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