寂しさのあまり
翌日。
コウスケは、エルネ、ミランダと並んで通りを歩いていた。
二人が一緒という事は、当然向かう先は冒険者ギルドだった。
エルネ、ミランダは依頼を受けに。
コウスケは指名依頼の有無の確認である。
コウスケも毎日では無いが、定期的に冒険者ギルドへと顔を出しているのだ。
そして、そんな時は決まって二人に付いて行っていた。
しかしこの日は、もう一人同行者が。
一人ではなく一羽と言った方が正確なのだが。
それは、エルネの両腕に収まる小さな同行者・ピィちゃんだった。
エルネは、ピィちゃんの脱走。そして、コウスケの「野良猫に圧勝してた」という報告から、再びピィちゃんを依頼に連れていく事を決めたらしい。
いつかの様に、マントのフードに入れ連れていくのとは違い、今回は確りと戦力として数えるつもりらしい。
この日がピィちゃんのデビュー戦という事だ。
この日から、エルネはピィちゃんを依頼へと連れていく様になる。
想像以上の実力だったのか、或は、何か役に立つ特技でも持っていたのか。
少なくとも足手まといや、邪魔になる。といった事はないのだろう。
ミランダから文句が出ない事でも分かる。
しかし、コウスケはその理由を知らない。
何故なら
「別に付いてくぐらいイイじゃねぇか・・・あの鳥は連れてくクセによ」
そう呟きながら、冒険者ギルドから出てきたコウスケ。
指名依頼が無い事を確認したコウスケは、窓口で依頼の受注を進めるエルネへ
「どうせ暇だから、俺も付いてってやるよ」
そう声をかけた。
暇になる。と言うのは嘘では無いだろうが、おそらく昨日一日で距離が縮まったと感じているピィちゃんが心配。という事もあったのだろう。
コウスケは、それなりに動物好きな男なのだ。
しかしエルネは
「無理。」
そう冷たく言い放った。
実際に、高ランク冒険者であるエルネとミランダが受ける様な依頼は、Eランクのコウスケでは、実力はどうあれ同行すらも認められない。
エルネの言葉はそのような意味なのだろうが、言葉に籠る冷たさは別だろう。
おそらく、コウスケの上からの物言いが気に障ったのだ。
こうして、コウスケは二人と一羽を見送る事になった。
そして、ギルドの前で独り寂しく悪態をついていたのだ。
「フゥゥ~・・・暇だなぁ~・・・」
置いて行かれたコウスケは、ギルド前の花壇の縁に腰を下ろし、タバコで一服しながらそう呟く。
煙を追って見上げた空が、やけに晴天で顔を顰める。
苛立ちをぶつけるようにタバコを揉み消したコウスケは
「よしっ!俺も動物を飼おうっ!!」
そう言って立ち上がった。
そして、魔法鞄を漁りだしたコウスケは、一枚の紙を取り出す。
そこには、魔方陣らしきものが描かれ、その横に何行かの文章が。
それを確認したコウスケは、その紙を手に歩き出す。
向かった先は城門。
そのまま城門を抜けたコウスケは、城壁に沿って少し歩くと、今度はその城壁から離れる。
「この辺でいっか」
そう呟いたコウスケは足を止める。
そして、再び紙を取り出すと
「えぇと、街の中では禁止。はOKだろ?んで、二度目の使用は禁止。も俺は初めてだから大丈夫っと。他も・・・」
と手にした紙に書かれた文章を、一つ一つ指差しながら確認していくコウスケ。
全てを確認したコウスケは
「よし!後は、何か手頃な木の棒でも落ちてねぇかな?」
と辺りを見渡す。
しかし、コウスケの居る周辺は、足首程の高さしか無い草が一面に生えている草原。
見渡したコウスケは
「ある訳ねぇか」
そう呟くと、魔法鞄から一本の棒を取り出す。
それは、いつだったか宿の部屋中を宙に描いた魔方陣で一杯にした杖だった。
そのせいでエルネに意識を刈り取られた杖でもある。
手にした杖を眺め、そんな事を思い出したコウスケだったが、それを振り払う様に頭を振った。
そして
「あんま良い記憶はねぇけど、仕方ねぇか・・・あとは地面だな?草が生えてて土が見えねぇよ?・・・焼くか?ちょっとくらいなら良いよな?」
そんな事を呟くコウスケ。
誰に向けたものでも無い問い掛けに、自らで答える様に頷いたコウスケ。
空いている手を目の前の地面に翳す様に向けると、火属性初級魔法【火球】を数発放った。
【火球】はコウスケの目の前の草を焼くと、茶色の土を剥き出しにした地面へと変える。
それを見たコウスケは満足げに頷くと、再び紙を取り出す。
その紙を手に、土剥き出しの地面にしゃがみ込むと、先程取り出した杖で地面に魔方陣を描き始めた。
どうやら、紙に描かれた魔方陣を書き写しているようだ。
一心不乱に魔方陣を地面に描くコウスケ。
数十分もの間地面に張り付いていたコウスケは、ようやく立ち上がった。
そして、紙に書かれた物と自らが地面に書いた物とを見比べる様に、何度も視線を行き交わす。
間違いが無いことを確認したのか、ひとつ頷いたコウスケは
「出来たッ!」
そう声を上げた。
紙と杖を魔法鞄に仕舞うコウスケ。
そのまま直ぐに描いた魔方陣を発動させるかと思いきや、達成感からなのか、それとも詳しいが故に気になる部分でも見付けたのか。
顎に手をやり魔方陣を眺め始めるコウスケ。
眉を寄せ難しい表情をしている事から、前者ではなく後者のようだ。
コウスケは見ただけでどんな効果がある魔方陣なのかが分かってしまうだけで無く、直線、曲線、模様に文字と、魔方陣を構成している其々が何を意味しているのかまで分かってしまう。
一般的に使われている奴隷紋を一目見て粗悪な物だと感じた時の様に、何かが気になっているのだろう。
「複合魔方陣なのは分かる。こっちで呼び出して、こっちで契約だろ?でも、呼び出す方が何かしっくり来ねぇな?何でだ?」
何時もならば黙ったまま考えに耽るコウスケだが、この日は周りに誰も居ない事を良い事に、独り言にしては大き過ぎる程の音量で疑問を吐き出す。
そして、より細かく魔方陣を読み解こうとしているかの様に顔を近づけた。
少しの間、そうして違和感の正体を見つけようと忙しく目を動かしていたコウスケだったが、ある一点で視線が止まる。
「これか?この模様は・・・‘制限’か?大きさ、種類、制限を掛けそうなのは色々あるけど。えぇと、この模様に繋がってんのは・・・」
やはり頭の中の考えを声に出していくコウスケ。
そんな言葉と共に、何かを辿る様に視線を動かしたコウスケは
「・・・これか!これは‘種類’だな。呼び出したらマズイ種類でも居んのか?メチャクチャ強ぇとか?それで制限掛けてるとか?や、でも確かあっちに、術者の魔力量、魔力の質で選ぶって組んであった箇所あったぞ?つまりそれは、実力に合った相手が呼び出される様にって事だろ?だったら問題ないんじゃね?これ最初に組んだヤツは、相当神経質なヤツと見た!・・・外しちゃお」
見事魔方陣を読み解き、勝手な解釈をするコウスケ。
そして、最後の一言と同時に一部を手で消すと、再び杖を取り出し書き足し始める。
‘種類’を‘制限’する。という部分を消したコウスケは、その上で魔方陣が発動する様に改変していく。
しばらくして、立ち上がったコウスケは最初に書き上げた時と同じように
「出来たッ!」
そう声を上げた。
しかしその表情は、自分で手を入れた事もあってか先程の物よりも満足げだった。
「よし。そっちもよし。んで、こう来て・・・ここもよし。よし、よし、ぃよしッ!!」
指を指しながら弄った魔方陣を辿る様に確認し、間違いが無い事を確信するコウスケ。
「そんじゃ、やってみますか?」
独りで居るコウスケは、誰にでも無くそんな質問を投げ掛けると、返事を待つ素振りも見せずに魔方陣の前に両膝を付く。
そして、魔方陣の一番外側の円に手を触れると
「使い魔召喚魔方陣発動!出でよ!ドラゴンッ!・・・なんつって」
そう言って魔力を流した。
人目の無い状況が、普段のコウスケならば恥ずかしさで絶対に口にしない様な台詞を引き出す。
調子に乗った。とも言う。
しかし、口にした言葉に嘘は無い。
コウスケが発動した魔方陣は使い魔を呼び出す為の物で、ドラゴンが出てきてほしいとも思っているようだ。
恥ずかしさに悶絶する様子は見せず、逆に好奇心で目を輝かせるコウスケ。
目の前の魔方陣は、コウスケによって流し込まれた魔力を巡らせながら光を放っていた。
そうして、コウスケが地面に描いた全ての線に魔力が行き渡ると、魔方陣全体が輝きだす。
「おぉ・・・おぉ!!」
魔方陣に負けず目を輝かせているコウスケは、期待を押さえきれずにそんな声を上げる。
あまりの輝きに、魔方陣の中心が見えない程光が強くなった時。
魔力に敏感なコウスケは、目の前に何者かの魔力を感じ取った様だ。
その感覚を頼りに顔を向けるコウスケ。
しかし、光が強すぎて確認が出来ないのか、コウスケは顔の前に手を翳し目を凝らしている。
すると突然魔方陣が放っていた光が収まる。
光が消え、コウスケが描いた魔方陣もはっきりと見える様になる。
コウスケは、その魔方陣の中央に目を向けると
「ッッッ!?」
そう、声にならない声を上げ、目を見開くのだった。




