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散歩、のち決闘

「いいか?エルネが戻るまで大人しくしてろよ?」


ピィちゃんを抱えて部屋へと戻ったコウスケは、ピィちゃんを床へと降ろすとそう声をかけた。


そして、そのまま自らは再びベッドへと倒れ込む。


「ピィ?」


そんなコウスケを首を傾げながら見上げるピィちゃん。


そうして、動かなくなったコウスケを見たピィちゃんは、クルリと向きを変えると


「ピッ、ピッ、ピッ!」


一歩毎にそんな声を上げながら扉の方へと歩き出した。


カリカリカリ、コンコンコンッ、ピョンピョン


そんな物音に眉を顰めるコウスケ。


しかし、しばらくすると物音はしなくなる。


そして


「ピッ、ピッ、ピッ!」


そんな声と共に、今度は扉とは反対方向にある窓へと向かうピィちゃん。


窓の下まで辿り着くと


ピョンピョン、カリカリカリ、コンコンコンッ


再び音を立てる。


しばらくすると、やはり物音は止み、掛け声と共に移動するピィちゃん。


扉窓、窓扉、それをひたすら繰り返すピィちゃん。


その度に、顔を顰め、寝返りを打ち、枕で耳を覆うコウスケ。


そんな事が何度繰り返された頃だろうか。


遂に我慢の限界に来たコウスケが


「うっせぇよッ!脱走して連れ戻された後なのに、何また抜け出そうとしてんだよッ!コッチは寝てぇんだよ!寝かしてくれ!」


そう声を上げ体を起こす。


「ピッ?」


そんな声で振り向くピィちゃんは、丁度窓から扉へと向かう途中だった。


何の躊躇いも無く動物に話しかけるコウスケ。


犬を飼っていた経験からか、そんな事を気にした様子も見せず再びベッドに体を沈める。


一旦は静かになる室内だったが、再び


「ピッ、ピッ、ピッ!」


と、歩く時特有の掛け声を上げ始めるピィちゃん。


コウスケは、腹立たしげに顔だけを向けた。


しかし、コウスケの目に写ったのは、扉でも窓でも無く、コウスケが横になっているベッドへと向かって来るピィちゃんの姿だった。


そんな光景に、若干眉を寄せたものの、黙ったまま成り行きを見守るコウスケ。


そんなコウスケに見守られながら、ベッドの元までやって来たピィちゃんは、ベッドの上から見下ろすコウスケに何かを訴える様に


「ピィィ!ピィィィィッ!!」


と、鳴き始めた。


「だから外には出さねぇって!また、さっきみたいに追いかけ回されるのがオチだぞ?」


そんな言葉を返すコウスケ。


「ピッ?ピピピピィ、ピピッ!」


何やら身振りを交えて鳴くピィちゃん。


「あ?俺に付いて来いってか?ふざけんなッ!」


普通に鳥と会話しているコウスケは、そう言い放つと枕に顔を埋める。


そんなコウスケを見上げたピィちゃんは


「ピィィイィィイィィイィッ!!」


と、抗議する様に大声を上げる。


それでもコウスケが無視していると


カカカカカカカカカカカカカカカカカカッ


と、コウスケが横になるベッドの足を高速でつつき始めた。


あまりの騒音に飛び起きるコウスケ。


「ちょちょちょ!分かった、分かったから。止めろ!止めろって!!」


そう言って、ベッドの足とピィちゃんの嘴の間に手を入れるコウスケ。


何度か手をつつかれた後、ピィちゃんの高速連打は止まった。


そして、分かればよろしい。とでも言う様に


「ピィ!」


と、満足げに一鳴きするピィちゃん。


コウスケは、つつかれた手を摩りながら


「いってぇ・・・完全に飼い主に似てきてるな」


そう呟くのだった。




しばらくして。


コウスケは不満げな表情で通りを歩いていた。


その隣には当然の様にピィちゃんが。


隣というよりも、足元と言った方が正確だが。


機嫌良く歩くピィちゃんを見下ろしたコウスケは


「・・・まぁいっか。お前も少しは動かねぇと、それ以上ブクブクいっちまったらヤベェもんな?」


ひとつため息をつくと、そう声をかけた。


「ピッ!」


コウスケの言葉を理解したかの様に頷き、一声鳴くピィちゃん。


「うん・・・ただ、定期的に俺の足踏むのだけはヤメロ?」


タイミング良くコウスケの足の甲に乗るピィちゃんを、何とも言えない顔で見下ろすコウスケ。


「・・・」


ここまで、機嫌良くコウスケの言葉に答える様に鳴き声を上げていたピィちゃんだったが、この時だけは黙々と歩いていた。


「あぁ・・・ワザとなんスね?」


物悲しげに問いかけるコウスケ。


諦めたコウスケは、定期的に足を踏まれながら散歩を続けた。


工房が並ぶ通りを抜け、武器防具の店や装飾品の店を冷やかし、屋台通りは確りとピィちゃんを拘束して。


一通り歩き回った二人は休憩するため、工房区と居住区の間に見付けた御誂え向きの空き地で腰を下ろした。


歩き回り疲れた足を投げ出すように、地面に腰を下ろしたコウスケは隣を見る。


そこには、腰を下ろしているのか見た目では判断出来ないピィちゃんが。


そんなピィちゃんを、自分と同じ様に腰を下ろしている筈だ。と自分に言い聞かせたコウスケは


「どうだ?満足したか?そろそろ帰っても良いんだぞ?ピィ助も歩き疲れただろ?」


と、通りを歩く人々を眺めながら問いかける。


人間観察を続けながら答えを待つコウスケだったが、ピィちゃんからの返事は返って来ない。


不審に思ったコウスケは


「疲れて声も出ねぇか?」


そう言いながら隣を見る。


しかし、そこにピィちゃんの姿は無かった。


「なッ!?ちょ!!どこ行ったッ?」


そう声を上げ、慌てて辺りを見渡すコウスケ。


すると背後から


「ニャッ!?・・・フー、シュー」


と、猫の様な鳴き声が。


そして


「ピ?」


と言う聞き慣れた鳴き声が。


そんな音にコウスケが振り向くと、そこには、明らかに威嚇している様子の猫と、その猫と向き合うピィちゃんが。


その光景に


「・・・ほぅ」


と、眉を上げ呟いたコウスケは、ニヤリと笑うとそちらを向いて腰を下ろした。


どうやら小動物同士のケンカを観戦するつもりらしい。


心配していないのか、或は、ピィちゃんの実力を計ろうとでもいうのか。


腰を下ろし、ニタニタと一羽と一匹を眺めるコウスケ。


そんなコウスケが見守る中、状況を理解しているのか怪しいピィちゃんが、既に臨戦態勢の猫へと不用意に一歩踏み出す。


それを合図にした様に、威嚇の声を上げ続けていた猫が両手を前に飛び掛かった。


当然、隠していた爪を剥き出しに。


ピィちゃんは、驚いた様に首らしき部分を僅かに引いたが、状況を理解したのか途端に目の色を変える。


そして、猫の両手の爪が自身に到達する前に、垂直に跳び上がった。


意味無く小さな羽をバタつかせているのは御愛嬌だ。


そうして跳び上がったピィちゃんは、猫の頭上で反転すると、襲い来る猫と同じ方向を向く。


その体勢から足踏みをする様に、猫の頭を二度三度踏みつけた。


空中で頭を踏まれた猫は、その踏みつけられた力も相まって、地面へと勢い良く落下する。


予想外の相手の動きに「フギャ」という声を漏らし、地面に頭から突っ込む猫。


直ぐ様起き上がると


「ニギャァァ~~~」


という鳴き声を残し、物凄い速さで逃げ去っていった。


その後ろ姿を、胸を張り見送るピィちゃん。


どこが胸なのかは分からないが。


「おぉ!勝った。中々やるな?」


観戦していたコウスケは、興味深げな表情で呟く。


そんなコウスケの元へ


「ピッ、ピッ、ピッ!」


と、一歩毎に機嫌の良さそうな声を上げて戻って来るピィちゃん。


コウスケの元までやってきたピィちゃんは、特に声を上げる事は無かったが、「どうだ?」とでも言わんばかりにコウスケを見上げた。


そんなピィちゃんを見下ろしたコウスケは


「・・・お前、エルネに付いてっても大丈夫なんじゃね?」


そう呟くのだった。




空き地での決闘の後。


丁度日も傾いて来た事もあり、そこから真っ直ぐに宿への帰路に着く二人。


途中でピィちゃんが船を漕ぎ始めたので、仕方なく小脇に抱えるコウスケ。


そうして宿の前に着いたコウスケは、疲れた様子で入り口の扉を押し開ける。


すると、中から慌てた様子のエルネが飛び出して来た。


「おぅ、エルネ!帰ってたのか?」


そう声をかけるコウスケ。


しかしエルネは、コウスケのそんな問い掛けに答える事は無く


「あっ!コウスケッ!大変ッ、大変なのッ!!」


今にも掴み掛かりそうな勢いでコウスケに詰め寄る。


しかしコウスケは、エルネが慌てている原因に大体の予想が付いているので


「どした?」


と、軽く尋ねた。


コウスケのそんな様子に少しムッとした表情を見せるエルネだったが、それどころでは無いと考えたのか


「ピィちゃんが居なくなったのッ!!多分外に出ちゃったんだよ!・・・今頃、子供とか野良猫に苛められてるかもッ!どうしよッ?」


不安を顔一杯に浮かべ、そう嘆くエルネ。


しかしコウスケは、そんなエルネを呆れた様子で見ると


「ちゃんと鍵掛けて行かないからだろ?ったく・・・」


そう言って、小脇に抱えていたピィちゃんを前に出す。


「あっ!ピィちゃんッ!!良かった・・・」


心底安心したように声を上げたエルネは、コウスケに抱えられスヤスヤと眠るピィちゃんを撫でた。


その様子を眺めていたコウスケは


「子供はどうか知らんが、野良猫には圧勝してたぞ?下手すりゃ子供くらいなら勝てるかもな?」


そう言ってエルネを見る。


その言葉に


「ウソっ!?それホント?」


と、驚いた様に聞き返すエルネ。


「あぁ、一撃・・・じゃ無かったけど、普通に勝ってた。あれなら依頼に連れてっても大丈夫じゃね?」


そう答えるコウスケ。


そんな事を言われたエルネは、少し迷う様な表情をしたものの、もう置いて行くのが怖くなったのか


「・・・そうね?初めは様子見にするけど、そうしてみようかな?」


そう答えた。


宿の前でそんな事を話した二人は、眠る一匹を連れ、宿へと入って行くのだった。


「このヤロウ。俺を差し置いて気持ち良さそうに寝やがってッ!」


コウスケが、自分の小脇で気持ち良さそうに寝ているピィちゃんを見て悪態をつき、少し脇に力を入れた事にエルネは気付かない。


「ピエッ」


そんな、小さな悲鳴が聞こえるだけだった。


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