予感
「旦那、御早いですね」
「・・・お前こそな」
朝宿を出ると、どこからともなく案内人が姿を表した。
「情報は?」
「へいッ!バッチリですぜ」
「早いな?半日で集めたのか?」
「この手の情報は夜に集めるに限るんですぜ。だから正確には一晩で、ですぜ」
「優秀だとでも言って欲しいのか?」
「滅相もない。それに今回のは簡単な方ですぜ。本当に出品されるかどうかは知り合いに聞けば一発でしたし。居場所の方は、出品前の奴隷の保管場所なんてそう多く無いですからね」
「・・・物の様に言うな」
まだ情報を聞いていないから確定はしていないが、彼女の顔が浮かび少しカチンと来た。
「アラアラ?もしかして旦那、そういう人ですかい?」
「どういう意味だ?」
「いやぁほら?奴隷は許さない!!解放しろ!!みたいな」
「昨日も言ったが奴隷に興味は無い。オレは持つ気は無いが他人が持つ事を咎める気も無い。大金を払って買っているんだろう?他人の自由だ」
「そんな旦那が今回は興味を持ったと?何故ですかい?エルフが欲しくなったんで?」
タバコを取り出し、一口吸う。
「フゥ~~~・・・違う。・・・知り合いかも知れない」
考えたくは無いが。
「・・・そういう事ですかい。そりゃ噂に食い付く訳だ」
「無駄話はいい、情報は?」
「へいッ!出品されるエルフは人間で言う所の20歳位って話ですぜ。それから魔法が滅法強くて魔術師の護衛奴隷として売りに出されるそうでさぁ。どうです?お知り合いで?」
聞けば聞くほど彼女に当てはまる。だが、まだ確実じゃない。
「・・・名前は分からなかったのか?」
「それがエルフって情報にみんな目が行って名前まで気にして無いのか全く出てきませんでしたぜ」
「・・・優秀じゃなかったのか?」
「面目ねぇでさぁ」
(確かめに行くしかないか?)
「居場所は?」
「それなら。奴隷を扱ってる商人がこの街の東に借りている倉庫だって話でさぁ。でもさすがエルフ。警備が厳しいって話ですぜ」
(警備か?念のために作っておいてよかったな)
宿で半日寝ていた訳では無い。必要になりそうな物を作っていたのである。
今コウスケの頭の中にあるのは姿を消す魔方陣が刻まれた魔道具である。
はじめはマントに縫い付けようと思ったが、地獄のチクチクを思い出し今回だけ使えればいいか。と石ころに刻んだ物だ。
この石ころ、とんでもない代物である。姿を消す魔法はとても珍しく使える者がほとんどいない。それこそ魔道具にしなければ誰も使え無いと言っていいほどに。
その理由は基本属性の上位属性にあたる光属性と闇属性の魔法を合成魔法で合わせなければならないからだ。
只でさえ珍しい上位属性を両方使え、さらに合成魔法という高等技術を使える者が居るだろうか?
居たとしてその者がさらに魔方陣にまで手を出せるであろうか?きっと脳の容量か寿命が足りないはずである。
故に、この石ころとんでもない代物である。
「その倉庫に案内してくれ」
「行くんですかい?どうなっても知りませんぜ」
「心配するな。お前とは後払いの約束がある。約束は守るさ」
「金の心配じゃ無いですぜ。旦那のですよ」
「・・・わかってる。案内しろ」
「へいへい」
~~
「アレでさぁ」
建物の影から窺うと入り口の前に見張りが二人立っている建物が見える。
「ありゃ中にも居ますぜ。どうするんで?」
「こうするんだよ」
魔法鞄から取り出した石ころを握る。
「ッッ!?消えた!?」
案内人は驚いている。
「・・・お前はどうする?」
何も無い所から声がして目をキョロキョロさせているが
「・・・荒事は勘弁ですぜ。ここで待ってやす」
「荒事にはならないと思うが・・・わかった」
そう言い残し倉庫に向かった。
しっかりと姿は消えている様で見張りはこちらを向いても気づかない。
(・・・とは言ってもあの間の扉を開けて入るのはマズイよな)
ひとりでに扉が開けば流石に気付かれるだろう。
(裏口を探すか?窓から入るか?)
建物の周りを歩いていると開いている窓を見つけた。覗いてみるとここにも見張りが居る。しかし、コウスケには関係ない。
スルリと忍び込み音も無く歩いた。しばらく行くと開けた場所に出た。そこには鎖で繋がれた者や、何やら首輪の様な物をはめた者が大勢いた。
(ここか・・・全員奴隷なのか?多いな・・・あそこか?)
一画だけ区切られたスペースがあり、その側に見張りが一人座っている。中は見えない。
そっと近づくと屏風の様な衝立で仕切られているだけだった。少し隙間を開けて中に入る。
(・・・やっぱりか。何やってんだよ)
中に居たのは前はしていなかった首輪をしている、長く真っ直ぐな銀髪のエルフ。エルネだった。




