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悲しみのコウスケ

「どうしてこの魔方陣を完成させたいんですか?」


そう聞いたコウスケに対し、男は


「さっきも言っただろうッ!!明日までにコレを完成させて、提出しなければ俺はクビなんだよッ!!」


そう怒鳴る。


酔っているせいか、店員にした話をコウスケに話したと勘違いしているらしかった。


(さっきもって初耳だ、バカ野郎っ!)


内心でそう悪態を吐きつつも、顔には出さないコウスケ。


「そ、そうなんですか?それは大変ですねぇ・・・」


当たり障りの無い返しをしておくコウスケ。


「あぁ大変だよ。俺はもう終わりだ」


そう言ってまたも突っ伏してしまう男。


段々と話が見えてきたコウスケ。


この男は魔方陣を研究でもしている学者。


そして、誰か或は、何かに雇われている。


そこから成果の提出の期限を切られていて、その期限が明日。


相手が満足する成果を提出出来なければクビ。


現状、改良を試みた魔方陣は完成せず、このままではクビ確定。


なのでここでヤケ酒。


こう言う事なのだろうと理解するコウスケ。


ここまで考えたコウスケは、素朴な疑問を男に投げ掛けた。


「え~と・・・クビになっちゃマズイんですか?完成していないとは言え、ここまで魔方陣を組み上げる事が出来る程の知識があるならそれだけで食って行けるんじゃ?」


そう言ったコウスケ。


要するに、自分のペースで魔方陣を改良するなりイチから組み上げるなりして、それを売って生きて行けばいいのでは?と言う事だ。


コウスケならそうする。いや、もうしている。


そんなコウスケの言葉に、男は突っ伏したまま


「・・・それじゃダメなんだよ。俺は・・・俺はこの街で教師を続けたいんだっ!その為に好きでも無い魔方陣なんか研究してきたって言うのに・・・」


そこまで言って男は口を噤んでしまった。


どうやら今の言葉からすると、この男にとって魔方陣とは目的では無く手段の様だ。


何故、教師に拘るのか?それを聞こうと男を見るコウスケだったが、男はカウンターに突っ伏したまま寝息を立てていた。


酔い潰れたのだろう。


疑問をぶつける相手が居なくなったコウスケは


「そんなに良いもんかねぇ?教師ってのは・・・」


そう独り言のつもりで呟いたのだが


「このお客さんにとっては大事な事なんですよ」


そう返事が返ってきた。


独り言に返事が返ってきて驚いたコウスケが顔を上げると、そこにはカウンターの向こうにいた店員。


その店員が、酔い潰れた男を見た後コウスケに目を向け微笑む。


コウスケの独り言に返したのは、この店員の様だ。


独り言に返事が返ってきた事で、恥ずかしさから内心パニックに陥っているコウスケだが、それを面に出しては格好がつかない。


さも店員に聞いた体で話を続けた。


「何か知っているんですか?」


「もう大分前の事ですけど、ある日フラリとこの店に青年が入って来たんです。その青年は一人だったので真っ直ぐにこのカウンター席に着きました。そして、どこか嬉しそうな様子でお酒を注文したんです。その時ここに立っていたのがまだ新人の私でした。カウンターには他にお客さんも居なかったので丁度良い練習台だと思って話掛けたんです。でも、私全然喋れなくて・・・それに気付いたのか、その青年が自分の事をずっと話して聞かせてくれたんです」


店員は懐かしむ様に話した。


コウスケの問いに対する答えにはなっていないが、黙って聞くコウスケ。


その無言で続きを促す。


「その青年が彼なんです。当時はこの街に教師として来たばかりらしくて、ようやく採用されたと喜んでいました。そして、聞いてもいないのに教師を目指した理由を話し始めたんです。彼には年の離れた弟がいるらしいんですけど、その弟さんの面倒をよく頼まれたらしいんです。初めは鬱陶しく感じていたみたいですけど、面倒を見ている間は何も出来ず暇を持て余していたので、何も出来ない弟さんに色々と教え始めたんですって」


途中、クスクスと笑いながら話す店員。


「教えた事がドンドン出来る様になっていく弟を見て、教える事の楽しさに気付いた。って事ですか?」


先が見えたコウスケはそう言った。


「えぇ。そう言ってました。でも、可笑しいんですよ。魔方陣学者だと聞いて私てっきり魔方陣が好きなんだと思って、魔方陣を教えたくて教師になったんですね?って聞いたんですよ。そしたら、魔方陣は好きじゃないって言うんですよ?」


「そう言えばさっきもそんな事言ってましたね?どう言う事なんですか?好きでも無い物研究して、それに悩まされてヤケ酒って・・・教師だけやってればいいんじゃないですか?」


思った事を口にするコウスケ。


「それがそうも行かないんですよ。この街にある学園で教える事が出来るのは、何かを研究していて結果を出している人だけなんです。学園に雇ってもらおうと、初めて来た時に彼門前払いされたらしくて・・・それで魔方陣の研究も始めたらしいんです」


(成る程、大学の教授みたいなもんか)


そう理解するコウスケ。


しかし、そう思うと不思議なモノで、目の前で酔い潰れている男が偉い先生に見えてくる。


まぁ実際は、クビ寸前の非常勤講師辺りだろうか。


「成る程ねぇ、魔方陣を教えたくて教師になったんじゃなくて、教師になりたくて魔方陣を研究してると・・・普通逆だろ?」


返事が帰ってこない事は分かっているが、コウスケは酔い潰れた男に向かって言う。


「フフッ。そうですよね?普通逆ですよね?」


代わりに店員が返した。


「まぁ話は分かりました。要するにさっき言ってた結果を出さなければいけない期限が明日。でも、完成してない。で、ヤケ酒。こう言う事ですよね?」


「そうみたいです」


話に一区切りついたところで二人は揃ってため息を吐く。


同じため息だが意味は其々違う。


店員の方は、困ったなと言うため息。


コウスケの方は、一仕事終えたと言うため息。


そこから、しばし無言になる二人。


その空気に堪えられなくなったのか、コウスケは話題を変えようと口を開く。


「それにしても大丈夫なんですか?客の事を他の客に話してしまって」


店員の話に持っていったあたり、コウスケには隣で酔い潰れている男を助ける気は無い様だ。


「あぁ、そうですね・・・当然それは禁止されてます」


やや苦笑いしながら言う店員。


「え?大丈夫なんですか?店員さんまでクビになったりしませんよね?」


自分が首を突っ込んだせいで店員さんがクビになっては後味が悪い。


そう思い焦るコウスケ。


「どうなんでしょうね」


頬を人差し指で掻きながら笑って言う店員に、焦りの様なものは見られなかった。


「何でそんな事を?」


「彼とはここで話すだけの関係だったんですけど、それが楽しかったんですよね、私。だから出来るなら助けてあげたくって・・・でも私にはそれは出来ないから歯痒くて。そこにアナタが現れて・・・私、アナタなら彼を助ける事が出来る様な気がして・・・」


そう言って、申し訳なさそうに目を伏せる店員。


それを聞いたコウスケは、今更ながら自分が全く話題を変えられていなかった事に気付く。


と同時に


(いやいや、この店員さん絶対コイツに気があるよねッ?そんな娘の前で格好付けても意味ねぇじゃんッ!俺には1ミリも脈無しだろッ!!)


そう考えるコウスケ。


どうやら終始、この店員さんもとい、綺麗なお姉さんに下心があった様だ。


しばし項垂れるコウスケ。


それを考えていると見ているのか、店員は黙ってコウスケの言葉を待っている。


「・・・ハァ、綺麗なお姉さんに頼まれたら断り辛いでしょ」


どうやら脈無しでも格好付ける事を選んだ様だ。


「ッ!じゃあ・・・」


喜色満面でコウスケを見る店員。


「その代わり・・・一杯奢ってもらいますよ?」


「その位お安いご用ですよっ!」


二つ返事で答える店員。


「それと、あくまで助言程度ですよ?完成させる事も出来ますけど、それだと彼の為になりませんからね?」


そう言うコウスケ。


どうやら、こうしたらいいよ程度の助言に留め、後は彼自身に委ねる様だ。


「十分です!お願いしますっ!」


そう言ってグラスを差し出す店員。


その中には、コウスケが屋台仲間と飲んでいたビールの様な酒では無く、洋酒の様な酒が入っていた。


(ウワァ~高そうなの出てきたぁ。プレッシャーを感じる・・・)


高そうな酒の意味を計りながらも、鞄からペンを取り出すコウスケ。


改良途中の魔方陣を軽く見渡して、空いている空白部分にサラサラとペンを走らせる。


箇条書きのアドバイスを書き込んでいるのだ。


・中央部分は画期的

・その周りがダメ

・画期的な中央部分の機能を十全に発揮したいなら周りもそのレベルで組むべし

・それが無理なら中央部分のレベルを下げ、周りのレベルを少し上げる。それでも従来品よりも性能良

・<最重要>最近発表された火力調節型着火魔方陣を参考にするべし!!


ここまで書いてグラスを傾けるコウスケ。


(こんなモンでいいか・・・って美味ぇな、コレッ!?)


一番最後の助言のみで良かった様な気もするが、書き終えたコウスケは立ち上がる。


「俺が店から出たら起こしてあげて下さい。酒は残ってるかもしれないですけど、少し寝たから大丈夫でしょ?時間も無いみたいだし・・・あぁそれと、コレは俺の落書きですから。お姉さんは隣の客の話なんかしないで、俺の相手をしてくれたって事で」


そう言って帰る準備を始めるコウスケ。


「・・・ありがとうございます」


そう言って頭を下げる店員。


「こちらこそ、ご馳走様」


そう言って店を後にするコウスケ。


脈無しの相手には、少しイケメンなのが残念でならない。


一人宿への道を歩くコウスケ。


(何やってんだろうな、俺?・・・うん。そうだ。ヒロインはエルネだったな確か。色々と問題が多すぎる様な気もしないでも無いけど、きっと俺の心のオアシスはエルネに違いないッ!!今はそう思い込むんだッコウスケッ!!)


傷心気味の自分の心にそう言い聞かせ走り出すコウスケ。


因に、この日エルネは、ランクが上がり新たに受けられるようになった難易度の高い討伐依頼を受けた為、宿に戻る事は無かったとか。


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