6話 月光と蒼白の翼
謎の少女に導かれ、湖に向かう事となった真世達。ラウを先頭に歩き出していた。少し経ってから、何も分からないままだった真世が口を開く。
「ねえねえラウちゃん、少しだけいいかな?」
「?・・・はい」
「ラウちゃん、なんで追われてたの?」
「それは・・・」
何かを言うか言わないか口ごもったラウの代わりに、その質問にはラレアが答えた。
「さっきも言ったと思うけどグッネム商会ってのは人身売買とかもしてんだよ。そういうことだろ」
「なるほどね、ラウちゃん可愛いからね」
「・・・」
そう言ってラウに抱き着いて頭をなでる。逃げる前のような拒絶は今はなかった。
「でね、ラレアちゃん」
「なんだよ」
「それ付けっぱなしで重くないの?」
ラレアは、先ほどグッネム商会の集団と出会ってから、ずっと「SIVADINE」と呼んだそれを身に着けたままだった。
「いやあ、クソ重いぜ」
「外せばいいのに・・・」
「外したらどうやって持ち運ぶんだよ、ここ道ないから運転できないぞ」
「じゃあさ、後で取りに来るとか?」
「置いた場所が分からなくなってもアウトだし、こいつ無しでまたあの集団に会ったらめんどくさすぎるぜ」
「確かにそうだね、頑張って♪」
「なんかムカつくな今の」
何となしに会話していると、森の開けた場所に出た。
「着きました」
辺り一面に薄く霧が張っている。波一つ立っていない広大な湖は、月灯りを美しく反射する。
「ラレアちゃん、超きれいだね!」
「ああ、綺麗だな」
二人とも、それだけしか言葉が出ないほどに感動していた。立ち呆けていた二人の方を向くように、ラウが振り向く。
「どうして、私を助けようとしたのですか?」
「・・・あたしは・・・」
「ラレアちゃんはね、私のことも助けてくれたんだよ!」
「いい人なのですね」
「・・・あたしには妹がいるんだよ」
「初耳だよ!?」
「そりゃ言ってないから・・・その妹がな、ああいうのに連れていかれたんだ」
「・・・」
ラレアの話に、二人は静かに聞き入る。ラレアには、夜風と虫の鳴き声だけが聞こえていた。
「マヨ、この世界には魔法が存在するのは知ってたか?」
「いんや、知らなかったよ」
「あたしは使えないけどな、妹は潜在魔力が凄かったらしいんだ。だから妹が狙われたし、あたしは逃げられたんだ」
少しずつ表情を暗くしていくラレア。
「ただの奴隷ならな、どういう境遇に置かれるかは知らないがいつか会うこともできる可能性もある。でも、資質を見出されて連れていかれる奴らは、ほとんどが実験動物になるんだよ」
「あ・・・」
「あたしのカンだけどさ、ラウお前、多分そっち側だろ?」
「・・・」
「まあ、どっちでもいいけどさ。奴隷商会への憂さ晴らしもできたし、ただの自己満足さ。あたしはいい人のつもりなんかないんだ・・・っと、せっかく湖についたのに白けた話して悪いな」
「ううん、それでもやっぱラレアちゃんはいい人だよ」
「・・・勝手に思ってる分には何も言わない」
「私も、あなたはいい人だと、思います」
ラウが、着ていたボロきれの内側から美しい青白い羽根を取り出し、ラレアに差し出す。
「なんだこれ?」
「私の一族が、信頼する者、大きな恩がある者、いや・・・そうですね、私たちがこれを渡したいと思える人間に出会えた時、渡せと言い伝えられていました」
「なんだ、過去形か?」
羽根を受け取りながら、ラレアは茶化す。
「ええ、過去形です。私は我が種族の最後の一人。純粋な血族は私が最後です。言い伝えられることももうありません」
そう言う間に、ラウは少しずつ濃くなってきていた霧に包まれていた。
「貴女達が私を必要としてくれるなら、また会えることもあるでしょう。では、貴女達の旅路に幸せが満ち溢れていることを祈ってーーー」
霧が薄くなると、そこにラウの姿はなかった。
「なんだったんだろうな」
「不思議な子だったねえ」
少女達を月明かりが照らす。月光は、青白い羽根を美しく照らしていた。