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日常と非日常

神戸先祖記

作者: 甘寺譽




この夏、僕が神戸に訪れた時の不思議な体験をここに書きたいと思う。


みんなの中に、いったいどれだけ『徳大寺』と言われて、思い当たるものがある人が居るだろうか?おそらく、とても少ないのではないだろうか?僕自身、他に徳大寺、って名前の人を親戚以外で見た事がない。僕の御先祖様の中に、『徳大寺 実久』と言う貴族がいる。その人のお嫁さんは、『月明院』という人で、これはみんな知ってる、織田信長っていう戦国大名の10番目の娘なんだ。だから、僕の先祖の中には織田信長もいるってこと。これって凄くない?まぁ、僕自身、この事を知ったのは、神戸で不思議な体験をしたあと……京都のおじいちゃんに聞いた話なんだけどね!


僕はその日、お父さんの仕事で神戸に訪れていた。ちょうど夏休みだったので、中学の自由研究も兼ねて、お父さんについて行ったのだ。お父さんは仕事だから、僕は一人で神戸を探検することにした。携帯電話を持っているので、迷子にはならないだろう。


僕はまず、異人館に向かった。そのあと、バスに乗り兵庫区に向かった。目的は大輪田泊って言う平安時代の港跡を見学するためだ。ちょうど、日本史の授業で習っているので、行ってみようと思ったのだ。


バス停に着いた。外は異人館の中央区よりもちょっぴり暑く感じた。標高が下がったからかな?僕は港跡の石碑まで歩くと、頭がふらふらしてきた。そしてそのまま、意識を失ってしまった……





「殿!このままでは港の建設は年内には終わりませぬ!!」

「なんだと!苦楽は何をしておる!年内に済まさねば、大陸との貿易に支障が出るであろう!」

「ははっ!申し訳ございませぬ!しかし、苦楽めが人柱を立てるのであれば港建設は出来ぬと」

「なに!人柱が嫌とな!ええい、苦楽の奴を連れてまいれ!!」

「ははっ!」


坊主頭の男は、もう一人の部下であろう男に命令した。命令を受けた男は、すぐさま部屋を飛び出て苦楽と呼ばれる者を連れてこようとする。一人残った坊主頭は、


「何としても……何としても年内に終わらさねば……わしの威信にかけても!」


一人呟くと、漢文で書かれた宋国に向けての手紙を読み直す。この坊主頭の男、その名前を平清盛、今の日ノ本の実権をたった一人で握っている実力者だ。彼の一族以外は人でない、と謳われる程に彼の一族の力は強い。その一族の力をより強固な者にしようと清盛は遠く中国大陸との交易に目をつけたのだ。それには、どうしても京都に近い安全な港が必要なのだ。


その頃、命令を受けた男は苦楽のいる寺に来ていた。


「苦楽殿!清盛様がお呼びですぞ!はようまいられい!」

「これはこれは……重盛様ではございませぬか……はて、これは何用で?」

「おとぼけ召されるな!港の建設が遅いからであろう!はようまいられい!」

「ははは、その事ですか。ちょうどわたくしめも伺おうと思うておったとこですわい。ほれ、お菊よ、参るかね」


そう言うと、苦楽はお菊と呼ばれる少女を連れて寺から出てきた。


「苦楽殿!貴殿は仏に使える身であろう!ことによって女子を寺に入れるなどと……」

「いえいえ重盛様、この子は人柱にされた子ですぞ?まだまだおりますが、どうもこの子だけ些か若いのでの……親もおらずに不憫であろう?」

「うむ……まぁ良いわ、ともかく早く父上の元に参りますぞ」


重盛は苦楽とお菊を連れて父のいる館まで戻る。苦楽が来るのを待っていた清盛は、苦楽の姿を見るとすぐに


「貴様は俺の恩を忘れたのか!」

「いえいえ、とんでもございませぬ……しかし、清盛様はすでに港のために大日如来、天照大御神にお逆らい申し上げ、沈みゆく陽をお戻しになりましたではございませぬか……それを、30もの人を海に沈めて人柱になさるなど、天が殿をお許しになる訳ございませぬぞ!」

「ええい!黙らぬか!民草が何人死のうと俺の知ったことでは無いわ!重盛!苦楽とその小娘を牢に入れてまいれ!」

「……!?良いのですか!!」

「構わぬ!指揮は俺が執るわ!」


清盛は息子重盛に二人を牢に繋がせると、一人港に向かい馬を走らせた。後ろには一人の近習が付いてくる。


「何しに参った、松王丸」

「ははっ!お願いがあってまいりました」

「なに?」

「はっ!わたくしめの命で、どうか人柱のみなを助けては貰えませんか?」

「ならぬ!ならぬぞ!」

「では、わたくしめはここで腹を切りまする!」

「なんだと!貴様、俺に逆らうと言うのか!?」

「ええ逆らいますとも!これ以上罪なき者達を殺めるのならば平家は滅びるでしょう。それをおとめできるのであれば、この命、すぐにでも捨てましょうぞ!」

「うぬぬ……」


清盛は馬を止めて一人考え込んだ。


「解った……そなたの忠義、見届けたぞ。人柱はそなたの一人で良しとする」


清盛は館へと馬を戻した。


苦楽とお菊は牢からだされた。二人とも半日と繋がれてはいなかったのだ。


「苦楽殿、父上は松王丸一人の犠牲で人柱全員を解放致しました」

「なんと松王丸殿が……なんと可哀想な……」


苦楽は一人涙を流すと、黙って寺に戻っていった。あとにお菊が続こうとしたが、それを重盛が留めた。


「そなた、親もおらぬのであろう?どうじゃ、わしの倅にそなたと同じ年頃の者がおる。話し相手になってやっては貰えぬか?」


重盛はお菊の美貌を捨て置くのは勿体ないと思ったのだ。お菊は


「仰せのままに……」


と一言悲しげに返事をすると、重盛の館へと連れて行かれた。重盛の館では一人の少年が漢文を習っていた。彼の名を平資盛と言う。後に源平合戦で海に飛び込みこの世を去るものだ。資盛はお菊を見るなり一目惚れしてしまった。彼は重盛の見立て通りお菊を娶った。


松王丸はその後、彼のお陰で命を救われた者達とその家族に惜しまれながら播磨の海に沈んでいった。こうして、海が荒れることは無くなり、後の世まで語られる『大輪田泊』の大改修は終わったのである。


それから数百もの時がたち……


「我は平清盛が嫡男、平重盛が息子、平資盛の末裔、織田上総介信長である!我に逆らう者は誰であろうが赦さぬ!」


織田信長と言う英傑が日ノ本に誕生した。その彼も、本能寺の炎に焼かれこの世を去る。


「一度生を受け滅せぬもののあるべきか……ふははははっ!是非もなし!蘭丸!我の首をキンカ頭に渡すでないぞ!」


彼の娘、月明院は彼の没するおよそひと月前に生まれたばかりであった。有名な武田信玄の4男、武田勝頼が死んでひと月あまりのことであった。


後に、信長最後の娘である月明院は徳大寺実久に嫁ぎ子を設ける。







目が覚めた時には病院にいた。どうやら長い夢を僕は見ていたようだ。でも、不思議と懐かしい気分になった。横でお父さんが心配そうに僕を見守っているのが分かる。


「健人!」

「お父さん……ただいま」


僕は何故かその時ただいまと言ったのだ。そう、長い旅から帰ってきたのだから。


その後、僕は京都に帰り、おじいちゃんにこの不思議な体験を話した。すると、おじいちゃんも若い頃に同じ体験を神戸でしたらしい。そして、月明院が本当に御先祖様な事、織田信長が平資盛の末裔を名乗っていた事を教えてくれた。


ね?不思議な話でしょ?これが本当かなんて僕にも分からない。けど、僕は信じる事にしたんだ。だって、その方がなんか面白いでしょ?それじゃ、またね!

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