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『女は廊下や教室で良いと言う』転生の結末と報酬

『女は廊下や教室で良いと言う』転生の結末と報酬


 ーー最低だ。

 この出来事がなければオレは想いを打ち明けられるのに玉砕することすら叶わない。

 そりゃあ、1億9千万だ。みーかはなんでもオレの言うことを聞いてくれるだろう。

 でも欲しいのは彼女のココロだ。

 人形が欲しい訳じゃ無い。

 詰まらない欲望を満たすだけならティッシュがわりに使える女がいくらでもいる。

 でもオレは心からみーかに愛してほしい。

 だからオレは彼女に多くを求められないしゲームして暇をつぶすにしてもーー。

 オレは、彼女の前にトランプと将棋と囲碁を取り出して並べる。

 一緒に遊ぶかと問えば一緒に遊ぶと答えるだろう。

 だから、それは確定事項。

 だが何をして遊ぶのかはみーかに決めさせる。そうすればみーかの意志は多少なりとも反映されるから。

 みーかは黙って囲碁を指差す。黙ってと言っても普段から無口な訳じゃ無い。今は客がいるから口を開かないだけだ。オレはこの絶対に口を開くまいと小さな尖った唇のはしをヘコませるみーかが好きだ。

 オレも気が散っただのそのせいで失敗しただのと泣きつかれても鬱陶しいので黙ることにしている。

 部屋の隅に置かれた折りたたみ式の小机と椅子を引っ張り出し囲碁をセッティングする。

 みーかに先に座るよう促してからオレたちはゲームを始めた。


 ぱちっ……。ぱちっ……。ぱちっ……。


 おう。

 碁石を打つ音がやたら響く。

 これ失敗じゃね? と思わん事もないが直ぐにこれでいいと考えを改める。

 口を開かぬ様努める彼女が、音の少ないトランプではなく囲碁を選んだと言うことは、そういった配慮の外に囲碁で遊びたいという彼女の意志がここにあるから。

 皮肉な話だ。

 金も権力も女にも不自由しないオレがこんな小さなことで満たされるのだから。



 オレがみーかに0勝7敗。8戦目の碁盤でもオレの敗北が色濃く打ち出された頃。

 もっとも、オレたちがやっていたのは五目並べだが。


「出来た!」


 女が声を上げた。

 どれどれどんなものかと目をつむり確認してみると。

 残り時間は10秒ぎりぎりまでねばったようだ。


「本当にこれでいいのか?」

「もちろん。準備の方も異世界転生モノのラノベを読んでチートをしっかり学んできたの。だから早く」


 どう見ても今より劣化している彼女のイメージがオレの視界に写っているのだが。

 この女はこれでいいという。

 目ばかりが強調されていて他がややちいさい。確かに整ってはいるのだが、違和感がすごい。見ていて気持ち悪くなるレベルのもの何だが女はこれでいいというのだ。

 それにチートを学ぶというが、オレが今まで何人異世界に送ったと思っているんだろうか。

 0歳からの転生だからまだド派手にやってる奴はいないとおもうが、ライバルは多いんだぜ。

 そんな事を順をおって話そうと頭の中で組み立てるが次の女の言葉で全て消し飛んだ。


「じゃあ、次は報酬ね。ここで都合が悪いなら他へ行きましょう? 後者裏でもいいし、トイレでもいいし、なんだったら廊下でも教室でもいいわ」


 もう、転生してしまえば今がどうなってもいいのだろう。

 女は開き直ってそんな事を言う。

 男と女で美意識は違うモノなのかも知れない。

 しかし、せめて、一つだけ、男のオレが嫌悪感を抱く様な容姿でいいのか、そもそもこんな事の為にオレに能力を使わせるのか考えさせるため。

 苛立つ気持ちを抑えてオレは女に慈悲を加えてやる。


「一晩考えてみたらどうだ? 送るだけなら直ぐできるぞ」

「嫌よっ、私の決意もあなたの気も変わってしまうかも知れないじゃ無い。私としては今すぐここで終わらせてもらった方が嬉しいんだけど。えーと、義理の妹さんだったっけ、いつも一緒にいるそうだけど彼女に見せたく無いんでしょう? いや、逆かしら、彼女に見せる為にここに居させているのかしら」


 こいつは……。


「もう、いい。わかった。そんなに送ってほしいなら今すぐ送ってやる」

「えっ? 私気に障ること言ったかしら? もしかして義理のーー」


 それ以上言うんじゃねえ。

 オレは女を睨み付けて黙らせ呟き始める。 


「設置……。解錠……。開放……。迎合……」


 ッィン……。


 耳なりが起こり、床から両開きの扉が生えてくる。

 完全にできった所で。


 がちゃっ……。ぎぃぃぃぃぃ……。


 扉が開き真っ暗な部屋が姿を表す。

 その時、一冊の本グリモワールがオレの前にゆっくりと現れ実体化する。


 ぱらぱらぱらぱらぱらぱらっ。


 そして、グリモワールは記すべき場所を示すとそこに彼女のイメージした情報を書き込んでいく。


 ここでオレは呟くのをやめてつのったものを女にぶつける。


「オレを恨むなよ! これは、お前が造ったお前の姿。そして、これは、お前の決めた事だからな!」

「あ、うん。ありがとう」


 ありがとう?

 オレはお前に感謝される事なんてしていない。


「転生……」


 ゆっくりゆっくりと女は扉に導かれ闇の中へと吸い込まれていく。

 あと少しで中に入るという所で女はそれに抗いこちらを振り向くと一礼して。


「おおおっ、っと。それじゃ、行ってきます!」


 そういって、彼女はこの世界と異世界の境界線をまたぎ闇はどこまでも彼女を落して行った。

 最後にまた油の切れた蝶番の悲鳴を上げて扉が閉まり、あるべき所に消えていった。


 

 これがオレの能力だ。

 相手の望む姿で、異世界に転生させる。

 異世界とはまあ、所謂剣と魔法のファンタジーの世界といったところで、何故分かるかと言えばグリモワールに書いてあるからだ。オレ自身もまだ本当に異世界に転生しているのかは確証を得られていないし証拠出せとか言われても困る。が、容姿変更が真実味を後押し、それを根拠にオレの元にくる奴が後をたたないのは事実だ。

 とは言え、グリモワールを転生時以外他人に見せたりしない。この本さえあれば能力が使えると勘違いされても困る。


 さて、この能力は金になる。

 元々金持ちばかりがやってくる学校と言うのもあるし、あんな脳みそぱっぱぷーな女でもそこそこの金は振り込まれる。


『振込予定額2億9千万円』


 手元の情報によればこれが彼女の代金だそうだ。

 だが、この程度些細なものでしかない。

 0歳から始まるこれがどういうことなのか。

 明日死ぬかも知れない人間なんていくらでもいるんだ。

 そう言った奴らが金に糸目をつけず全てを投げ打ってオレに乞うのだ。

 生の延長を、新しい生を。


 それはともかく、今回はつかれた散々だ。

 あの女の言葉でみーかがどう思っただろうと考えると憂鬱だ。

 今日は勇気を振り絞って彼女に言わなければいけない事があるというのに。


「はぁぁぁ」


 そんな事を考えていたため不意にため息を吐いてしまった。


「おつかれさま。今日は見ていてドキドキしたよ。ここでおっぱじめるのかと思った」


 みーかが心配した様子で労いの言葉を掛けてくれるが失敗だ。

 オレはみーかに心配して欲しい訳じゃない。

 というかだ。


「おっぱじめるってお前……。一度たりともオレお前の前でおっぱじめたことないだろ!」

「今日は違うかもしれないじゃないかあ」


 みーかはさらっと言ってのけるがオレが内心ドキドキだ。

 他の女ならこんな事何の事無く言えるのだがみーかには無理だ。

 オレは惚れるととことん弱いのだ。


「そしたら、出ていけばいい。というかそんなことお前のまえでホントしないから」

「おっぱじめても私は見ているよ。はじるしが能力を使って何を成すのか見届けたいから」


 そう、監視と言う分けでは無いのだがみーかはオレが能力を使うとき必ず立会い最後まで見ている。そりゃ嫌だといえば見ないだろうが一緒にいられるのであればオレはうれしい。

 で、みーかがこう言うことに対して強気でおっぱじめるとか言うのは……。

 まあ、強がり何だろうな。

 兎にも角にもおっぱじめるおっぱじめる等とみーかにこのまま言わせ続けたらオレの心が泣いてしまう。


 仕方が無い、ここは取っておきのアレを出そう。

 オレは備え付けられた冷蔵庫から苺と牛乳と水を取りだし、棚から砂糖と道具を取り出す。


「何を始めるの?」

「まあ、見てろって」


 オレは苺と牛乳と砂糖をミキサーにいれてかき混ぜる。

 出来上がったモノを目の細かい網でゆっくりと丁寧に種や細かくしきれなかった繊維等を取り除いてコップに移しみーかの前に出す。


「あ、ありがとうはじるし」


 はじるしと言うのはオレの名前だ。

 本当は葉印とかいてハインと言うのだが大体察してくれてみんなはじるしとオレを呼ぶ。

 オレが生まれる少し前にはやった映画の主人公の名前だそうだ。

 おっと、名前を呼ばれて少し嬉しかったので忘れる所だった。


「おっと、まだだった」

「えっ? まだ何かあるの?」


 あるのだ。

 オレは冷凍庫からバニラアイスを出すとそれをスプーンですくってイチゴ牛乳の上に載せてやる。


「どうしたの突然?」


 反応はよろしくない。あっれぇ? 「わぁすごい、はじるしこんな事できるんだぁ」とか言って貰える場面じゃないのこれ?

 内心落胆しながらもオレは強がって見せた。


「ちょっと格好をつけたかっただけだよ」

「そうなんだ?」


 みーかの為にイチゴも種からオレが作ったんだが重すぎる気がしたのでいわないでおく。


「うん。おいしい」

「それは良かった」


 さて、話題は逸らせた。

 言うならイチゴ牛乳飲んでて喋れない今だろう。

 オレは高なる鼓動を押し殺し、さっきとりだした水で沸きあがってくるモノを無理やりいに戻すと、勇気を振り絞って言葉も振り絞る。


「みーか。週末にこの三つのどれかに行こうと思うんだが相手がまだ決まらなくてな。良かったらどうだ?」


 そう言ってオレは遊園地、動物園、水族館のチケットをみーかに見せる。


「うん、いいけど、私でいいの?」


 OKもらえたのでオレはほっとして変な言い回しを辞めることにする。


「正直にいうと、みーかに断られたら一緒に行く相手などいない。みーかは、オレが誰かと仲良くしている所なんて見た事あるか?」

「無いよ。でも、私のしらないところでは沢山の女の子と仲良くしてそうかな?」

「心外な……」


 まあ、まったくもってその通りなんだけど。

 深く突っ込まれたらどうしようか、嘘は付きたくないんだがと構えたがみーかは触れてこなかった。


「ふふっ、私、この水族館がリニューアルするって言うから行ってみたかったんだ」


 知ってる。

 みーかが水族館を好きなのも知ってるし、リニューアルするのも知っている。

 だからさそったのだ。


 水族館のチケットを手にとり喜ぶみーかの笑顔を盗み見ながら幸せな放課後の一時を楽しんだ。

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