イベント発生・・・?
ひたすらに趣味に走ります!
「・・・・・」
「・・・あの、殿下?」
「なんだ?」
「その、どこか体調でも悪いのですか?先ほどから眉間に皺が・・・」
「・・・すまない。少し考え事をしていただけなんだ。悪かったね」
ティファナが心配そうに見てきたことと、その言葉に知らず顔が険しくなっていたらしい。
せっかくティファナとお茶を飲みながら、ゆっくり過ごしていたというのに、これではティファナに申し訳ない。
まだ、少し心配そうに見てくるティファナに、再度心配しないよう伝えようと口を開く。
「ティ「マナミさんのことですか?」っ!」
ティファナは表情を少し引き締めて言ってきた。
やっぱり、ティファナも気になるよな。
「まぁ、な」
と、この聡明な彼女にここで変に嘘をついてもあれなので、苦笑しながら肯定する。
ゲームの通りヒロインであるマナミは俺たちがいる学園へと来ていた。
そして、これもまたゲーム通り攻略対象者となる人物達にも出会っていた。
まぁ、ここまではいいだろう。出会ったところではまだ何も起こらないだろうし、そもそも攻略対象となる人物とこの学園で接点なく過ごすことは彼女にとっては難しいだろう。
宰相の息子サフィールと騎士団長の息子アデルは前回の謁見の場にいなかったが、親から話しは聞いているだろうし、公爵の息子つまりティファナの2つ上の兄も同様に知っていたと思う。
異世界人を今後どうしていくのかはまだわからないが、少なくともこの世界、国において少なからず重要人となってくるだろう彼女の立場を考えれば、同じ学園にいる俺たちが学園でのその人となりを見極めなければならない。
・・・のだが。
「あれには、な」
再度、苦笑気味に隣に座るティファナを見ると、先ほどの厳しい顔を少し和らげ、といっても親しい者にしか分からない程度の変化だが、同じように苦笑して頷いている。
「異世界ということで、心細い思いをされているかと思われます。もしかしたら、あの態度もその裏返しともとれます。しかし、あの態度は少々目に余る部分があるように思われます。」
そう、マナミは俺の微かな希望とは正反対の行動を取っていた。いやゲームでいえば正常なのだろうが・・・。
攻略対象者達と出会ったマナミは、学園で友人だろう人たちと仲良くなり(ゲームでは名前も出てこないが)楽しげに学園の生活を送っていた。
それを見た俺が、もしかしたらと思った矢先、それは起こった。いや、あれは気を抜いてしまった俺の失態だ。
それは食堂で起こった。
俺はもちろんティファナと一緒に食堂に昼食を食べに行った。
食堂に入った瞬間にそれは聞こえてきた。
「異世界から来たからって私たちとは立場が違うのですから、少しは自重なさったら?」
「食事の作法1つも知らない方にそれは難しいのでは」
それから聞こえる隠した笑い声。
食堂の入り口付近のテーブルに座っていたヒロインと近くにいる数人の女子生徒の姿が目に入る。
俺は、これがイベントであることを瞬時に思い出した。
幸い一緒にいたティファナはまだ気づいていないようだ。
だったら、この場はすぐに引き返すが正解「あ!」・・・げ。
その小さくも響いた声にいくつかの視線がこちらに向いたのがわかった。
もちろん声を上げたのはヒロインであるマナミ、視線を向けたのはマナミと数人の女子生徒、そして近くで食事をしていた生徒の何名かであった。
女子生徒は「で、殿下」と言ったあと、なんとか取り繕うとしている様子が見られる。他の生徒は成り行きを見ている。
俺の本音で言えばマナミをスルーしたかったが、一応この国の王子である俺が、異世界人として国で保護しているマナミをそのままにしておくのは、正直まずかった。
近くにいた生徒もマナミが何を言われていたのは聞いていたらしく、王子である俺がどのように動くかを見ていた。
しかし、これがあのイベントだとすると、正直関わりたくない。
「これはどうしたのですか?」
俺がどう動くかと考えていると、少し後ろにいたティファナが女子生徒やマナミに対し聞いていた。
聡い彼女のことだ、この空気を見て動いたのだろう。
女子生徒は「いえ、あの私たちは」と慌てて話し始める。まとめると食事のマナーがメチャメチャだったから、アドバイスしていたということだ。
明らかに言い訳なのがバレバレだ。ティファナもそれは感じたのだろう。だがあえて彼女はそれについて言及はしなかった。
「そうでしたか。彼女はこの世界に来たばかり、作法1つにしても知らないことは多いでしょう。その為にこの学園に来たのですから。学園での学び以外でも多くのことを学べるよう、皆さんも善き見本となるようにしてくださいね。」
ティファナとさりげなくマナミを庇いながらも、女子生徒たちにもやんわりと忠告する。
にっこりと最後は女子生徒を見て話すティファナに俺は惚れ直す。
ここであからさまにマナミを庇うこともせず、女子生徒ひいてはこの場にいた生徒に対し、忠告することで、今後同じようなことを起こすことのないように予防する。マナミを全面に庇ってしまえば、公爵令嬢に贔屓にされていると新たな火種にもなりかねない。そこをわかってティファナはああ言ったのだ。
相手への配慮や周りを見る視野の広さ、見た目だけじゃなく中身まで最高の俺の婚約者。
「あ、ありがとうございます!」
いつの間にか女子生徒はその場から離れ、マナミは俺とティファナに頭を下げてお礼を言っている。
マナミは「本当に助かりました。」と目を少し潤ませながら気持ち見上げるように俺を見ている。
いや、俺じゃなくて助けたのはティファナだけどね。いや、だからその感謝はティファナにしてくれ。
マナミは俺たち(若干俺寄り)の正面に立って話している。そして、時折ティファナに視線を向けるも俺をガン見してくる。
「いつもは友達と一緒にご飯を食べてたんですけど、今日はみんな用事があって・・・。私、本当に恐くって・・・。」
「・・・それは大変だったね」
俺はその一言を返すのが精一杯だった。
だが、それに気をよくしたのかマナミは聞いてもいないことまでぺらぺらと話し出す。
いつまでも立って話しているマナミにいい加減うんざりしてきた俺は「食事の途中だったのでは」とさりげなく彼女の話を遮り伝える。
「あ、そうでした!あの、良かったら一緒に食事を召し上がりませんか?」
ザワ
密かに聞き耳を立てていた周りが驚いたのが分かった。
まぁ、王子である俺と一緒に飯食べようとか普通は言えないもんな。
もちろん、友人達と食事をとることはあるが、それはあくまで俺も認めている友人だけだ。
それが、出会ってまだ数日と経たないマナミが食事に誘うとか。普通に考えてないだろ。
「いや、俺は婚約者のティファナと一緒に食べるから気にしないでくれ」
そう言って、俺はティファナの肩を抱き寄せて断る。ティファナも「また今度」と返事をしている。
「そんな・・・」
俯いてしまった彼女にもうこの場にいても仕方ないので、彼女を背にしてテーブルに向かおうとすると「あの!じゃあ、明日一緒に食事を!」と再度マナミの声が聞こえ、嫌々ながらも後ろを振り返ると俺たちの後を追おうとしてバランスを崩したマナミが視線に入る。
まずい!このままだとティファナにぶつかる!!
俺はとっさにティファナの前に出て、彼女を庇うようにして倒れてきたマナミを抱き留める。
マナミは「ごめんなさい!」と言いながらも俺から離れようとはしない。いささか強引にマナミをその場に立たせ彼女から離れる。それでもマナミは「大丈夫ですか?」と言って俺の腕に触れながら俺の顔をのぞき込むように見上げてくる。俺は大丈夫だと伝えながら、マナミの腕を離す。
まだマナミは何か言いたげだったが、俺はマナミをおいて今度こそティファナと一緒にその場を離れたのだった。
「殿下に対する態度や行動・・・もしよろしければ、私からも話しをしておきましょうか?」
「駄目だ!」
「え?」
ティファナの言葉に俺は思わず大きな声を出してしまった。ティファナも驚いた表情で俺を見ている。
「あ、いや。それは、俺から伝えておこう。それから教師にも今回の事は伝えておくから、ティファナは大丈夫だよ」
「そうですか。殿下がそうおっしゃるのでしたら、わかりましたわ。でも必要とあらば、私にもお声を掛けて下さいね」
「あぁ、その時はお願いするよ」
その後はマナミの話しをすることなく、談笑し充実した時間を過ごした。
ただ俺の心の底では不安が渦巻いていた。
そう既にゲームは始まっている。
俺は改めてそのことを強く感じた。
だからって、ゲームの通りに行くとは限らない。
俺はティファナと甘い生活を実現させるために、全力で君の妨害をさせてもらうよ。
マナミが動かしづらい・・・。