ヒロイン登場!・・・俺はスルーしてください。
勢いで2話書いちゃいました。
今後はゆっくりになると思います、
「そんな、もう元の世界に帰れないの?」
悲壮な表情でうっすら涙を流す姿は、可憐な少女そのもの。
周りを見ると、気の毒そうな表情をしていたり、同情するような表情で見ていたり、中には既に彼女に見惚れている者までいる。
ここは王城の、更に言えば謁見の間であった。
俺は王と王妃が座る斜め後ろに兄と並んで立って、その様子を見ていた。
あー、マジでヒロインかよ。
もしかしたら、ゲームとは違うかもしれないと期待していた俺だったが、突如王城の中庭に少女が現れたと聞いて来てみれば、ゲーム通りの見た目だった。
ストレートの黒髪を腰あたりまで伸ばし、髪と同じ黒い瞳は大きく、造作も整っている。十分可愛いといえる見た目だった。
そして、先ほどの台詞と態度。
そう『ゲーム』と全く同じ。つまりは、このヒロインによって誰かが攻略されていくということだろう。
いや、攻略というのもおかしいか。
俺はすぐにそれを否定する。それはこれがゲームだと思って行動する者の考えだからだ。
ここは今の俺や他大勢の人が暮らし、生きている世界なのだから。ゲームのように進めるとか、攻略なんて言葉を使うこと自体が可笑しい。
の、だが・・・先日、記憶が戻って(?)きた俺にとっても、17年間生きてきた今の世界と、記憶にある前回の世界の記憶との狭間ではっきりと区別できないというのが、本音だったりする。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
問題はここからだ。
とりあえずは、彼女「マナミ」は王城に保護されるはずだ。
話しもその方向で進んでいる。
この世界では、過去に何度か異世界から人が来ているらしい。らしいというのも、数百年に一人くらいの割合らしく、前回も150年前に異世界から来たという記録が残っている。
ここが、魔王がいる世界とかであったならば、勇者召喚とかもあったかもしれないが、ここには魔王なんて存在もなく、軍隊はあるがそれは隣国との警備の為で、戦争なんてものもここ最近はない。
それでも、異世界から来てしまった以上放置するわけにもいかない。
王城で保護してこの世界に馴染んで、ここで生活してもらわなければならないのだ。
ふと視線に気がつき、そちらを見て・・・即座に目線を逸らした。
目が合ってしまった。
頬を赤らめ先ほどとは違った意味で瞳を潤ませたヒロインが、俺を見ていた。先ほどまで悲壮な表情をしていたとは思えない。
目線を逸らした後に、しまったと思った。確かゲームでもヒロインが不安そうに周りを見ていると王子と目が合い、すぐに目線を逸らす場面があったのを思い出したのだ。
先ほどのヒロインが不安そうな表情だったかと言われれば、何ともいえないが。
イベントともいえないような場面ではあったが、自分のとった行動が(拒否という意味を持っていたとしても)ゲームと同じになってしまったことに落胆する。
いつの間にか謁見も終わり、マナミは部屋に案内され、俺も部屋に戻った。
いや、でもこれでゲーム通りになるとは限らない。
今後のイベントを全てスルーしていけば!そもそも俺ルートとは限らな・・・。
と、俺は一人部屋で考えてハッとした。
いや、待て。もし仮に俺以外のルートだったとしよう。
宰相の息子、騎士団長の息子、この二人は駄目だ。この二人にも既に婚約者がいる。
それにあのヒロインが二人のどちらかと結婚なんてしたら、あのわけわからない言動で周りが迷惑することは目に見えてる。
隣国からの留学生、これも上の二人と同じ理由で却下。
これは公にはされていないが、その留学生実は隣国の第二王子だったりする。これは学園でも数人の教師と、王族しか知らされていない。
まぁ理由は色々あるだろうが、飾らないこの国の内面が見たいとかなんとかだろう。
公爵の跡取り・・・絶対嫌だ。あの二人に比べたら、今現在婚約者はいない。公爵だから少なからず力はあるが。それよりも問題なのは、ティファナの兄という点だ。
つまり結婚すれば俺の義姉になるということ・・・それは俺が嫌だ。
なので、公爵の跡取りも却下。
最後に、隠しキャラだが・・・これはあまり心配しなくてもいいか。
あの二人がくっつくことはない。それは断言できる。
・・・・あれ、大丈夫なキャラがいない。
と、とにかく今はヒロインの様子を見よう!
もしかしたら、ヒロインがゲームの性格そのままとは限らないし!
もしかしたら、この国のこと考えて現実的な良い案出したりするかもしれないし!
もしかしたら、何もせずに平穏に暮らすとかもありえるし!
もしかしたら・・・
俺はそんな期待薄な思いを胸に、先ほどよぎった不安を隠してその日の夜は寝たのだった。
ヒロインが一言しか話してない。
というか、ヒロイン以外話してない。。。