エンディング?
なんだか当初予定していた婚約者とのラブラブ成分が少ない・・・。
「今夜か・・・」
寮の自室で俺は一人これまでのことを思い馳せていた。
姉との再会から半年が経った。今日は終業式だ。あと数時間もすれば学園に準備されている会場でゲームで言うところのエンディングが行われる。でもそれはあくまでゲームとしての終わりだ。
もちろん、今日ゲームのようなエンディングはない。
確率で言えば限りなくゼロだ。
あの日、姉と再会してからの姉というか王妃の行動は目には見えないものの凄いスピードで行われた。それはヒロインであるマナミの監視兼家庭教師であったり、学園に密かに配置された警備という名の監視だったり・・・。
あれ、最初からこうすれば良かったんじゃねっていうのは考えないでおく。俺の努力や苦労は決して無駄じゃなかった!・・・はず。
姉の対応に感謝しつつも油断できないことも多々あった。それは監視がついたことで行動が制限されたはずのマナミだったが、ゲームの補正力なのかイベントが起こってしまうことがあった。けれど、誰とも好感度が高く無い状態でのイベント発生であった為、ゲームのようには進まなかった。
結果俺含め攻略対象者達は誰一人としてマナミを恋愛対象として見ることはなかった。
聞いたわけではないが、それぞれのマナミに対する対応だったり、それぞれの婚約者との様子を見た限りでは大丈夫だと言える。
ゲームでは悪役令嬢だったティファナも直接マナミに何かを言ったりということはなく、俺だったり教師へ相談してくれたおかげで、授業以外での接点は殆どなかった。
マナミはティファナが何もしてこない為か、自分から二人っきりになりたい様子もあったが、そこは監視兼家庭教師が止めていた。
さて、そろそろ俺の婚約者を迎えに行かないといけないな。
もちろん、終業式という名のパーティーへのエスコートの為だ。
「殿下、本日はエスコートしていただき、ありがとうございます。」
「婚約者なんだ、当たり前だろう。それより今日は一段と美しいな」
「まぁ、ありがとうございます」
あぁ、本当に今日も可愛い。いや、美しい。本当にこんな美人が婚約者で俺は幸せだ。
目の前にいるティファナは俺が彼女の為にと選んで送ったドレスに身を包んでいる。普段は下ろしている髪もアップにしている為、今日の彼女はとても大人びた女性に見えた。
俺の言葉にも嬉しそうに微笑みながら返してくれる。
チラッと周りを見れば各々婚約者と一緒にいるのが見える。
ルイだけは婚約者がいない為、友人たちと一緒にいるようだが。
って、え、パーシヴァル知らない女の子と一緒にいるし!
俺は見たことない子だったが、その可愛い系の女の子と楽しげに話しながらも時折愛おしそうに見る様子からして、パーシヴァルはその子に好意を持っているようだ。彼女の方も嬉しそうにパーシヴァルと話している。
いつの間に・・・・。
そういえば、マナミの姿が見当たらない。既にパーティーも始まっているのだが、多くの人が集まったこの会場で見つけるのは難しい。
俺が周りに気づかれないよう辺りを見渡していると、会場の扉が開いた。
会場の人々は誰が来たのかと視線を向ける。そこにはマナミが一人慌てた様子で立っていた。
一人?
周りも一人で来たマナミに不思議そうな視線を送っている。それもそうだ。こういった式やパーティーに出る際、女性は必ず男性のエスコートを受けて来るものだ。婚約者がいればもちろん婚約者と、いない場合でも男性から誘われたり、それもなければ男性の親族にエスコートしてもらうもの。マナミの場合は親族はいないから、城の護衛がエスコートにつくことになる。
これはゲームでも同様で、誰も攻略出来なかった場合は城からモブキャラが来て一緒に会場まで行くのだ。だが、マナミにはそのモブキャラもいない。一体どうして?
マナミは周りの視線を集めていることなどお構いなしに、誰かを熱心に探している。そしてその視線が俺の方へ向くと一瞬目を見開いた後、険しい表情でこちらに歩いてくる。
周りを見ればこれもゲームの補正なのかと疑ってしまうほど、いつの間にか攻略対象者達が俺の近くに集まっていた。
数分もしない内にマナミは俺とティファナの前に辿り着いた。王族への礼なんてしない。だが、俺はそんなことどうでも良いくらいの衝撃を味わう。
「どうして、来てくれないんですか?!」
「・・・・・は?」
俺は思わず間抜けな声を出してしまう。
いやいやいや、何言ってんの?まさかエスコートのことか?だとしても約束なんてしてないし、そもそもなんで俺がお前を迎えに行いかなきゃならないんだ??
ティファナ含め周りも何言ってんだ?といった様子でマナミを見ている。
「あー来てくれないとは、何のことだ?俺はお前と何か約束をした覚えはないのだが」
「確かに約束なんてしなかったけど、でも迎えに来てくれるはずでしょ!」
とりあえず、マナミに確認したのだが、返ってきたのは意味不明な内容だった。いや、意味不明なのは俺の周りで聞いていたティファナたちで、俺自身は何となく分かった。
つまり、ゲームの通りの逆ハーエンドでいけば俺がヒロインを迎えに行くはずなのに、何故来ないのかということだ。
はぁぁぁぁぁ、どこまで馬鹿なんだ?
ここまで来て俺が、いや俺以外の攻略者含めお前を迎えに来る男がいると思ったのか??
本来のゲームの流れだって前日に迎えに行く約束をするイベントがあっただろ。
それがないってことは、ゲームだってバッドエンドなのに、なんでここまで来て分からないんだ?
マナミはそんな俺の呆れた様子には気づかずに話しを続ける。
「イベントだってちゃんと進めたのに、誰も好感度上がらないし!悪役令嬢は全然悪役令嬢じゃないし!私がヒロインなのに!」
いや、好感度上がってないの気がついてんならバッドエンドだって分かれよ!
しかも何言っちゃってんの。そんなことこの場で言ってる時点で終わってる。
ほら見ろ、周りの可哀想なものを見る目を。
チラッと俺たちがいる会場より高い位置にある席で事の成り行きを見ていた王妃に目を向ける。
扇子で口元を隠してはいるが、俺と同様呆れているのが見て取れた。俺の視線に気がついた王妃は一つ頷き、隣に座っていた王へ耳打ちしている。
ま、これでゲームは終わりだ。
マナミはバッドエンド後は平凡な学園生活を送り、一国民としてこの世界で過ごしていくことになるが、この様子を見る限り良くて更に厳しい監視付きで学園生活を送るか、悪ければ精神を病んでいるとして隔離されるだろう。
視界の端で王が席を立つのが見えた。
お、マナミの今後が決まったみたいだな。
「マナミの今後だが」
王が話始めるとざわついていた会場が一気に静まり返る。
誰もが王に注目する。あのマナミでさえも回りの雰囲気に気付いたのか「なに?なんなの?」とぶつぶつ言ってはいるが、一応声は抑えていた。
「学園での様子、そして今の言動その他を踏まえ、その者は無闇に秩序を乱したとしてルスティリア修道院へ入ってもらう」
ザワッ
ルスティリア修道院・・・ね。
そこは、いくつかある修道院の中でも特に規律なんかが厳しく外出もろくに出来ないとか。
特にマザーと呼ばれるもう結構な年の女性がとにかく厳しい。何故知ってるのか、そりゃ俺の幼少期の作法の教師だったからな。
いまだに顔を見ると逃げ出したくなる。
そんな所に入らされるなんて・・・ま、自業自得だな。
マナミは「ルスティリア修道院?なにそれ?」とよく分かっていない様子だったが、自体はそんなマナミを置いて進んでいく。こちらに向かって会場の警備をしていた騎士達が向かってくるのが見えた。
これで終わりだ。
あと少しです!
・・・たぶん?