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初の遭遇!ビギナーハント!

遅れてすいません…

木でできた扉の前に立つと、自動で扉が開いていった。

リアルに作るのなら、手押しじゃなければ開かないとかそういうシステムをつけておいてほしかった。


しかし、この程度で不満を感じてちゃあこの先やっていけないだろう。

さっさと慣れるように努力しよう。


気を取り直して、カウンターへと足を進める。

雰囲気はまるで市役所の受付のようだが、プレイヤーたちの活気のいい声が緊張を解してくれる。


どうやら、職員の中にはプレイヤーも混じっているようで、しかもほとんどの人が女性だ。

中には男性もいるようなのだが、そのいかつい体格のせいか、人が全く並んでいない。


俺としては男だろうが女だろうがどうでもいいので、一番空いている男性の前に立つ。


すると、その人はまるで珍獣を見た時のような眼でこちらをみてきた。

いかにも驚きを隠しきれませんって顔だ。

しかしさすがに職員なだけあって、五秒とたたず真面目な顔つきに戻っていた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。あんた、見たとこ初心者だろ?」

「あっ、はい、そうなんですが…なんでわかったんすか?」

「お前は無意識かもしんねえけどよ、さっきからキョロキョロしすぎなンだよ。興奮してんのはわかっけど、もう少しおとなしくしとけや。」

「さーせん…肝に銘じておくっす…」


どうやら、知らず知らずのうちに目線があっちこっち遊んでしまっていたらしい。

確かにこれでは、「自分、初心者です」と周囲に吹聴して回っているようなものだ。


頭をポリポリとかき、恥ずかしさを紛らわす。


「はあ…まぁ、いいけどよ。で、用は何だ?クエストの受注か?それとも武器訓練か?」

「えっと…クエスト受注で、お願いします」


メッセージ通りにギルドにやってきてからは、半ば無意識で職員に話しかけていた。

なので、その先をどうするか考えていなかった。


とっさにクエスト受注だとは言ったが、何を受けるかもまだ決めていない。


「…ほらよ。好きなの選びな。」


目の前に出現したメニューウィンドウの、クエストの欄をざっくりと眺める。


攻略サイトでは、初心者は信頼できるメンバーでパーティを組んで、できるだけ危険度の低いクエストに向かったほうがいいと書いてあった。

なぜなら、一人だけでは俗にいう「初心者狩り」や、悪質な「パーティ詐欺」などに引っかかる可能性が高いからだ。


しかし俺はあえてソロで行く。

友達がいないのかと聞かれれば、答えはNoだ。


俺の友達の中にもこれをやっている奴はいるし、ネットで親交が深い人も何人かいる。

じゃあなぜ友人たちとパーティを組もうとしないかというと、彼らにサプライズをしたいからだ。


「実は俺ももう始めてて、お前らほどじゃないけどレベルも上がってんだぜ」とカッコつけたい。

大半の人はくだらないと思うだろうが、どうせそこまでやりこむ気のないゲームだし、それまでの過程で何度PKされようがさして問題はない。


手っ取り早く稼げそうな、最弱モンスター「ブルスラ」の群れの撃退を選択する。

金の入りも少ないが、慣れるにはこれが一番だろう。

決定ボタンを押し、ウィンドウを男性へ返す。


すると男性は、いぶかしげな表情で俺をちらりと見てきた。


「お前本当にこのクエスト受けンのか・・・?」


お前には無理だ、と存外に告げられているような気がして、少し怒気を孕んだ声で返答する。


「そうっすけど…何か問題でもありますか?」

「いや…ねえけど…」

「じゃあ認証お願いします。」


俺がそういうと、男性はひとつ大きなため息をつき、何やら個人ウィンドウを操作しだした。

そして数秒後、俺のメッセージボックスに一つの通知が入った。


内容は、「『剣人』ガイさんからギフトが送られました。」というもの。

中身を見ると何も書かれておらず、代わりにアイテム状態の大剣が封入されていた。


「あの…これ…どーゆーことっすか?」

「俺からの餞別だ。てめぇがあンまり初心者丸出しだったからな。せいぜい頑張ンな」


ちょっとイラッときたが、素直に受け取っておいた。

そして同時にクエストも認証されたようだったので、軽く礼を言ってからギルドを出る。


その後、街の端のほうにある転移ポータルまでダッシュで移動し、そのまま「始まりの草原」へと転移した。







「初心者丸出しの野郎がパーティも組まずにまぁノコノコと…」

「きっと事前情報も見ねえようなゲーム初心者だろーな。…どうする?ドロップも少なそうだし、やめとくか?」

「バーカ。あーゆー奴に限って案外ログインボーナスため込んでたりすんだよ…黙って続けんぞ。」









ロード中のアイコンが消え、次に感じたのは肌をなでる風。



「ん・・・おおっ!」



視界の限りに広がる緑、緑、緑。

精巧に再現されている、大地や気候。

改めてそのすごさに感じ入るばかりだった。


ちらほら見える他のプレイヤーの動きはどこかぎこちなく、彼らもまた初心者なのだろうとうかがえた。



「おっと…感動してる場合じゃねえな。群れは・・・あれか。」



クエストのことを思い出し、マップを見てブルスラの位置を確認する。


俺を示す青い点と、モンスターを表す赤い点との距離はそれほど遠くはなかった。

また向こうから迫ってきていることもあり、どうやら自分から動く必要はなさそうだ。


「えっと…確か…メニュー、アイテムボックス、武器、装備…で、決定っと」


手順を一つ一つ確かめるように、口に出しながら行う。

それらの動作を終えると、初期装備だった布の服は消え、代わりに体には革の鎧が装備されていた。

背中には強面の職員からもらった大剣が装備され、ようやく冒険者らしい格好になった。


ちなみに、布の服装備だったことが初心者と思われていた原因の一つだと気付くのはもう少し後のことである。


今度は武器の確認だ。

背中の大剣を手に取り、思いっきり三回ほど振る。


やはり最初から大剣は無理があったのか、振られている感が否めない。

それでも何とか動かすことができているのは、ひとえにこれがゲームだからということだろう。


それでもずっと持っていると疲れそうなので、大剣は地面に突き立てておく。


改めて位置確認をしようとすると、目の前に「クエスト開始」のポップアップが現れ、すぐに消えた。


無意識に顔を前に上げれば、群れは既に視界でとらえられる位置にまで来ていた。


「よっしゃ・・・!初陣、気合い入れてくか!」


言葉で自身を鼓舞することで意識を切り替え、目の前の敵に集中する。

大剣を地面から抜き、それっぽく正面に構える。


当然剣道なんざやったことはないので、はたから見れば失笑もののヘタクソな構えだろう。

しかし今はそれで充分。

本来かけだしの初心者が持っているはずのない武器に、ましてや相手は最弱モンスターの群れ。

正直負けるほうがおかしい。


もう二秒ほどで直撃する群れ。

よりはっきりと見えるようになったそれらをみても、やはり恐ろしさは微塵も沸いてこなかった。


上がる口角をそのままに、俺は大剣を大きく振りかぶり…



「っせい!」



迫る群れの先頭に全力で振り下ろした。














「ラストっ、一匹ぃ!」

『REVELUP!』



最後のブルスラを思いっきり叩き潰す。

ほぼ同時に鳴った二度目のレベルアップ音とともに、クエストは終了した。


経過時間は30分。

ガッチガチの初心者でもこれほどはかからないってレベルの時間。

他の初心者よりも攻撃力の高い武器を持ち、事前に何度も動きを予習した上でのこの結果。

状況的にはスタートラインにおいて一歩どころか五歩ぐらいリードした上での30分。

しかもただ時間がかかっただけでなく、実は回復アイテム全使用済みである。

つまり…



「俺ってゲームヘタクソ過ぎかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



俺は致命的にゲームがヘタクソだということだ。


考えてみれば前例はあった。

格闘ゲームではコマンドを覚えられず一方的にあしらわれる。

FPSでは信じられないほどの糞エイムを叩き出し、味方への意図しない誤射率は70%。

パズルゲームでは手が追いつけずほぼ相手のソリティア。

RPGでの死に戻り回数はセーブ回数よりも多い。


でもVRなら、直感で動かす肉体がコントローラーのゲームならと、そう期待をかけていたのだが…


結果は惨敗。

これからやってれば上達するなんで希望を語らなくなるぐらいにはひどい結果だ。


当然心が折れた。


(なんかもういーや。街に戻ってログアウトして寝よう。)


無言で転移ポータルに向かって歩き出す。

これ以上やっても本当に時間の無駄になるだけだと、普通に理解できた。

視界は草原をうつすも、脳が認識しているのはただの緑。

風も感じず、他プレイヤーを意識することもない。


すっかり諦めモードとなり、受け取った情報をスルーしてしまっていた。


そのせいなのか、それとも単に知覚能力が低かったからか。

俺は、すぐ後ろで武器を振り被っている三人に気付くことができなかった。



「えっ…」



剣撃スキル特有のエフェクトが視界の端に映り、次に聞こえたのは斬撃音とHP全損の音。

すぐさま体はアイテム状態となり、自身の持っていたアイテムがばら撒かれるのが見えた。



「運が悪かったたぁいわねぇが、お前の実力があんまりにも無さ過ぎたってのが駄目だったな。」



状況が理解できない。

視界だけが動き、体は一切動かないこの感覚。

これが公式で説明されていた、死亡直前の蘇生猶予状態だというのはわかる。



「まったまたぁ!俺らが対象の強さで襲撃変えるとかマジありえねぇーっしょ!」



じゃあなぜ突然自分がその状態になっているのか。



「おっ、こいつぁ「剣人」が最近ドロップしたとかって言われてる大剣じゃねーの!?」

「マジかよ!?てことはコイツ…なんかつながりでも持ってんのか?」



体は動かないのに視界は動くということを利用し、俺を囲んでいる奴らを見渡す。

確認できたのは三人。が、ここより少し離れたところでPKっぽいことをしている奴も含めれば六人。


声と表情から予想するに、俺はこいつらにPKされたということだろう。

何故、と思うが、こういった手の輩にとっては理由なんてモノは存在しないのだろう。

まぁ、確かに俺が弱かったからってのもあるだろうが。


「気にすんなよ。「剣人」程度のヤツなんざ何人も見てきただろ?」

「確かにな。今更か。」


意外なことに、怒りや悔しさ、悲しみなどは感じなかった。

辞めるつもりでいたゲームのデータをどうされようがかまわないといった心境なのだろうか。



「しっかし楽勝すぎたな…ここまで下手なのも初めてだぜ。」

「まぁまぁラッキーってことでいーんじゃねーの?」

「こんな腕前で良くゲームしようなんて思ったなぁ!俺なら恥ずかしくて無理だね!」


「「「ハハハハハハ!」」」



前言撤回。メッチャ頭来た。

明らかにこっちをみながら煽ってきてやがる。こいつ等ぜってぇ許さねえ。

意地でも仕返ししてやる。


我ながら実に単純だが、このゲームをやりこむ理由はできた。

蘇生地点に転移する前に三人の顔をしっかりと目に焼き付ける。


そして直後、俺の体は草原から消えた。


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