初のログイン!ゲームスタート!
「ついにっ…ついに手にいれたぞぉぉぉぉぉ!」
一人以外誰もいない家の中、俺は歓喜の声を上げていた。
なぜなら、今日、やっと、ついに、あの有名なゲームソフト「REAL BREAK ONLINE」本体とヘッドギアを購入することができたからだ。
実に長かった。何せもう発売からすでに半年が経過しているのだ。
何故初回生産で買わなかったのかと疑問に思うやつもいるだろう。
しかし、俺は自分の意志で買わなかったのではなく、純粋に金欠で買えなかっただけだ。
親から小遣いをもらっているわけでもない普通の高校生が、発売初日にまとめて八万円用意するのはいささか無理があった。
だから俺は、発売日からそれはもう必死でバイトをした。
人生の中で一番必死になったんじゃないかってぐらいそれはもう全力で。
無理なバイトの影響で落ちた成績と引き換えに、俺はこうしてゲームを手に入れることができたのだ。
親のお叱りはとうに喰らっている。
そんなに言うくらいなら最初から買ってくれればよかったじゃないかと反論したが、その分説教の中身が増えただけであった。
とにかく、今はこれを楽しむことが先決だ。
トイレにも行った。水分補給もした。
親に邪魔されないためにわざわざ誰もいない日を選んだ。
「完璧だ…っ!」
今の俺を止められるものはもはや誰もいない。
カードリッジをヘッドギアにセットし、それをかぶってベッドに寝転ぶ。
後は起動音声を叫ぶだけ…!
「いくぜ…!リアルブレイク!」
VR機器特有の独特な起動音の後、俺の意識はゲームへ転送された。
「アバターを設定してください」
流れたのは、女の人の合成音声。
同時に視界に映ったのは、複数の顔サンプルに、その他メニュー機能と思しきアイコン達。
「この中から顔を選べってことか…」
他にも自分で細かい調整をしたり、撮影機能を使って自動作成することも可能なようだ。
自分の顔以外の顔で活動するのもなんか気持ち悪いので、撮影を選んでおく。
フルフェイス型じゃなければそれもできなかっただろうから、買っておいてよかったと実感した。
「肉体設定を行って下さい」
次は体形などの設定のようだ。
ここで奇をてらって極端なものにしてもいいのだが、リアルの顔にそれは不自然だろう。
これもまた現実準拠の中肉中背にしておく。
人間以外の種族も選べたようだが、なんかめんどくさそうなのでやめた。
「続いて最終設定となります。後悔の無いよう、慎重にお選びください。」
これいよいよ最後の設定らしい。
名前とか、初期ステの割り振りとかを決めるステップ。
極振りとかも面白そうだけど、そんなピーキーなのを使いこなせるようになるとは到底思えない。
おとなしく全ステータスにまんべんなく割り振っておいた。
「どーせ廃人プレイもするつもりもねーし、気楽にやっか。」
このゲームのすごいところは、単純にRPG一辺倒なだけでなく他のゲームの要素もカバーしているところだ。
つまるところ、俺みたいな浅いプレイヤーにも十分楽しめるゲームとなっている。
どうせやるなら広く浅く、いろんなのをやってみたいと思う。
考えながら打ち込んでいると、いよいよ最後に名前を設定するだけとなった。
これは重要だ。
なぜなら名前とは、今後の快適なゲームライフを左右するといっても過言ではない要素だからである。
残念なことに、俺にこういった創作のセンスは壊滅的にない。
自らが決めた名前では自信がないので、こういうときのテンプレ。
自分の名前をもじったものに設定することにした。
「一発」を翻訳先生にかけると、「One shot」とでてきた。
ならばこれから頭文字をとって、O・S。
…いや、これじゃなんか駄目だ。
「OS…うーん・・・。せめてONEってのが入ってるとかっこいいと思うんだけどなあ…」
悩むこと約数分。
最終的に決まったのは「ONCE」。
結果的に、「一発」からはかけ離れた意味になってしまったが、これ以上考えても泥沼にはまりそうなので諦めることにした。
名前を意識することで打ち込み、決定ボタンに指をかざす。
「最終確認となります。本当によろしいですか?」
『Yes』←『No』
ようやくキャラ設定が終わるらしい。
俺が名前で無駄に時間を使ってしまったのが悪いのだが、アレを無駄な時間だったとは思いたくないので思考を止める。
「これで…始まるんだな…!」
期待で震える指を抑えながら、ゆっくりとYesを押す。
「REAL BREAK ONLINEをお買い求めいただき、誠にありがとうございます。」
「説明をお聞きになりますか?」
『Yes』←『No』
すると流れたのは、解説的な何か。
説明書や公開情報はこれでもかというほど読み込んだので、今更聞きたいとは思わない。
迷わずNoを選択する。
「かしこまりました。それでは、それでは・・・・『ようこそ!REAL BREAK ONLINEへ!』」
そして一瞬視界が安定したかと思うと、俺が立っていたのは噴水の近く、町のど真ん中だった。
「~~~~~~~~~っ!」
ついに、ついに、やってきた。
感じる世界に感動を覚え、叫びだしそうになるのを必死にこらえる。
興奮が冷めぬまま、システムウィンドウを開き、メッセージを確認する。
BOXにあったのは、運営からのいくつかのお祝いメールや、初回ログイン特典といったありきたりなもの。
スクロールで目当てのものを探し、それを見つけたときには思わず頬が緩んだ。
<<チュートリアルメッセージ>>
『まずは冒険者ギルドへいこう!』
定番も定番。
たいていのMMORPGならば普通に出現するそれも、今は最高位の書状か何かのように感じられた。
足取り軽やかに、早速冒険者ギルドへ向かう。
未知なる冒険者たちとの出会いを求めて。
REAL BREAK ONLINE豆知識
このゲームは、アメリカのとある資産家が、日本の中堅ゲーム会社のスポンサーとなって始めたプロジェクトが実現したものである。
今ではその資産家は世界でも有数の大富豪となり、中堅だったゲーム会社は日本を背負う大企業にまで成長している