能力別研究
八千代の部屋に通されるとあまりの汚さに片付けから始めた。
「いや~悪かったのだ。初対面の人に部屋の片づけまでしてもらっちゃってたのだ」
「しないと座るところもないじゃないですか」
「あるじゃないのか?」
八千代が指差した場所はマシロが座っている炬燵の周りだった。
しかし、マシロが座っている場所以外は本やらゴミやらで汚れている。
「あれはあるとは言えないですね」
「う~ん、まぁなんなのだ。君のおかげで片付けられたのだ。ありがとう。何かお礼をしないといけないのだ」
「別にお礼なんて……」
「あっそうだ。八千代さん。お礼がしたいならバックンの修行をしてあげてよ」
八千代がお礼は何にしようか考えている際に、マシロが修行のことを口にする。
「修業?私がなのか?」
「そうだよ。八千代さん能力者ついて詳しいでしょ?それをバックンに教えてあげてよ」
「ふむ。私の研究を知りたいということなのか?それならいくらでも歓迎なのだ」
八千代は目をキラキラさせて、僕の両肩を掴んできた。
「あの~研究って?」
「よくぞ聞いてくれたのだ。私がしている研究とは能力を種類別に分けるというものなのだ」
「能力を種類別に分ける?」
「そうだ、いいかい……」
八千代の研究を簡単に説明すると、能力は4つの種類に分けられる。
・肉体強化型、身体を強化して普通の人間ではありえない力を発揮する。
・自然発現型、風や炎などの自然現象を操り発現させることができる。
・精神汚染型、生物の精神に干渉することで相手の心を変えることができる。
・思想具現型、自らが思い描く理想を具現化することができる。
「異能にそんな分け方があるなんて知りませんでした」
「そうだろうそうだろう。私が考えたものだからなのだ」
さらに四つよりも上位としてさらに二つの分類が存在する。
・特殊型、上にあげた基本異能が二つ以上合わさり、新たな能力を作り出した存在。
・完全型、全ての異能を使いこなすことができるが、出力が劣る。
「なるほど……じゃマリアは特殊型ってことか」
「うん?マリア?誰なのだ?」
僕はマリアのことを思い出していた。
あのシスターマリアは自然発現型に分類される光で、精神汚染を行っていた。
「それでいうと俺は肉体強化型になるんですか?」
「うん?それはわからんのだよ」
「えっ?どういうことですか?」
「翁が見つけてくる人は大抵が特殊型か完全型が多いのだ。多分だが君もそうなんじゃないのかな」
「俺も特殊型……すみません。もう少し能力別の説明をお願いします」
「それはいいのだ。しかし、君が能力を見極めたいならもっといい方法があるのだ」
「いい方法?」
片付けたばかりの場所を漁り出した八千代が変な機械を掘り起こした。
「ジャジャーン!能力別診断機、見極める君なのだ。もちろん開発者は私なのだ」
「それでどうするんですか?」
「君の能力を図るのだよ。君が能力を使うときの状態になってもらうと診断できるのだ?」
能力を使うときと言われても、無意識で使っていたことが多い。
使い方がわからないが、今までのことを思い出す。
最初に能力があると思ったのは真鍋を殴ったときだ。
いつもと同じイジメを受けた。いつもならそのままやられっぱなしだったけど、自分でも驚くほど心が落ち着いていて、反撃することができた。
反撃した結果は簡単に真鍋の頭を吹き飛ばせたことができて驚いた。
しかし、同時に得た高揚感で、その場にいたクラスメイトを皆殺しにした。
「おっいいね。よし測れたのだ」
僕がクラスメイト達の事を思い出しただけで、能力を使っていたらしい。
「うむ。君はやはり特殊型だな」
「特殊型……」
「うむ。君は肉体強化型と思想具現型の特殊型だ。しかも思想具現型が主になっているようだよ」
「思想具現型が主なんですか?」
心の中で少し残念に思えた。
肉体強化型が一番強い気がしたのだ。
「悲観した物ではないよ。この組み合わせは私が考える一番強い形に近いのだ」
「一番強い形?」
「うむ。私は四竦みと呼んでいるが」
四竦み
肉体強化型は、身体を鍛えることができるが精神は単純な者が多く。
精神汚染型の精神汚染を受けやすい。
対して自然発現型は近づかれると弱いものが多いので、自然発現型には圧倒的に有利に戦える。
精神汚染型は、先に挙げた通り肉体強化型には簡単に能力を発動できるが、思想具現型のように自己の精神を強く持った者には精神汚染が利き難い。
思想具現型は、信念を持っているので精神汚染型には屈しないが、攻撃力が肉体強化型や自然発現型の超火力に劣る。
自然発現型は、超火力によって思想具現型を圧倒することができるが、肉体強化型のように運動能力が高くないので、接近されると弱い。
「とっいう風に、戦う相手よって得手不得手があるのだよ。しかし、君の思想強化型と今は命名しておこう。思想強化型は精神も肉体も強い。そこに君が思い描く思想を具現化したとき、君はもっと強くなれるのだ。まぁ何を具現化するかはじっくり考えるといい。具現化は強い思想の下で行われる。君にとってもっとも強い感情を具現化したものは、それだけ強い武器になるのだ」
八千代の熱烈講義を聞いているといつの間にか五時間ほど経過していた。
マシロはコタツで寝ているし、聴いているのも疲れてきた。
「勉強になりました」
マシロが言った修行とは能力について知って学ぶことだったのかと納得してしまう。
「おっと、待つのだよ。君をまだ帰すわけにはいかないのだ」
「どういうことですか?」
「思想強化型。新しいサンプルなのだよ。君にはじっくりと力を使ってもらいデータがとりたいのだ」
「片付けたお礼ではなかったんですか?」
「ウグッ!それは感謝している。しかし、これは研究者として、止められない衝動なのだよ」
「お断りします。まぁまた困ったことがあったら聞きにきます」
「む~いらなくなったら捨てるのね。ヨヨヨ」
「どんだけキャラ変わるんだよ。まぁその時にお礼としてデータを取るぐらいはいいですよ」
僕の言葉に八千代はがばっと立ち上がる。
「そのときを待っているのだよ」
八千代の代わり身の速さにおかしくなったが、悪い人ではないなと思えた。
マシロをおんぶして、僕は八千代の部屋を後にした。
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