蛇
マシロにご馳走した翌日洗濯しようとコインランドリーを訪れる。
コインランドリーを訪れると、細い長い奴が先約に座っていた。
僕は初対面の人間が苦手だ。所謂人見知りというやつだ。
「おい。おいって聞こえてんだろ」
細い男が声を荒げて、僕を呼ぶ。
僕はおいと言う名前ではないので、振り返ることはない。
洗濯に籠に詰められた洗濯物が洗濯器の中に納まり、スマホをかざすとお金が入金されたと表示される。
コインランドリーなのだが、コインを使わなくても洗濯ができる。ハイテクコインランドリーだ。
「ねぇ俺のこと舐めてんの?」
いつの間にか真横まで移動していた。
細い男が立っていた。男は身長が高いらしく。
170cm以上ある僕を見下ろしている。
頭一つ半大きいので190cm近くあるのだろうか?それにしても手足がヒョロ長く。体も細い。
「お前だよお前。聞こえてんだろ」
「お前と言う名前ではないですが、あなたが先ほどうるさいとは思っていました」
「はぁ~やっぱ舐めてんだろ!」
「なんですか?イジメですか?僕をイジメるんですか?」
「おう。上等じゃねぇか虐めてやんよ」
細い男は細い目を見開いて、僕に殴り掛かろうと振り上げる。
大きなモーションで隙だらけな男に、呆れながらもイジメと発言した男を許そうとも思わない。
僕は避けて、男を殴り返してやろうと、男の拳を避けようとした。
「あは」
男の笑い声が聞こえたときには、僕の頬に男の拳がめり込んでいた。
「お前俺のパンチが大振りだから避けれるとか思っただろ。それが舐めてるっていうんだ。俺を舐めるからこうなる」
男は蛇のように舌を出して、親指を下に向けた。
「舐めてると殺すぞ」
僕は男の事が許せないと思った。
立ち上がり、一足で男との距離を詰める。
完璧に捉えた思った拳は、男の膝によってカウンターを返された。
「あは。お前本当にバカだな。まだ俺を舐めてる」
男の一撃一撃はそれほど重いわけではないが、反動を使うようにカウンターを使われる分結構効く。
「蛇!止めなさい」
立ち上がり男に向かおうとしたところで、制止の声がかかる。
「あぁ?なんだ神楽じゃねぇか。なんだよここには喧嘩ご法度なんてルールあったか?」
「ないわね。ただあんたの行動が目障りなだけ」
「あは。まぁいいぜ。こんなザコ相手にしてても仕方ないからな」
男は立ち上がった僕を一瞥すると、自身の洗濯物を乾燥機から取り出してコインランドリーから出て行った。
「ああ、そうだ。新入り~また虐めてやるからな。あは」
男が去って行くと、天神が僕を見る。
「誰にでも噛みつくなんて狂犬みたいね」
「アイツが絡んできたんだ」
「そうね。アイツはそういうやつだから。でもね、それを受けたあなたも同罪」
天神に真っ直ぐ見つめられて罰が悪くなる。
「まぁマシロとは上手くやってるみたいね。あの子も変わり者だからどうかと思ったけど……でも蛇には気を付けなさい」
「蛇?」
「さっきのヤツよ。アイツは本当の狂犬。誰でも牙を向ける。最近は大人しくしていたと思ったのにあなたを標的にしたみたいだからね」
僕はもう一度出口を見ながら、能力とは様々な者があるものだと思った。
蛇と呼ばれたアイツの能力は全くわからなかった。
頻りに舐めてると言っていたが、それが何か関係なるのか。
「何か考えているみたいね。アイツの能力教えてあげましょうか?」
「いや。いらない」
「ふ~ん。意外に戦闘狂なのかしら?」
天神の呟きを無視したわけではないが、洗濯が終わった音がしたので乾燥機に入れ替える。
いつの間にか20分も経っていたらしい。
「それより。洗濯物を入れたいから出て行ってくれないかしら」
「あっ!はい」
僕は女性が洗濯する意味をわかっていなかった。
コインランドリーを出たところで、頭の中には蛇の厭らしい笑い顔が浮かんできた。
「次にあったら殺す」
僕の心に憤怒の思いが込み上げてきた。
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