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第7話_カウントダウン

第7話_カウントダウン



昨夜は、若宮さんに悪戯されて――具体的には、金縛りにあって――あまり眠れなかった。一六時から始まった四時限目の数学の講義も、あと数分で終わるのに、何となく集中出来ない。



ふと視線を感じて廊下を見る。利美先輩が立っていた。

僕と視線がぶつかった瞬間、嬉しそうに、にこっと笑って小さく手を振ってくれたから、軽く会釈して返事をする。



「それじゃ、ちょっと早いけれど今日の講義はここまで。二三ページの練習問題は宿題にするから、忘れずに解いておくように」

講師が教科書を閉じて礼をしたのに合わせて、僕ら生徒も礼を返す。



講師が教壇を離れた瞬間、教室が賑やかになる。廊下にいる利美先輩の方を見ると、知り合いがこの教室にいたのか、三人の女の子と話をしていた。ちょっと期待してしまったけど、僕に用事があった訳では無いらしい。



「利美~、昨日バイクで事故ったんだって~? 女子寮で噂になっていたよ~? 検査入院、大丈夫だった~?」



「うん、おかげさまで。精密検査したけれど、軽い打撲程度でピンピンしてる♪」



「ちょっと利美、不死身すぎっ! 普通なら即入院だって!」

「あははっ、運が良かったのかも――ってこらっ! 広郷君、私を無視してどこ行くの!」

教室から廊下に出た瞬間、利美先輩に怒られた。



ちょいちょいと手招きされる。

「この子、誰?」

利美先輩の友達らしい女の子が怪訝そうな表情で僕を見た。警戒されているのがよく分かる。

多分、若宮さんが僕に憑いているから、本能的に怖がられているのだろう。



「一年生の調所広郷君。昨日、救急車が来るまで付き添ってくれていたんだ」

「ふ~ん。ってことは白馬の王子様だっ♪」

「ちょっ、そんなんじゃないって! えっと、その、広郷君ごめんね、私の友達、変な子で」

「変な子言うな~。可愛い娘って言え~」



わざとらしく頬を膨らませた眼鏡をかけた小学生っぽいロリっ娘を無視して、利美先輩が言葉を続ける。



「それでさ、広郷君、これから夜食を一緒に食べない?」



「えっと、僕は良いですけれど……」

利美先輩のお友達三人はどうしますか? と聞く前に、眼鏡をかけた小学生っぽい娘が両手で×を作った。



「私達はパス~。利美、彼氏さんと二人で食べておいで~♪」



「ちょっ、だから、まだそんなんじゃないって」

「まだ? 今、この娘、『まだ』って言ったよ~♪」

嬉しそうに笑うと、利美先輩のお友達はバイバイと手を振って廊下の向こうに歩いて行った。



(広郷、何か、体裁よく逃げられたな)

(多分、怖がられてしまったんだと思います、若宮さん)

「広郷君、ごめんね。みんな人をからかうのが好きな子達で」

利美先輩が苦笑いを作りながら、僕に謝ってきた。



「いいえ。利美先輩となら、誤解されても悪い気はしませんので、大丈夫ですよ」

「ありがと。それじゃ、学食に行きましょ♪」



利美先輩と並んで歩きながら、すぐに異変に気が付いた。

利美先輩の右手の甲に145:59:30と数字が浮かんでいて、一秒ごとに数が減っている。



昨日、夜桜様が言っていた「呪い」と「死」いう言葉が脳裏に浮かんだ。利美先輩にどんな風に伝えたら良いのか迷ってしまうけれど、口にしない訳にはいかない。



「利美先輩、変なこと聞きますが――とりあえず『時計みたいな数字』は視えていますか?」

「うん……やっぱり広郷君も視える? 昨日の夜、気が付いたら右手に浮かんでいたの。――若宮さん、コレ、何だか分かりますか?」

「ああ、あたいは知っているよ。でも、ソレの正体を言っても良いのか?」



含みのある若宮さんの言葉。

少し考えるような仕草をしてから、利美先輩が意を決したように首を縦に振る。何かがおかしいと利美先輩自身も気が付いている様子だった。



「はい、教えてもらえると助かります」

「それじゃ教えるけれど――ソレは、利美の寿命を表しているタイマーだよ。残り約一四六時間、日付に換算するとあと約六日で利美は死んでしまう」



死という単語に、利美先輩が驚いたような表情を浮かべる。



「えっ? 六日で死ぬって……どういうことですか?」

「白髪鬼に呪われたんだよ。理由なんて存在しない。呪われている、それ以上でもそれ以下でもない。利美は、このままじゃ六日後に死んでしまう」



利美先輩が足を止めた。



ぼうっとした顔で立ち尽くしている。でも、それは若宮さんが冗談を言っているわけではないと理解している表情だった。



「利美先輩?」



それ以上、かける言葉が見つからなかった。

利美先輩が泣き出したから。



「嫌だよぉ。まだ死にたくないよぉ……」



崩れ落ちそうになった利美先輩の身体を支える。と、そのまま利美先輩が抱き付いてきた。廊下にいた他の生徒から歓声が湧いた。でも、泣きじゃくっている利美先輩がいるから、それどころじゃない。



「ちょっと利美先輩、場所を変えましょう。ここじゃ目立ちます」



利美先輩の手を引いて校舎の外に出る。

第四校舎の裏側は、駐車場になっていて誰もいなかった。利美先輩と並んで外階段のコンクリートに座る。



「いつまで泣いているんだ、利美?」

「うぇぇっ、ぐしゅっ、だって、若宮さん、うぇえぇっ!」

「鼻水くらい拭け。広郷がハンカチ渡しただろ?」



利美先輩が鼻水という言葉で固まった。



「う……あっ……はい……」

恥ずかしそうにポケットからティッシュを取り出すと、利美先輩は静かに鼻をかんだ。もう一度新しいティッシュで鼻を拭いてから――僕と若宮さんの方を見て、利美先輩が頭を下げた。



「取り乱してしまって、ごめんなさい」

「いえ、利美先輩、大丈夫ですか?」



「うん、もう大丈夫。えっと、若宮さん――白髪鬼の呪いということですが、私が助かる方法はあるんですか? 呪いなら、解く方法が無くはないですよね?」



「あるって言えばあるけれど……難しいぞ? 利美は聞きたいか?」



若宮さんの言葉に利美先輩がゆっくりと頷く。

「難しいことだと分かっています。でも、この際ですから、ダメ元で教えて下さい」



「分かった。利美が助かる方法は、①白髪鬼を捕まえて呪いを解いてもらう。②白髪鬼を消滅させて、呪いを無効化させる。――の二つしかない。でも、この土地の妖しを躊躇なく攫っている性質を考えると、話し合いは難しいだろうな。ってことで、実質②の方法しかないと思う」



「白髪鬼を消滅させる……今の私に、出来るでしょうか?」

力なく利美先輩が俯いた。若宮さんが僕の背中にとり憑いたまま、小さくため息をつく。



「普通に考えたら無理だろうな。利美の式神は、昨日の犬っころに簡単に引き裂かれていたから」



「あの、私もっと強い式神も持っています。昨夜の蝶々は一番弱い式神で――他にも魚とか、燕とか、それに大きいのだと地龍も出せますっ!」



何だか凄そうな名前も出て来たけれど、若宮さんは首を横に振る。

「そういう問題じゃないよ。乱暴な言い方をすれば、利美は式神を使った戦い方が下手なんだ。昨日みたいに相手に真っ正直に式神をぶつけてどうする? かわされるか無効化されるのがオチじゃないか?」



若宮さんが言葉を続ける。

「大量の式神を投入する物量戦も良いけれど、それだけじゃなくて奇襲を考えたり、二段構えや三段構えの戦術を用意したりしないと強い妖しには勝てない。そういう意地の悪さが利美には絶対的に足りていないんだ」



「そう……ですか……。あのっ、私、どうしたら――」

「土地神の夜桜さんに助けを求めな。あたいと広郷は、力になれない」



「えっ?」



意外そうな顔で利美先輩が僕と若宮さんを交互に見た。



ゆっくりと若宮さんが口を開く。

「あたいと広郷は、利美の力になれないと言ったんだ」



「あの……私を……助けては、くれないのですか?」



信じられないといった表情の利美先輩。覚悟をしていたとはいえ、利美先輩の言葉と視線が心に突き刺さった。



何も言えない僕の代わりに、関係ないといった表情で若宮さんが返事をする。

「ああ。あたいは広郷を守るたたり神。そして広郷は、あたいを祀るための神降人。土地神や他人のトラブルに頭を突っ込んで、自分達の生命を危険にさらす義務はどこにもないからな」



利美先輩が僕の方を見る。怯えた瞳をしていた。



でも、何も力になれない。

「利美先輩、すみません……昨日の夜、若宮さんを何度も説得してみたんですが、どうしても首を縦に振ってくれなくて――」

僕の言い訳を、利美先輩がパタパタと両手を交差させて、すぐに遮った。



「そっか、助けてくれないんだ。……いや、ううん、ごめん。勝手に助けてくれると期待していた私が間違っていたよ。ごめんね、嫌な気分にさせて。あとで夜桜様に相談してみるから、もう大丈夫。遅くなっちゃったけれど、広郷君は夜食を食べに、学食へ行ってきてよ♪」



利美先輩の顔は、明らかに――無理をしている作り笑顔だった。



(第8話_共闘へ続く)

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