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第10話_若宮さんのアドバイス

第10話_若宮さんのアドバイス



僕がライ○セイバーもとい誘導棒をなんとか霊剣にしようと悪戦苦闘している隣で、若宮さんが松とすすきに話しかけた。



「松とすすきに聞きたいんだけれどさ――お前達、門守なのに何で戦う時に夜桜さんの霊力を貰わないんだ? 夜桜さんも、何故、門守に力を供給しないんだ? それが出来れば、この二人のポテンシャルなら、白髪鬼と余裕で渡り合えるだろう?」



「それは――」「えっとですねぇ……」

松とすすきが、何かを遠慮するみたいに言い淀む。



気まずそうな表情で、夜桜様が口を開いた。

「私が話します。私とこの二人は、相性が悪いみたいなんです」

「相性が悪い?」

意外そうな若宮さんの言葉に、夜桜様が頷く。

「霊力を供給したら、拒絶反応が出て、二人の霊力が下がるんです」



「あ~、たまにそういう奴もいるなぁ。あたいも昔、そういう神降人がいたよ」



「そ、そうですよね? たまにありますよね?」

困った表情を浮かべた夜桜様に、若宮さんが苦々しい微笑みを返す。



「――でも、それは言い訳にしかならない。本来、土地神と門守は協力し合う関係だ。お前らさ、本当は信頼関係作れていないだろ? だから霊力が下がる。ん? どうだ?」



「そんなことはありませんっ! そうよね? 松、すすき?」

夜桜様が松とすすきを見る。

すぐに、こくりと二匹が頷く。



若宮さんが小さく笑った。

「ふふっ、この際だから腹を割っちゃいなよ~? 松、すすき、本心ではどう思っているんだ?」



「そんなのは決まっているよ。松は夜桜様のことを信頼してる!」「……。すすきも」



「そうか? あたいから見ていると、すすきは不満がありそうだぞ? 正直に言いなよ、そうしないと、松もすすきも強くなれない。ひいては、足手まといになるだけだ」



「……」「……ぅ」

ぐっと口をつぐんで言葉を発しない松とすすき。軽い緊張感が場を包んだ。



「すすき、足手まといになっていても良いのか? このままじゃ、松を巻き込んで死ぬぞ?」



諭すような若宮さんの「死ぬ」という言葉に、すすきが表情を歪めた。

「うぅっ。……すすき、本当は、夜桜様のこと嫌いです」



「すすきっ、そんなこと言ったらダメだっ!」

松の言葉が結界中に響き渡る。そして、しぃんとした静寂が周りを包んだ。



静寂を壊すように、ゆっくりとすすきが言葉を口にする。

「だって、松ちゃんはいつも泣いているもん。夜桜様はお仕事しても認めてくれないって!」

「すすきっ……それ以上、言ったらダメだ!」



「松、それは本当?」

怒りがこもった夜桜様の問いかけ。びくりっと身体を震わせて松が首を横に振った。

「……い、いいえ。そんなことありませんっ!」



その様子を見ていた若宮さんが、肩を揺らして小さく笑う。

「犬っころ~。ここで嘘付いても仕方ないぞぉ? 嘘付いたら、強くなれずに、白髪鬼にすすきが殺されるかもしれないが良いのか?」

「……っ。それは……それだけはダメです」



ためらうみたいに息を小さく吸い込んでから、ゆっくりと吐いて――固い表情を浮かべた松が言葉を続ける。



「正直に言います。松は、いくら仕事をしても認めてくれない夜桜様のことを土地神として認められません。松とすすきは同じ立場の門守なのに、おっとりしているからという理由で仕事の報告にすすきを参加させない夜桜様に良い感情は持っていません。自警団を自分の手足だと考えている割には、大切にしてくれない夜桜様のことをリーダーだとは思えません。夜桜様は、外面は良い人だけれど、内部の人間に対しては我儘が過ぎます。下からの突き上げは今日まで抑えていましたが、夜桜様の評判は、内部的にはあまり良くありません」



堰を切ったような松の言葉に、一瞬絶句して、夜桜様が大きく頷いた。

「そう。そう思われているのなら、仕方無いわ」



冷たい反応。小さな沈黙。



それに、若宮さんが、真剣な表情で突っ込む。

「おいおい、そこの土地神、『仕方無い』の一言で全部済ませるなよ。元々、あんたら三人の不始末であたいや広郷、利美がこの事件に巻き込まれたんだぞ? これからも何かある度に、同じようなことを繰り返して被害者を増やすのか?」



「でも、だからと言って今更、松やすすきと信頼関係を作るのは――」

「無理じゃない。たたり神とそれに一方的に呪われる神降人だって信頼関係が作れるんだ。土地神と門守のお前達に、信頼関係が作れないはずがない。もう少し、腹を割って話をしてみろ」



誰も言葉を発しない。でも、ゆっくりと夜桜様が頷いて、口を開く。

「……がんばります」



夜桜様の返事を聞いてから、若宮さんが松とすすきの方を見る。そして、そっと頭に手を乗せ、苦笑する。



「お前らも大変な神様の下で働いているんだな。よく頑張った。お姉さんが褒めてあげるよ♪」

そう言うと、若宮さんは松とすすきを抱きしめた。



若宮さんが他の妖しにこんなことをするのは正直珍しい。それだけ二匹には、信頼関係の構築を頑張って欲しいと思っているのだろう。



「ちょっ、何するんだよ?」「うん。若宮さん、ありがとうございます」

若宮さんの腕の中から逃げようともがいている松とは対象的に、すすきは大人しく若宮さんにしがみついていた。



若宮さんが二匹を解放する。

「ちょっとしたおまじないだ。夜桜さんにも抱きしめてもらえるようになると良いな♪」



ふふっと笑って若宮さんが夜桜様を見た。夜桜様がぎこちなく顔を縦に振る。



「さてと、松やすすきたちの課題は見えてきたわけだし――次は利美に行こうかな♪」

若宮さんが、緊張した面持ちの利美先輩の横に並ぶ。



「利美、最後になってしまって、すまないな」

「いえ、大丈夫です。それで、どうすれば、私は強くなれるのでしょうか?」



「利美は神社の巫女らしいが、守護してくれる神様はいるのか? 広郷とあたいの関係のように」

「いえ、うちの神社は蟲神使いが専門なので……私を守護してくれる神様はいません」



「了解、しゅんとするな。何も悪いことじゃない。元々蟲神に特化した血を持つなら、それを活かせば良いだけさ。今日の昼間に少し言ったが、式神の運用方法を工夫したら利美は強くなれる。利美の立場は、極論でいうなら遠距離専用の式神射出台だ。前線は広郷や松達が守るから、自分がされたら嫌な攻撃方法で、白髪鬼やその親玉を倒す作戦を考えてみろ」



「は、はいっ!」

戸惑うような表情で返事をした利美先輩の頭を、くしゃりと若宮さんが撫でた。その直後――じろりと若宮さんが僕を睨む。



「広郷~、真面目に練習しろ。集中力が切れているっぽいぞ?」



(第11話_若宮さんは手加減しないへ続く)

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