6.クリスマスの魔法
ヒューイは窓から外を窺うと夜空へ指笛を響かせた。
そしてシェーンを窓辺の縁に座らせて大きく周囲を見回した。
「何かを待っているの?」
シェーンの問い掛けに頷くと「相棒さ」と片目を瞑った。
鈴の音が聞こえてきた。
それは空の上の方から。
見上げると大きくて立派な角を持ったトナカイが宙を駆けて来る。
その後ろにはきらびやかな電飾をつけたソリが目映い光を点滅させていた。
呆気にとられているシェーンにヒューイは照れたように言った。
「電飾は日本のコンボイの映画を参考にしたんだ」
「いや... 」
言いかけて止めた。
驚いていたポイントはそこではなくトナカイが空を駆ける姿だったが、それもなんだが些末な事のように思えてしまった。
トナカイはふたりの前で止まると嬉しそうにヒューイを見た。
「大丈夫、心配掛けたな」
ヒューイはそう言ってトナカイの頭を撫でるとソリに乗り込んだ。
そして窓辺のシェーンに手を差し出すと一気に引張り上げた。
片手でサンタの袋を担いだままで引き上げられたシェーンはソリの上で尻餅をつくように転んでしまった。
まるでそれを合図のように走り出したソリ。
シェーンはそのまま袋をクッションのようにして仰向けに倒れてしまった。
「わぁ」
思わず心が上がった。
天を駆けるソリから見た空は星々が手の届きそうなほどに近く輝いていた。
「シェーン」
感動も束の間、ヒューイに呼ばれた。
「これから簡単に仕事のやり方を説明するから聞いてくれ」
「あっ、ハイ」
反射的に返事をする。
「良い返事だ」と言ってヒューイは話を続けた。
「まず、袋に手を入れる」
言われるままにシェーンは袋に手を入れた。
「次に袋の中の光の粒子を掴む」
ギュッと握りしめる。
「そのまま手を出して撒く!」
シェーンの手から放たれた光の粒子は粉雪のようにさらさらと眠りにつく街に降りそそいでゆく。
煌めきはやがて夜に溶けてゆくように消えていった。
「はい、配達完了。このスリーステップの繰り返しね」
「へっ?」
拍子抜けしてしまった。
「煙突とかくつ下とかは?」
「今の家、煙突無いし...あっても入ったら汚れるし...」
「えぇ!?何ソレ?」
幻滅するように言うシェーンにヒューイは笑いながら言った。
「クリスマスの夢を叶えるのは本当はサンタじゃないんだ。サンタの仕事は光の夢を届けること。今、シェーンがしたようにね」
「どういうこと?」
「おかしいと思わないかい?光の粒子、つまり光の夢は全ての人達、大人にだって届いているんだよ。でも、プレゼントは子供にだけ届くなんてさ」
ヒューイの言葉にシェーンは驚いたように目を大きく開いて何度も頷いた。
「サンタクロースを信じている人だけが光の夢をプレゼントに変えることが出来るのさ。クリスマスの魔法はね、本当は子供達が起こしている奇蹟なんだ」
そう言ったヒューイの表情はとても嬉しそうだった。