5 .誓い
スティーブはシェーンの前に立つと聞き取れない言葉で何かを呟き始めた。
時おり天を仰ぎ祈るように、まるで呪文の詠唱のように淀み無く唱えると袋の中から取り出した光の粒子を掌に乗せた。
そしてそれに命を吹き込むように息をかけると黄金色の輝きがシェーンの身体を縁取るように形を作り、やがて砂に染み込む水のようにシェーンの中へ消えていった。
呻くような小さな吐息が聞こえた。
メアリーは歓喜するように「シェーン、ママよ!シェーン!」と何度も呼び掛ける。
シェーンはその声に弱々しくも微笑んでみせた。
スティーブの詠唱はまだ続いている。
今はシェーンに語りかけているようだった。
「キュリア語よ。パパはサンタクロースの言葉であなたに聖ニコラウスの遺志を話しているのよ。言葉は分からなくていいわ。感じてくれればいいの」
邪魔をしないように囁くメアリーの言葉に無言で頷いたシェーンは、スティーブの詠唱に耳を傾けた。
そして詠承の最後に「誓います」と何故か答えていた。
その言葉に3人のサンタクロースは一様に驚いていた。
詠唱の終わりに『誓います』と言うように耳打ちするつもりだったメアリーはより一層の驚きだった。
そんな驚きを他所にシェーンは痛みの消えた身体を起して立ち上がっていた。
「今日から君はサンタクロースだ」
ヒューイが「よろしく」と右手を差し出した。
シェーンが戸惑いながらも強く握手を交わした瞬間、シェーンのパジャマがサンタの服に変わった。
「プレゼント」
ヒューイは片目をつむって見せると爽やかに笑った。
「よし、シェーンはヒューイについてサンタクロースの仕事を覚えてくれ」
スティーブはそう言ってシェーンにサンタの袋を手渡すと「しっかりな」と軽くお尻を叩いた。
「スティーブはどうするんだい?」
ヒューイの問い掛けに答えたのはメアリーだった。
「私達は通常業務から特務に移項するわ」
そう言って微笑むメアリーにヒューイは悪感を押し込めるように生唾を呑み込んだ。
「敵ながら同情するよ、黒サンタ」
ヒューイはそう呟くと鋼鉄の壁を光の粒子に戻して外へ出た。