4.サンタクロース(仮)
パパがヒューイに何かを言っている。
ヒューイは頷いてサンタの袋から何かをひと掴みすると無数の風穴に朋壊寸前の壁と窓に向かって投げつけた。
それはキラキラと黄金に輝やきを放つと鋼鉄の壁に姿を変えた。
これは幻覚なのかもしれない。
唯一の現実は今、シェーンが感じている痛みを超えた熱だ。
そして意外とぬめるような感触の血液。
ママが目の前で叫んでいるのに不思議と何も聞こえなかった。
「スティーブ!」
喚くように呼ぶメアリーの声。
駆け付けたスティ-ブとヒューイの前にシェーンを抱き締めて血溜りにうずくまるメアリーと、壊れた人形のように四肢を投げ出すシェーンが居た。
立ち尽くすスティーブの背中をヒュ-イが叩いた。
「儀式だ!」
ヒューイはそう言ってスティーブに袋を渡した。
メアリーもその言葉で我に返ったように頷くと強くシェーンを抱き締めた。
そして血に汚れた額にキスをすると「シェーンをサンタにしましょう」と言った。
サンタクロースはまず見習いとして認命される。
本来は子供を持ったパパとママがサンタクロースの手伝いをする為に行う儀式だ。
限られた数のサンタクロースでは世界中の子供達にプレゼントを配るのは大変なのだ。
年に一度の大切な日。
間違いがあってはいけない。
だから家々のパパとママがサンタクロースのお手伝いをするのだ。
子供を早く寝かせたり、くつ下を目立つ場所に提げたり...
『パパがサンタさんにお願いしておくから、欲しいプレゼントが決まったら教えてね』
そう、これも見習いサンタの仕事のひとつ。
子供が良い子だったかどうかの報告と一諸にサンタクロースに伝えるのだ。
プレゼントの魔法も姿形が分からないと間違えてしまうかもしれない。
子供達をガッカリさせない為の大切な仕事。
そんな見習いサンタの中で本物のサンタクロースを目指す人達が受けるのが儀式だった。
稀に見習い以外から直接儀式を希望する人達が居た。
そうした人達は仮サンタとなってクリスマスの夜空を飛び回るのだ。
不死の命とプレゼントの魔法を手にして。