3.サンタクロース
夕飯を食べていないことはリビングでも覗けば分かる。
でも、どうして名前を知っているのか。
いや、この2人の声をシェーンはよく知っていた。
月明かりにシルエットだった2人を見るとやはりサンタクロースの格好だった。
女の方はこの寒空にミニスカートだった。
「……パパ、ママ。そんな格好で何をしてるの?」
シェーンは努めて冷静に尋ねた。
「何をって、パパとママが年末の道路工事のアルバイトをしている格好に見えるのかな?」
「いや、見えない」
「だったら分かるだろう」
パパはシェーンの頭をポンポンと撫でると片目を瞑って見せた。
「ああ、とうとうパパとママがサンタだって分かってしまったのね」
ママは少し寂しそうな表情だった。
「仕方ないさメアリー。子供はこうやって大人になっていくんだ」
パパはママの肩を抱いて慰めていた。
「いやいや、そうじゃなくて!」
シェーンは変に納得している両親に思わずツッコミを入れてしまった。
「親が本物のサンタとかっておかしいでしょ!」
「……?じゃぁ、誰がサンタならおかしくないんだ?」
パパは不思議そうに首を傾げた。
確かにそう言われたら返す言葉が無い。
シェーンはすっかり黙ってしまった。
その妙な沈黙を破ったのはヒューイと呼ばれたサンタだった。
「スティーブ、メアリー。とりあえず場所を変えよう。奴らが追ってくる」
さっきまで息も絶え絶えだったヒューイ。
もう立ち上がってサンタの袋を抱えていた。
あれほどの出血ももう止まっていた。
「言ったろ、サンタは死なないって」
驚くシェーンにヒューイは親指を立てて笑った。
次の瞬間。
「伏せて!」
ママの鋭い声が部屋に響くと同時。
カタカタとミシンを掛けるような音が部屋を襲った。
残った窓は全て割れ、壁には無数の小さな穴が開いていった。
パパとヒューイはシェーンのベッドと机を壁際に倒すとその陰に身を潜めた。
ママはシェーンの腕を掴んで部屋の外の廊下に飛び出していた。
そしてシェーンは脇腹に火傷のような熱を感じていた。