2.三面記事
真っ赤なサンタの衣装が血に赤黒く染まってゆく。
一瞬だけ、サンタクロースだと思ったシェーンは(あり得ない)と思いも直した。
サンタが窓を破って入って来るなんて聞いたことが無い。
もしもそんなのが現実に居たのなら、それはサンタの格好をした泥棒だ。
そして今、それは現実に目の前に居て瀕死の重傷だった。
警察か救急車か。
混乱して迷ったが両方呼べば良いと気付いたシェーン。
それでも強かに「今、救急車を」と声を掛けた。
『警察を呼ぶ』と言って逆上されたら危険だ。
手負いであれば尚更だった。
ベッドを降りて部屋を出ようとしたシェーンの足首が強く握られた。
危うく転びそうになったシェーンはドアに両手をついて身体を支える。
驚いて振り向くと足首を捕まえたままの姿勢の推定泥棒は「大丈夫、呼ぶな」と荒い呼吸の中で言った。
「何言ってるの、死んじゃうよ!」
演技や逃げて助かりたいからではなく、本心から出た言葉に返ってきたのは理解を超えたものだった。
「ありがとう、でもサンタクロースは死なないんだ」
(ああ、これマズイ人だ)
シェーンは軽い絶望を覚えた。
そしてCNNや新聞の見出しを想像して寒気がした。
どう考えてもバッドエンドしか無かった。
【イブの惨劇 留守番の少年殺害 被疑者死亡】
間違い無く世界配信記事確定だ。
(冗談じゃない!)
シェーンが捕まった右足首を振りほどこうと全身に力を込めた瞬間だった。
「大丈夫かヒューイ?」
「酷い有り様ね」
窓から新たに男女2名様の追加。
シェーンの中で見出しが変わった。
【イブの惨劇 留守番の少年殺害 犯人逃走中】
三面記事確定だ。
(終わった、もう終わった)
シェーンに残された術は途方に暮れることだけだった。
全てを諦めた時、後から入って来た女が口を開いた。
「シェーン、あなた晩ご飯食べなかったの?」
「はい、食べてません。ごめんなさい」
どうして謝るか分からなかったが思わず誤ってしまった。
そして「へっ?」っとなんとも情けない声を上げてしまった。