~走って 3~
*走って 2の続きとなります。
大輔視点の文章となりますので、わかりにくいところが
ある可能性大
真鍋拓夢
藤崎玲
仲居大輔
~走って 3~
部室の扉が静かに開いた。顔を少し出した二人は目をまん丸にして驚いていた。
「だ、大輔!?」
「仲居くん!?」
俺は、二人より先に陸上部の部室に来ていた。目的は、二人をびっくりさせるのと祝ってやることの二つ。サプライズゲストというべきものだと思う。
「よーっす。遅いぞ、二人とも」
「遅いぞって、なんでここに!?」
予想以上の驚きっぷりに満足したとこで、クラッカーを鳴らした。
すると、部室に隠れてた部員が出てきた。
「え!?なんだよ、これ!!」
部員が手に持っていた布を二人の前に広げる。そこには”真鍋、おかえり! 藤崎さん入部ありがとう”と書かれていた。二人は顔を見合わせて笑うと部員のもとへと向かう。
俺はこのとき二人が遠くにいるような感じに襲われて、悲しく思った。.....ここ最近この違和感をしょっちゅう感じる。これは多分”嫉妬”というものだろうか。また、この感覚に戸惑うがこれも仕方の無いことだろう。
(って言っても二人が無自覚っていうのが無性に腹が立つんだよな)
何かきっかけがあれば、必ず進展するはずなのに二人は動かないまま。このままだとこっちの気がおかしくなってくる。俺は部員と久々に会って会話をする拓夢を見つめた。
「......そろそろ、こっちが仕掛けないとほんとに進まずに終わるな」
「ん?大輔なんか言ったか??」
「あ、いや。何も言ってない」
「そっか」
拓夢は小さい声で俺に「ありがとう」と言って、藤崎と会話し始めた。
この時間は長くは持たなくて、すぐに時はすぎ1日が終わった。
○ ○ ○ ○ ○ ○
朝練が終わって、教室に向かう外廊下で陸上部が活動しているのが見えた。
そこには、満面の笑みをした拓夢と藤崎がいて部員と話している。やっぱり、拓夢が陸上部に戻ったのは良いことだったのだろう。部員たちも楽しそうだ。そう言えば、昨日拓夢に「ありがとう」って言われたな。
(拓夢に笑顔でありがとうなんていわれたのって結構少ないんだな)
俺は事故が起きたとき、何もしてやれなかった。それなのに、あいつは感謝をしてくれた。友達ってこんなものなんだなって今知ったような気がする。これまで、ちゃんとした友達がいなかったわけじゃないけど”あー、これが友達なんだな”って思った。ここ最近、変わった感覚が多すぎていやになる。俺自身、こんな考えたのは初めてだ。また、ここから考えることが多くなると思うが誰かのためにやってるって思えば大丈夫だろう。とりあえず、あの二人をどうにかしないといけない。
「よーっし、気分は乗らないけどやるかぁ」
独り言を呟いて教室へと向かった。
教室に着くと、中は閑散としていた。まだ、部活が終わってないのもいるから仕方ない。俺は荷物を置いて席に着くと本を取り出した。俺の大好きな作家の小説で内容は怖いやつ。
(拓夢に根暗なんていえないなぁ)と思いつつ、本のページをめくる。
数分経ったくらいだろうか、後ろから目隠しをされた。
「だーれだっ」
「.....拓夢だろ」
「なんでバレるんだぁ!!」
残念そうに、手を離した。陸上部も部活が終わって帰ってきたらしい。藤崎はいまだに、悔しそうな顔をしている拓夢を見て笑っている。どうもここの空気は腹が立つ。
(どうしたら、この二人は動くんだろ)
今日の放課後にでも拓夢に仕掛けて様子を見ようと思った。しかし、その仕掛ける内容が思いつかない。モヤモヤして気持ち悪くなってくる。これは無意識的に拒絶しているということなのかはわからないが、いつまでもこれが続くとこっちの身が持たない。
(はぁ、ほんとに手のかかるやつだな)
感じ取れないため息をついて、授業の準備をした。
移動教室が今日に限ってなくて、考えることがあまりできない。それに拓夢と藤崎がいることによってさらに困難と言えるだろう。とりあえず、考えられるとこまで考えられれば良いのだがそれが実行できるかがわからない。
(ってか、なんでこんなことを俺が考えなきゃいけないんだ...)
これも二人のためなのだが、二人は確実にあれなんだ。けど、裏ではそうであってほしくないと思っている自分がそこにはいる。複雑すぎて、わけがわからなくなってくる。こう考えると俺ってものすごく世話好きなのかと思ってしまう。
(だぁぁぁぁぁ!!)
「どうした!?」
気づいたら、頭を抱えていた。それを見た二人は驚いている。
「ど、どうしたの??」
「あ、いや。なんでもないわ」
いろいろと考えすぎて行動に出ていたらしい。一生、考えすぎるのは俺には合いそうにないと思った。とりあえず、放課後仕掛けることにした。仕掛けるって言ってもこっちだって譲る気はないから本気だ。本気で仕掛けてあっちがどうでるか、これは俺の中で小さいけど規模の大きいゲームになった。
考える時間は、とてつもなく早くてまとめる時間がなかった。俺が考えたのはかなり簡単なことで難しいことだった。言葉にして伝えるという行動。それは大切なことだけど、かなり難しいことだ。
(あー、拓夢に気づかれないように呼び出せたのは良いけど。これからどうしようか)
悩んでいると、藤崎が教室に入ってきた。緊張か何かで体が震える。
「あれ、まだ早いけど??」
「いや、その、待たせるのは悪いなって思って」
藤崎は扉を閉めた。閉まる音だけが教室に響く。沈黙が続いている中、それを破ったのは彼女だった。
「えっと、話って?」
「あー、えっとさ....そのー」
うまく言葉が出てこなくて自分に腹が立ちイライラしてくる。
「.....?」
「あのさ、藤崎って好きな人いる?」
こんな言葉しか、出なかった。この言葉の答えはもうわかってるのに。
「....」
彼女は黙ったまま、うつむいた。そして小さく頷く。
「そうだよな.....。うん、わかってたよ。拓夢でしょ?」
「うん....」
「正直に言うと、ほんとに好きなんだ。でも、こんな一方的な気持ちは駄目だよな」
「ありがとう。ううん、嬉しいよ」
「そっか...応援するから、拓夢のとこ行って来な」
そういうと彼女は驚いた。拓夢がいるとは思っていなかったのだろう。
「帰ったんじゃないの!?」
「体育館の裏にいるよ、だから頑張って」
「....仲居くん、ありがとう。頑張るね!!」
藤崎は走って教室を出た。階段を下る音が遠ざかった後、教室内で崩れ落ちた。
わかってても、やっぱりキツイ。涙は頬を悲しく伝う。
俺は声を殺して、泣いた。
その頃、体育館の裏に着いた藤崎は拓夢を探していた。
「大輔??」
「真鍋くん!」
「藤崎!?なんでここに」
二人はお互いを見て驚いていた。
夕日が二人を照らす。その光は徐々に弱くなっていき、星が見えてきた。
「大輔になんか言われた?」
「告白されたの」
「付き合うのか?」
「....断った」
「なんで、断ったんだ?大輔は良い奴だよ、なにが不安?」
「違うの、嬉しかった。けど、好きな人いるから...」
「......」
「....」
拓夢は黙って、頭を掻く。しばらく沈黙が続いた後言葉を出したのは藤崎だった。
「あのね、伝えたいことがあるの。でもね、それは言っちゃいけないように感じるの」
「なんで」
「なんか、この関係が壊れそうだから」
「壊せば良いじゃん、俺は三角関係なんかやだよ」
「え!?」
藤崎は驚いて、拓夢を見つめた。拓夢は手が届く距離まで歩き止まる。
そして、優しく藤崎の頭に触れると笑みをこぼした。
「.....いきなりだけどさ、俺は藤崎に出会えて良かったって思う。ここまで俺を変えてくれたのは
藤崎が始めてなんだよ。ほんとにさ、感謝してるんだ。藤崎、俺の前に現れてくれてありがとう。
藤崎、俺も伝えたいことがあるんだ。話、長くなるけど聞いてくれるか?」
「.....うん、もちろん聞きたい。長くても別にかまわないよ」
風が木を揺らした。その風はなぜかとても暖かくて、二人の間をすり抜けていった。
このとき、悔しい気持ちと嬉しい気持ちが混ざっていてとても言葉ではいい表せない感情が俺を襲っていた。藤崎の幸せを願う反面、拓夢に負けたような気がしてなんか嫌だった。けど、俺にとって二人はとても大切な存在でどっちもあきらめられなかった。友情も恋愛もどちらかを選ぶなんて決してできない。
だから、俺は拓夢がどっちもとれるように支えようと思う。これが唯一、俺が二人にできることであって
俺にしかできないことなんだ。
end
これで、画竜点睛は終わりになります。
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