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世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


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第一章  九話 封印の底で泣く者

村の中央広場。

 地面が裂け、闇へ落ちる巨大な穴が口を開けていた。

 黒い影が蠢き、手のような形を作っては空を掴む。


「来いよ、化け物ども!」


 レオルドが傷を押して剣を振るう。

 影を切り裂くと、ドロリとした闇が地に落ちる。

 だが消えずに形を変え、また襲いかかる。


「湊さん!」


「分かってる!」


 湊は右腕に光を集め、横薙ぎに振り抜いた。

 光の刃が影を一閃し、複数の影が弾け飛ぶ。

 だが打ち払っても、闇は次々と湧き出してくる。


「キリがねえな……!」


 レオルドが歯を噛む。


「行くしかない。封印の奥へ!」


 湊の言葉に、リィナが大きく頷いた。


「影を止める方法が、きっと……」


 三人は穴へ飛び降りた。



 暗闇を落ちていく中、

 どこからともなく囁き声が聞こえた。


『さしだせ……巫女……』


『ゆうしゃを……ころせ……』


『あいは……けがれ……』


 リィナが耳を塞ぎ、震える。


「大丈夫だ。俺が守る」


 湊の声が、闇の中で唯一の光だった。


 足が地面に触れる。

 そこは巨大な石造りの空間だった。

 壁中に古代文字――勇者と巫女の歴史が描かれている。


 そして、中央に黒い祭壇。

 縛られた少女が横たわっていた。


「ユイナ……!」


 湊は駆け寄ろうとする。

 だが――影の鎖が彼の足を絡め取った。


「しまっ――」


 引き倒されそうになったその瞬間、

 別方向から影を斬り裂く光。


「湊、落ち着け!」


 レオルドの怒号だった。


「見ろ! 顔が違う!」


「……え?」


 湊が少女を見つめ直す。

 黒髪だが、ユイナではない。

 微妙に顔立ちが違う。

 服も古び、肌は土色だ。


「これは……“影の器”」


 リィナの声が震える。


「封印されていた巫女が……囮……?」


「じゃあ、本物はどこに」


「決まってるだろ」


 低い声が響いた。

 影が渦を巻き、ゆっくりと形を成す。


 アルメリア。


「“天環”の中心よ。

 世界を支えるために、

 彼女はずっと……祈り続けている」


「祈り……?」


「そう。

 人々が生き、愛し、憎むその全てを

 均衡するためにね」


 アルメリアは歪んだ笑みを浮かべた。


「だがもう限界。

 世界は感情で満ちすぎた。

 だから、人間を消して

 負荷を減らす必要がある」


「ふざけんな!」


 湊が叫ぶ。

 彼の中で光が脈打つ。


「巫女を救うために、人間を消すだと!?

 お前は何を守ろうとしてる!」


「愛よ」


「……は?」


 アルメリアは儚げな微笑を浮かべた。


「勇者と巫女が結ばれた時、

 世界は救われ、

 そして終わる。

 その愛は、誰にも邪魔できないように」


 湊の呼吸が止まる。


「お前……ユイナを――」


「そう。

 彼女を檻に閉じ込めてでも守るの。

 世界に使い潰されるくらいなら、

 すべて壊してしまえばいい」


 その言葉には狂気と――哀しみがあった。


「ユイナは祈り続けているわ。

 湊、あなたのために。

 なのに、あなたは別の女と笑ってる」


 アルメリアの瞳がリィナを睨む。


「代わり物の器に、心を揺らして」


 ビキ、と何かが軋む音。

 リィナの胸の奥から光が漏れ始めた。


「なっ……!?」


「器は器らしく、完全に巫女へ戻りなさい」


 リィナの身体が痙攣する。


「やめろぉぉぉ!」


 湊は光の刃を振り下ろすが、

 影の壁が弾き返した。


「湊……さん……!」


 白い光がリィナの体から噴き出す。

 その輪郭が揺れ、別の姿へと変わっていく――


 長い黒髪

 細い指

 涙を湛えた瞳


「そんな……」


「ユイナ……?」


 湊は思わず手を伸ばした。

 だが――

 その瞳は湊を見ていなかった。


 リィナは、泣いていた。


「いや……いや……返さないで……!

 わたしは……リィナ……!

 湊さんと……一緒に生きるって……!」


 その叫びは痛切で、

 魂が引き裂かれる音が聞こえそうだった。


「湊さん……助けて……わたし……消えたくない……!」


 アルメリアが冷たく笑う。


「選びなさい、勇者。

 一つを救うには、一つを捨てる。

 それが世界の理よ」


 光と影が乱れ、

 村の地面がさらに崩れ落ちる。


「さぁ、どうするの?」


 湊は動けなかった。

 選べるはずがなかった。


愛か、世界か。

片方を選べば、もう片方が泣く。


 そのとき――


 レオルドが吼えた。


「迷ってんじゃねぇ!!」


 彼は湊の肩を鷲掴む。


「助けたいなら、助けろ!

 例え全部敵に回しても、

 お前が信じた道を貫け!!

 それが勇者だろうがッ!!」


 湊の迷いが、断ち切られた。


「俺は――」


 右腕の光が爆ぜる。

 紋章が脈打ち、力が溢れた。


「絶対に誰も捨てない!!!」


 叫びと共に、湊は駆け出した。


 リィナの元へ。

 愛した少女を救うために。

 そして――


 もう一度、ユイナと笑うために。

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