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世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


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第二章  三十六話 きみが選ぶ世界

白い空間の奥で、

巨大な“扉”が静かに開いていく。


音はない。

だが、空気そのものが引き裂かれるような感覚があった。


《第三段階 相互選択試験》


観測者の声は、

これまでよりも、はっきりと三人を区別して響いた。


《個体間の選択が

世界の再構築に与える影響を観測する》


「……相互選択?」


リィナが、嫌そうに眉をひそめる。


「つまり……

あたしたち同士を、

天秤にかけるってこと?」


ユイナは、静かに頷いた。


「はい。

誰を選び、誰を選ばないか。

それが……世界の形を決める」


湊は、胸の奥が締めつけられるのを感じた。


「……悪趣味だな」


《感情的評価は不要》


観測者の声は冷たい。


《選択は、不可避》


次の瞬間。


白い空間が、三つに割れた。


光の壁が立ち上がり、

三人は、それぞれ別の区画へと隔てられる。


「……っ、ユイナ!」


湊が叫ぶが、

声は壁に吸い込まれ、届かない。


リィナも同様に、

向こう側で何か叫んでいるが、

音にならない。


湊の前に、

新たな風景が現れた。



そこは、

穏やかな丘だった。


草は青く、

空は高い。


風が、心地よく吹いている。


「……ここは」


湊が一歩踏み出した瞬間、

背後から声がした。


「懐かしい場所でしょ」


振り返る。


そこにいたのは――

ユイナだった。


だが、どこか違う。


衣服は、

かつての巫子の装束。


目には、

迷いがない代わりに、

覚悟もない。


「……これは」


「“もしも”の私です」


ユイナは、微笑んだ。


「あなたが……

私を止めなかった世界」


丘の向こうに、

人々が見える。


笑顔。

平穏。

争いのない日常。


「私は、巫子として生き続けました」


ユイナは言う。


「犠牲になりながらも、

世界は守られた」


湊は、

その言葉の裏にある重さを感じ取っていた。


「……それで、

お前は幸せだったのか」


ユイナは、少しだけ考え、

首を振った。


「分かりません」


「考える必要が、ありませんでしたから」


その答えは、

あまりにも静かで、

あまりにも悲しかった。


「湊」


彼女は、一歩近づく。


「あなたが、

この世界を選べば」


丘の向こうで、

さらに平和な光景が広がる。


「多くの命が救われます」


「争いは減り、

犠牲は管理される」


湊は、

その世界を想像する。


合理的で、

効率的で、

“正しい”世界。


「……でも」


湊は、

目を伏せた。


「それは……

お前が、選ばない世界だ」


ユイナは、驚いたように目を見開く。


「私は……」


「生きたいんだろ」


湊は、まっすぐ彼女を見る。


「自分で笑って、

自分で泣いて、

間違えて……それでも」


ユイナの唇が、

わずかに震えた。


「……そう、ですね」


その瞬間。


ユイナの姿が、

光に包まれる。


《選択記録》


観測者の声。


《個体 湊

選択対象 ユイナ

拒否》


「拒否……?」


湊は、顔を上げる。


《犠牲を前提とした世界を

選択しなかった》


丘が、崩れ始める。



次の瞬間、

湊は、別の空間に立っていた。


今度は――

荒れ果てた大地。


空は曇り、

遠くで雷鳴が響く。


「……こっちは」


前方に、

剣を肩に担いだリィナが立っている。


「よう」


彼女は、いつも通りの調子だが、

目は真剣だった。


「これは……

あたしと組んだ世界」


「神も、巫子も、

完全に否定した未来」


地平線の向こうで、

人々が武器を持って争っている。


「自由だけど……

過酷ね」


リィナは笑う。


「強い者が生き残り、

弱い者は……」


言葉を濁した。


「でも」


彼女は、湊を見る。


「あたしは……

この世界、嫌いじゃない」


「自分で戦って、

自分で決める」


「守りたいものを、

力ずくでも守る」


湊は、

その覚悟に、胸を打たれた。


「……お前らしいな」


リィナは、少しだけ照れたように視線を逸らす。


「湊。

あたしと来る?」


その問いは、

冗談ではなかった。


湊は、

長い沈黙の末、答えた。


「……一緒には行ける」


「でも……

二人きりじゃ、足りない」


リィナは、目を細める。


「ユイナのこと?」


湊は、頷いた。


「三人でじゃなきゃ、

同じ間違いを繰り返す」


リィナは、

しばらく湊を見つめ――

それから、笑った。


「……そう言うと思った」


その瞬間。


雷鳴が止み、

大地が、白へと還っていく。


《選択記録》


《個体 湊

単独選択を拒否》



再び、白い空間。


三人は、

元の位置に戻っていた。


互いの顔を見て、

同時に息を吐く。


「……生きてる?」


リィナが言う。


「はい」


ユイナが、静かに頷く。


観測者の声が、

空間全体に響いた。


《相互選択試験 結果》


《排他的選択

不成立》


一瞬の沈黙。


《想定外》


その一言に、

ユイナが、はっと顔を上げる。


「……想定外?」


《個体間の選択が

対立を生まなかった》


《評価不能》


観測者の“声”が、

わずかに歪む。


湊は、前に出た。


「俺たちは……

誰かを切り捨てるために、

選んでるわけじゃない」


「一緒に、

間違える道を選んだだけだ」


その言葉に、

白い空間が、震えた。


《……再計算》


扉が、

ゆっくりと閉じていく。


《次段階へ移行》


ユイナが、

湊を見る。


「……後悔、していませんか」


湊は、少し笑った。


「してるよ」


「でも……

それでいい」


リィナが、

二人の間に割って入る。


「はいはい、

感傷は後にして」


「次、もっと酷いの来るわよ」


三人は、

並んで立つ。


誰も欠けていない。


それが、

この試験の――

最大の誤算だった。


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