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世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


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三十四話 試験世界への転移

意識が、引き剥がされるような感覚だった。


落ちるのではない。

沈むのでもない。


「移されている」としか言いようのない、

方向も距離も存在しない移動。


湊は、音のない空間で目を開けた。


そこには、色がなかった。


白でも黒でもない。

概念だけが残ったような場所。


「……ここは」


声は、遅れて響いた。


自分の声なのに、

少し他人のように聞こえる。


「目、覚めた?」


聞き慣れた声に、湊は振り向く。


リィナが立っていた。

だが、彼女の姿はどこか不安定で、

輪郭がわずかに揺らいでいる。


「リィナ……無事か?」


「たぶんね。

少なくとも、バラバラにはされてない」


彼女は周囲を見回し、舌打ちした。


「……感じ悪い場所」


「ユイナは?」


その問いに答えるように、

空間の奥が、ゆっくりと“結ばれる”。


そこに、ユイナが現れた。


白い光が収束し、

彼女の姿を形作る。


「二人とも……いますね」


安堵の表情。

だが、すぐに引き締まる。


「……ここは、“試験世界”です」


「やっぱりか」


湊は拳を握った。


「観測者が言っていた……

次の段階ってやつだな」


ユイナは頷く。


「はい。

ここは、現実世界とは切り離された

“評価のための仮想領域”」


リィナが眉をひそめる。


「仮想、って言っても……

死んだら終わり、なんでしょ?」


「おそらく」


ユイナは否定しなかった。


「観測者にとって、

命の重みはパラメータの一つです」


湊は奥歯を噛みしめる。


「……ふざけてる」


その瞬間。


世界が、動いた。


白一色だった空間に、

亀裂が走る。


音もなく、

風景が“上書き”されていく。


大地。

空。

遠くに見える、崩れた街並み。


「……街?」


リィナが目を細める。


「いや……

これ、どこかで……」


湊の胸が、ざわついた。


焦げた建物。

倒れた電柱。

空を覆う、灰色の雲。


「……俺の、元の世界……?」


それは、転生前。

事故の直前、

ニュースで見た“災害後の街”と、酷似していた。


ユイナが、静かに息を呑む。


「……やはり」


「ユイナ?」


「試験は……

個人の記憶と価値観を基準に構築されます」


彼女は湊を見た。


「これは……

あなたの“原点”です」


リィナが、湊を横目で見る。


「つまり……

一番、心が揺れる場所を

わざわざ用意した、ってこと?」


「はい」


湊は、街を見つめた。


懐かしさはない。

あるのは、

胸の奥を締めつける、鈍い痛み。


「……卑怯だな」


《評価開始》


空から、声が降りた。


あの、感情のない声。


《試験項目 第一段階

喪失下における選択》


「……喪失?」


次の瞬間。


街の奥から、

人影が現れた。


三人。


いや――

三人ではない。


「……遥?」


湊の声が、震えた。


そこにいたのは、

かつての恋人、遥の姿だった。


事故で失ったはずの、

もう二度と会えない存在。


彼女は、

あの日と同じ服装で、

同じ微笑みを浮かべている。


「湊」


呼びかける声も、

記憶のままだった。


「……会いたかった」


湊の足が、自然と前に出そうになる。


だが、ユイナが、そっと彼の腕を掴んだ。


「……湊」


その手は、温かい。


現実の温度。


「彼女は……

“再現”です」


湊は、唇を噛みしめる。


「分かってる……

分かってる、けど……」


遥が、首をかしげる。


「どうしたの?

そんな顔して」


彼女は一歩、近づいた。


「迎えに来たよ」


リィナが、剣に手をかける。


「……やめなさい」


遥は、リィナを見る。


その視線に、

一瞬だけ“ノイズ”が走った。


「……邪魔、しないで」


空気が、歪む。


ユイナが前に出た。


「観測者。

これは、試験ではありません」


《定義内》


声は、冷たい。


《特異点の選択を確認する》


湊は、深く息を吸った。


胸の奥で、

二つの感情がぶつかる。


失ったものを、

もう一度抱きしめたい気持ち。


そして――

今、隣にいる存在を、

失いたくないという想い。


遥が、手を伸ばす。


「一緒に……帰ろ?」


その言葉に、

かつての自分なら、迷わなかった。


だが――


湊は、一歩、後ろへ下がった。


「……ごめん」


遥の目が、見開かれる。


「どうして……?」


湊は、震える声で言った。


「俺は……

もう、選んだんだ」


「誰を?」


その問いに、

湊は答えなかった。


代わりに、

ユイナと、リィナの方を見る。


二人とも、何も言わない。


ただ、

そこにいる。


「……生きる方を」


遥の姿が、

ゆっくりと崩れ始める。


悲しそうな笑顔を残したまま、

光の粒へと分解されていく。


《選択、確認》


空が、低く唸った。


《第一段階、通過》


街の風景が、

音もなく消えていく。


白い空間が、再び現れる。


湊は、その場に膝をついた。


「……きつい試験だな」


リィナが、そっと肩を叩く。


「よく、踏みとどまった」


ユイナは、静かに微笑んだ。


「……あなたは、

過去ではなく、未来を選びました」


その瞬間。


空間の奥で、

“次の扉”が、ゆっくりと開く。


《第二段階へ移行》


試験は、まだ始まったばかりだった。


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