表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/38

第二章  三十一話 再構築の始まり

旅立ちは、驚くほど静かだった。


号令もなく、誓いもなく、

ただ三人は同じ方向へ歩き出した。


それだけで、十分だった。



最初の村は、かつて「巫子の祝福」を受けていた土地だった。


白い石造りの家々は半壊し、

中央広場にあった祈祷塔は、無残に崩れている。


だが、人の気配はあった。


「……生きてる」


リィナが呟く。


瓦礫の隙間から、子どもが顔を出し、

警戒しながら三人を見ていた。


湊が剣から手を離し、ゆっくり膝をつく。


「大丈夫。

俺たちは……敵じゃない」


その声は、不思議とよく通った。


子どもは少し考えた後、

走って村の奥へ引っ込んでいった。


「警戒されてるわね」


リィナが肩をすくめる。


「無理もない」


ユイナが静かに言った。


「この村は……

“祈りが消えた最初の日”に、

外敵に襲われています」


湊は眉を寄せる。


「祈りが消えた……?」


「はい。

巫子の力が消失した直後、

守護結界も消えました」


リィナが歯を食いしばる。


「……それで、被害が」


ユイナは頷いた。


「世界が変わる時、

一番最初に痛みを受けるのは……

いつも、弱い場所です」


三人の前に、

年配の男が現れた。


顔に深い皺、

手には古い槍。


「……旅人か」


声は低く、疲れていた。


湊は立ち上がり、深く頭を下げる。


「はい。

俺たちは……この世界を立て直す手助けがしたい」


男は一瞬、驚いた顔をし、

それから苦く笑った。


「立て直す、か。

巫子も神も消えた世界を?」


その言葉に、空気が張りつめる。


ユイナが一歩前に出た。


「……巫子は、もういません」


男の目が見開かれる。


「なんだと……?」


「でも……人はいます」


ユイナは、まっすぐ男を見た。


「あなたたち自身が、

この村を守る力になります」


男は沈黙した。


やがて、槍を地面に突き、

低く言った。


「……祈りが消えたあの日、

俺たちは何もできなかった。

巫子がいないと、

何もできないと思い込んでいた」


その声には、悔恨が滲んでいた。


湊が口を開く。


「力は……もう、借りられない。

でも……代わりに、選べる」


「選ぶ?」


「守るか、逃げるか。

戦うか、助け合うか」


男は、ゆっくりと三人を見る。


「……お前たちは、何者だ」


湊は少し考え、答えた。


「間違えた人間です」


リィナが吹き出しそうになるのを、

必死にこらえている。


湊は続けた。


「でも……

間違えたまま、終わりたくない」


男はしばらく黙り込み、

やがて小さく息を吐いた。


「……話を聞こう」



村の集会所は、屋根が半分崩れていた。


それでも人々は集まり、

三人の話に耳を傾けた。


巫子の祈りが戻らないこと。

神が助けてくれないこと。

そして――それでも、生きるしかないこと。


不安と怒りが交錯する中、

リィナが前に出た。


「守ってもらうのを待つのは、もう終わり。

武器の扱いなら、教える」


村人たちがざわつく。


「女が……?」


その一言に、

リィナの目が鋭く光った。


「生き残りたいなら、

そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


湊は苦笑し、

ユイナは小さく頷いた。


「私は……祈りはできません。

でも……知識はあります」


ユイナは地面に簡単な図を描く。


「魔獣は、結界が消えた今、

集団で動くようになっています。

見張りと、連携が必要です」


人々の目が、少しずつ変わっていく。


恐怖だけではない。

考え、理解しようとする目。


それを見て、

湊は胸の奥が熱くなるのを感じた。


(これが……再構築)


その時だった。


ユイナが、ふと空を見上げる。


「……来ています」


「何が?」


「“観測”です」


空の高み。

雲の向こうに、

確かに“視線”があった。


人のものではない。

だが、確実に“こちらを見ている”。


リィナが小声で言う。


「……神様、ね」


ユイナは静かに答えた。


「はい。

でも……もう、祈る相手ではありません」


湊は空を睨み、

静かに言った。


「見てるなら、見てろ」


拳を握りしめる。


「俺たちは……

自分で選ぶ」


空は、何も答えなかった。


だが、

雲の奥で、確かに何かが動いた。


それを“警告”と取るか、

“始まり”と取るか。


答えは、まだない。


世界は今、

再構築の最初の一歩を踏み出したばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ