表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

第一章  二十二話 選択の刃

 白と黒が混ざり合う戦場で、世界そのものが悲鳴をあげていた。


 空には裂け目。

 そこから絶え間なく零れ落ちる黒い影――《絶望の欠片》。


 大地は白い光に侵食され、ところどころが崩れ落ちている。


 この空間は“現実”でも“記憶”でもない。

 世界の境界そのものだった。


「湊……!」


「大丈夫だ、ユイナ!」


 湊は光の刃を纏い、迫りくる黒い影を斬り払った。


 斬った端から影は分裂し、数を増やす。


「しつこい連中だな……!」


 湊の呼吸が荒れる。

 十九話、二十話で開花した四つの輪の力は強大だが、

 その分、消耗が激しい。


 背後でリィナが祈りを紡ぐ。


「祈りの障壁を維持します……! 湊さん、下がらないで!」


「任せろ」


 短いやり取りでも、湊は安心する。

 二人の祈りが背中を支えてくれる感覚がある。


 だが――世界はそれを許さない。


 


◇ ◆ ◇


「なぜだ……なぜ三人で立とうとする?」


 黒い使徒が呟く。


 その声は静かで、しかし底に深い痛みを含んでいた。


「勇者と巫女は、世界を守るためだけの存在。

 愛し合えば、必ず破綻する。

 それを、どれだけ繰り返し見たと思う?」


 黒い槍が放たれる。


 ユイナが前に出る。


「リィナ、重ねるよ!」


「はい!」


 二人の祈りが一つになり、光の盾が湧き上がる。


 槍は盾を軋ませながら押した。


「くっ……!」


 ユイナの額に汗が浮く。


 リィナの足元の光陣が震え始める。


 その瞬間、湊が二人の間に飛び込む。


「守る――!」


 湊の剣が光り、槍を跳ね返した。


 衝撃で地面が砕け、粉塵が舞う。


 湊は振り返り、二人の肩に手を置いた。


「二人とも、ありがとう。

 でもこれ以上は俺が前に立つ」


 ユイナの胸が痛む。


「湊……私だって戦えるよ。怖くなんか――」


「怖いんだろ?」


 ユイナは言葉に詰まる。


 確かに、怖い。

 湊が傷つくことが何より怖い。

 その怖さを、湊は優しく言い当てていた。


「無理して前に出る必要なんてない。

 俺たちは三人で戦うんだ」


 ユイナの目に涙が浮かぶ。


(湊……

 どうしてこんなに優しいの……?

 優しいから、もっと不安になる)


 視線が自然とリィナの方へ向く。


 リィナは湊を見つめる一途な瞳。

 その目を見ているだけで胸が締めつけられる。


(私、負けたくない……)


 


◇ ◆ ◇


 一方、黒い使徒は彼らを静かに見つめ続けていた。


「理解できない……

 なぜお前たちは、互いのために力を使う?」


「理由なんかひとつだ」


 湊は剣を構える。


「大切なんだよ。

 この二人が」


 黒い使徒の瞳が微かに揺れる。


「大切……?

 それは呪いだ。

 大切だからこそ、守れなかった時、破滅する。

 俺はそれを知っている」


「知ってるなら――背を向けるんじゃなくて、救えばいいだろ!」


「救えなかったんだ……俺は……」


 黒い使徒の声はかすれる。


 その姿が一瞬、勇者のように見えた。


 その隙を逃さず、リィナが叫ぶ。


「あなたは……今も愛しているんでしょう?

 巫女を……!」


 黒い使徒の表情が凍りつく。


「黙れ……!」


 闇が爆発した。


 黒い嵐が吹き荒れ、空間がひび割れ、

 湊たちの足元が崩れ始める。


「くっ……!」


 湊がユイナとリィナを抱きよせ、飛び退く。


 だが、黒い使徒は静かに手を振った。


「見せてやる。

 俺が愛を選んだ――その“結果”を」


 


◇ ◆ ◇


 世界が歪み、景色が一変した。


 それは――かつての王都。


 晴れた日。

 穏やかな風。

人々の笑顔。


 そして――中央に立つ二人の巫女。


 その隣に、剣を下ろした一人の男。


「これって……」


 ユイナが息を呑む。


「初代の……?」


 そうだ。

 これは初代勇者の記憶。


 彼と、巫女たちが最後に笑っていた日の記録。


「この日は……幸せだった。

 世界がどう言おうと、三人で未来を作れると思った」


 黒い使徒の声が震える。


「だが――翌日、光の巫女が殺された」


 景色が変わる。


 血まみれの巫女。

 崩れ落ちる勇者。

 泣き叫ぶ闇の巫女。

 世界が震え、色を失っていく。


「原因は……俺だ。

 勇者が巫女を愛してはならない――

 世界がそれを“修正した”」


「そんなの……!」


 ユイナが震える。


「そんなの……世界の都合じゃない!

 愛を罰するなんて、間違ってる!」


「間違ってるさ。

 だが世界は冷酷だ。

 だから俺は、世界を否定した」


 黒い使徒は湊をまっすぐに見据える。


「そして……

 お前も同じ苦しみを味わう」


 


◇ ◆ ◇


「絶対に味わわない!」


 湊は地を蹴り、黒い使徒へ突進する。


 黒い使徒は槍を構える。


 二つの刃が激突し、火花が散った。


 互いに押しあい、激しく火花を散らす。


「お前には無理だ……!

 世界は愛を許さない!」


「許さないなら――

 俺が世界を変える!」


 湊が剣を振りぬく。


 黒い使徒の外套が裂け、中から光のような欠片が散った。


 まるで心の奥の破片のように。


 黒い使徒が初めて大きく後退する。


「なぜ……そこまで……!

 救おうとする!」


「救いたいからだ!

 ユイナも……

 リィナも……

 そして――お前も!」


 黒い使徒の目が大きく見開かれた。


 その瞳には、わずかに――涙が浮かんでいた。


「俺を……救うだと……?」

「当たり前だろ!」


 湊は叫ぶ。


「お前は俺なんだ!

 俺が見捨てたら、誰が救うんだよ!」


 黒い使徒の身体を、光が包む。


 崩れかけた世界の境界が震えた。


 


◇ ◆ ◇


 その光景を遠くで見ていたユイナとリィナ。


 胸の奥に強い衝動が生まれていた。


 ユイナは拳を握る。


(湊……私は、あなたを……絶対守りたい)


 リィナは胸に手を当てる。


(湊さん……あなたが悲しむ未来なんて、いらない)


 二人の祈りの色が変わった。


 ユイナの光は“純白”から“金色”へ。

 リィナの光は“蒼”から“深紅”へ。


 彼女たちの隠された力――

 巫女の“真の祈り”が目覚めようとしていた。


「湊……行こう。

 三人で、終わらせるんだ……!」


 二人は光を湊へと放つ。


 湊の身体が新たな輝きに包まれた。


「これが……巫女の真の力……!?」


 黒い使徒が驚愕する。


 湊は剣を構え、世界の裂け目へと進んだ。


「黒い使徒――初代勇者。

 お前の絶望は、俺が終わらせる!」


 光と闇が再びぶつかる。


 空間が砕け、世界の境界が悲鳴をあげた。


 その刹那――


 黒い使徒の胸に、一筋の涙が流れた。


 それは絶望の涙ではない。

 救われたいと願う、弱い涙だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ