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世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


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第一章  十八話 黒い祈りの使徒

 光の残滓が消えると、眼前には廃墟と化した城門が広がっていた。


(ここは……王都の外縁か)


 湊は深く息を吐く。

 胸の奥で、刻印が脈打っていた。


 ユイナとリィナはすぐ横に立っていて、湊の腕をそっと掴んだ。


「湊、大丈夫……?」

 ユイナの瞳は、不安と強さの入り交じった光を宿している。


「ああ、俺は大丈夫。それより――」


「どうして、四つ目の輪が……?」

 リィナが湊の刻印を見つめる。


 湊は視線を空に向けた。

 遠くで天が唸っているようだった。


「未来を祈る力だ。俺たちの選んだ答えが、新しい道を作った」


「未来……」


 ユイナの表情に、ほんのわずか希望が浮かんだ。


 その瞬間――


 黒い靄が城壁の上に集まっていく。


 揺らぎ、形を成し――


 ひとりの男が現れた。


 黒の外套。

 漆黒の結晶を砕いたような髪。

 血のように赤い瞳。


「やっとだな、勇者よ」


 その声は、冷たく、嘲るようで、どこか優しさを含んでいた。


 湊は目を細める。


「お前は……誰だ」


「名乗りが必要か?

 では、そうだな……」


 男はゆっくりと右手を掲げた。


 その手の甲に刻まれたものを見て、湊たちは息を飲んだ。


 それは――


 黒い祈りの刻印

《五つの輪》


「刻印……五つ……!?」


 リィナが声を失う。


「四つでも規格外なのに……五つなんて……世界創世期の記録でしか……!」


 男は優雅に一礼をした。


「俺は《黒き使徒》。

 巫女の代行者。

 ――いや、むしろ“狂った世界の代弁者”と言うべきか」


 湊は身構えた。


「黒い祈り……お前が世界を操っているのか」


「逆だ。

 世界が俺を生んだ。

 勇者と巫女がまた間違わぬようにとな」


 男は唇を歪め、湊を指さす。


「勇者が巫女を愛せば、世界は滅ぶ。

 その法則は変わらない」


「ふざけるな。

 そんな運命、俺が壊す」


「壊せればな?」


 空気が一瞬で凍りついた。


 黒い槍が湊へ一直線に飛んだ。


「湊!!」


 ユイナが湊を抱き寄せ、光の障壁を展開する。

 リィナが後方から治癒と補強の祈りを重ね、衝撃を和らげた。


 爆風の中、湊は息を切らしながら前を見据える。


(今の威力……ユイナとリィナが同時に祈ってようやく相殺……)


 黒い使徒は楽しげに笑った。


「強くなったな、勇者」


「だったら引け。俺たちは世界のために戦ってる」


「同じだ」


 男の笑みが深まる。


「世界のために、勇者を殺す。

 それが俺の役目だ」


 その瞳に宿るのは、残酷な優しさ。


「勇者が巫女を愛した時――必ず片方は死ぬ。

 それこそが、世界の祈りの形」


(また……その話かよ)


 湊は苛立ちを押し殺す。


「なら俺たちが証明する。

 運命は変えられるって」


「証明できればな」


 黒い使徒が天を指すと、雲が裂けた。

 黒い隕石のような塊が無数に生まれる。


「世界には、最初から“欠陥”がある」


 隕石が一斉に落ちた。


 ユイナが祈りを放つ。

 光の壁が巨大な盾となり、雨のような破壊を受け止める。


「ハァッ……こんなの、いつまでもは……!」


 リィナがユイナの背に手を当て、祈りで支える。


 湊はその前に立ちはだかる。


「二人から離れろ。

 俺が前に出る」


「湊、無茶しないで!」

 ユイナが叫ぶ。


「無茶でもやる。

 ――俺が守るって決めたんだ」


 湊が剣を振りかざした瞬間、刻印が輝く。


 四つの輪が回転し、光が溢れ――


 黒い星々を一掃した。


 地面が震え、城壁が崩れ落ちる。


 黒い使徒が驚いたように眉を上げた。


「……なるほど。

 それが《未来の祈り》か」


 彼はゆっくりと頷いた。


「確かに可能性はある。

 だが――まだ足りない」


「何が足りないっていうんだ」


 黒い使徒は湊の背後を指差した。


「そこにいる二人のうち……

 お前はどちらを先に救うつもりだ?」


 湊の動きが止まる。


「まさか――」


「どちらかに手を伸ばせば、

 伸ばされなかった方は必ず傷つく。

 愛は常に不平等だ」


 湊の胸に冷たい刃が突き刺さる。


「答えろ、勇者。

 二人のうち――誰を優先する?」


 ユイナとリィナの表情が凍りつく。


(そんなの……決められるわけない)


 沈黙。

 世界が、答えを待っている。


「答えられないか」


 黒い使徒は静かに目を閉じた。


「それが、滅びの始まりだ」


 次の瞬間――


 リィナの体が宙に浮いた。


「えっ――?」


 黒い鎖が彼女を締めつけ、天へ引き上げる。


「リィナ!!」


 ユイナが手を伸ばすが、届かない。


「まずは一人」


 黒い使徒が指を鳴らす。


 リィナの身体が漆黒へと侵食され始めた。


「やめろおおおおお!!!」


 湊が叫び、飛び出す。


 だが、黒い結界が立ち塞がる。


「救え。

 お前が選んだ未来という幻想で」


 男は冷酷な宣告を放った。


「巫女は、ひとりだけ救える。

 もう片方は――世界の代償だ」


 湊は拳で結界を叩きつける。


 光の刃が迸り、結界が軋む。


「ふざけるな!!

 俺は絶対に――」


 


 世界が震える。


 黒い結界が割れ、湊の手がリィナに届く。


「離すな――絶対に……!!!」


「湊……!」


 リィナの涙が頬を滑り落ちる。


「私……湊さんの力になりたい……!

 だから……連れていかれない……!」


「当たり前だ!

 一緒に未来を見るって、言っただろ!!」


 光が爆ぜる。


 四つの輪が唸りを上げて回転した。


 黒い使徒が初めて焦りを見せる。


「……バカな。

 その力……想定以上だ」


 リィナの体が湊の腕の中に落ちた。

 ユイナがすぐに抱きしめ、彼女の髪を撫でる。


「もう大丈夫……大丈夫だからね……!」


 湊は黒い使徒に剣を向けた。


「何度でも言う。

 俺は誰も選ばない。

 二人を救う。

 世界を救う。

 そして――」


「それができると信じてる。

 俺自身の未来を、信じてる」


 黒い使徒の表情が、一瞬だけ揺れた。


「……勇者とは、本当に愚かだ」


 しかしその声には、悔しさと――羨望が混ざっていた。


「ならば証明してみろ。

 愛が世界を救うことを」


 黒い靄が渦巻き、男の姿を包む。


「だが忘れるな。

 世界は必ず、代償を求める」


「その時――

 お前は本当に笑っていられるか?」


 黒い使徒は霧のように消えた。


 静寂が訪れる。


「湊……」


 ユイナの声が震えていた。


「怖かったよ……

 本当に……」


 湊は彼女の頭にそっと手を置く。


「怖いのは俺も同じだ。

 けれど――もう逃げない」


 リィナが湊の袖を掴む。


「ありがとう……湊さん……」


 湊は二人の手を握る。


「さぁ、行こう。

世界を救うために」


 その言葉に、

 空の雲がかすかに光を宿した。


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