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世界が終わる日、きみが微笑むなら  作者: 坂元たつま


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第一章 十四話 もう一度、きみと出会うために

 落下する感覚が、いつまでも続いていた。

 光も、音も、温度すら失われた暗闇。

 湊は終わりなき虚無に飲み込まれていく。


(俺は……どこへ……)


 意識が溶けかける中、かすかに名前を呼ぶ声がした。


「……湊……」


 女の子の声。震えている。

 助けを求めているように聞こえた。


「湊……お願い……消えないで……」


(ユイナ……? それとも……リィナ……?)


 声の主はわからない。

 二人の声が重なって聞こえる。


 手を伸ばす。

 しかし、指先は空を掴むように何も触れない。


 叫びたいのに、声が出ない。

 焦りだけが心臓を爪でかきむしる。


(俺は……また……)


 大切なものを失ってしまうのか。


 その瞬間――首筋に鋭い熱が走った。


 焼き付くような紋様。

 赤く輝く「三つの輪」の刻印。


(これは……)


 見覚えがある。

 勇者として覚醒した時に、僅かに感じた痛み。


 だが今はまるで心臓を直接締め上げるかのように

 強烈な痛みが全身を走り抜けた。


「ぁあ……ッ!」


 闇が弾ける。



 目を開くと、そこは――


 瓦礫と灰に埋もれた廃都だった。

 黒煙が立ち込め、空は赤く染まっている。


 崩れた建物。

 焦げた大地。

 風に運ばれる血と鉄と灰の香り。


「……ここは……」


 湊が知る場所。

 だが、記憶と繋がらない。


「起きたか」


 低い声が背後から響いた。


 振り向くと、黒い鎧をまとった男が立っていた。

 その顔は兜で隠れている。


「お前が……勇者だな?」


「勇者……?」


「巫女に会わせてやる。ついて来い」


 男は歩き出す。

 湊は迷いながらも追いかけた。


 崩れた街を抜けると、巨大な寺院が現れた。

 城のように高く、しかし崩落寸前。


 男は寺院の奥へと進む。

 扉を押し開き、湊を中へ導く。


 そこには――


 一人の少女が、膝を抱え座り込んでいた。

 黒髪。透き通る瞳。

 白い衣を、血が赤く染めている。


 湊は息を呑む。


「ユイナ……!」


「……湊……?」


 少女の顔が上がる。

 その瞳に浮かぶのは、泣きそうな安堵。


 立ち上がり、ふらつきながら湊に近づく。


「来てくれたんだね……」


 その笑顔は、心が砕けるほど優しかった。


 男が言葉を落とす。


「巫女はお前を待っていた。

 勇者と共にあることが、この世界の理だ」


(この世界……の理?)


 湊の眉が僅かに寄る。


「お前は巫女を選び、祈りを完成させろ。

 そうすれば、この世界は救われる」


 ユイナが湊の手を握る。

 小さく、震えながら。


「もう一度……約束しよう?」


「約束……?」


「私を助けて。

 そして……私だけを見て」


(私だけを見て――)


 胸の奥が痛む。

 ついさっき聞いたばかりの言葉。


 リィナが言ったこと。

 そしてユイナが言ったこと。


(俺は……どちらかを選ばなきゃいけないのか)


「湊……」


 ユイナが胸に顔をうずめる。

 小さく泣き声が響く。


「怖かった……ずっと……

 一人で祈るのが、怖くて……」


 震える肩に触れ、湊は言葉を探した。


「俺は……お前を――」


 その瞬間。


 ユイナの背後に、黒い霧が渦巻いた。


「ユイナ! 後ろ!」


 湊は反射的に彼女を抱き寄せる。


 黒い鎌が、少女のいた場所を薙ぎ払った。


「いやああああ!!!!」


 耳に刺さる叫び声。

 湊は剣を構える。


 ゆっくりと霧が晴れ、姿が現れる。


 黒い巫女服。

 赤い瞳。

 憎悪と絶望の化身――


「アルメリア……!」


「巫女は一人でいい……

 世界を救うのは……私……!」


 アルメリアの怨嗟が寺院を揺らす。


「勇者……湊……

 あなたはまた世界を滅ぼすの」


「ふざけるな! 俺は――」


「あなたが巫女を愛せば、世界は壊れるのよ!!」


 その言葉が、湊の胸を貫いた。


(俺が……巫女を……)


 愛せば――


 世界が壊れる?


「湊……?」


 ユイナが不安げに見上げる。


 アルメリアが指を向け、狂った笑みを浮かべた。


「あなたはもう……罪を犯したの。

 巫女を二人も愛してしまった!!」


 空が裂け、黒い雷が寺院を貫く。


「世界は、支えを失う!

 祈りが二つになれば……均衡は崩れる!」


 ユイナが湊に縋りつく。


「ねぇ……本当に?

 私たちが……世界を壊すの……?」


「俺は……」


 湊の喉が詰まる。


(俺のせいで……?)


(俺が二人を守ろうとしたから……?)


(それが……滅びの原因……?)


 胸が痛む。

 思考が揺らぐ。


 アルメリアの声が追い討ちをかける。


「勇者は巫女を壊す。

 巫女を守れた勇者なんて、一人もいない!」


「嘘よ!!」


 声が響く。


 湊とユイナが振り返る。


 瓦礫の中、光が溢れ――


 白く輝く少女が立ち上がった。


「リィナ!!」


 祈りの光が彼女を包み、

 傷一つなく立っていた。


「湊さんを苦しめないで!」


 リィナは真正面からアルメリアを睨む。


「祈りは一つじゃない。

 支えも一つじゃない。

 私たちは……三人で生きていくの!!」


 ユイナが息を呑む。

 湊の手を握る力が強くなる。


「三人で……?」


 リィナは湊に手を伸ばした。


「湊さんとユイナ様と……私で。

 絶対に――救ってみせる」


 アルメリアが絶叫する。


「そんな未来は存在しない!!!!」


 黒い雷が一直線にリィナへ放たれた。


「リィナ!!!」


 湊が叫ぶ。

 ユイナも叫ぶ。


 その瞬間――

 雷を弾いた光が湊の手の刻印から迸った。


 三つの輪が鮮烈に輝く。


 勇者の紋が完全覚醒し、

 凄まじい光の波動が周囲を飲み込む。


「な……に……!?」


「俺は……もう誰も失わない!」


 湊の声が轟く。


「たとえ世界が敵でも――

 俺は守る。

 二人を。

 そして俺たちの未来を!!!」


 世界が震えるほどの咆哮。


 光と闇が激突し、寺院が爆ぜる。



 すべてが白く染まる中。


 三人の手は――離れなかった。


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