第一章 その手を離さない
光と影が渦巻き、空気が震える。
リィナの体からあふれた光は、天井まで伸びていく巨大な柱になっていた。
「湊さん……!」
リィナは苦しげに湊へ手を伸ばした。
けれど、指先は触れる前に光となってほどけていく。
「待ってろッ!!」
湊は跳び、彼女の残りかすがりつく腕を掴んだ。
指先。掌。
そのぬくもりは、まだそこにあった。
「離すもんか……絶対に」
「湊、危ない――!」
レオルドの警告が届いた瞬間、
影の鎖が湊の足を絡めついた。
だが湊は、引きずり落とされながらも腕を離さなかった。
握った手に込める力は、むしろ強くなる。
「湊さん……あなたを好きになってよかった……」
「やめろッ!
別れを言うな!!」
湊の叫びが、光の柱にひびを入れた。
⸻
影の奥から笑い声が響く。
アルメリアは祭壇の上から、ゆっくりと階段を降りてくる。
「滑稽ね。器のいのちは、所詮代替品。
元に戻るのが正しいのよ」
「リィナはリィナだ!!
ユイナの代わりなんかじゃない!!!」
「でも……わたしは、ユイナ様の……」
その言葉に、湊は顔を歪めた。
リィナ自身が否定してしまう。
それがなによりも苦しかった。
「お前は……誰よりも優しくて、強い女の子だ。
俺の命を、何度も救ってくれた」
湊は両手でリィナの手を包み込む。
「もし世界が認めなくても、俺が認める。
リィナ、お前は……お前だけの人生を歩んでいいんだ」
ぽたり。
一滴の涙が、光の中で弾けた。
「生きたい……湊さんと一緒に……」
リィナの声は、弱かったけれど確かな願いだった。
⸻
「やめなさい。愚かな二人ね」
アルメリアが冷たく手を振る。
それだけで影が湧き、荒れ狂う波となって押し寄せる。
「う……!」
湊の背に黒い刃が突き刺さる。
血が散り、視界が赤く滲む。
それでも手は離さない。
むしろ、痛みを力に変えて握りしめた。
その姿に――
アルメリアの瞳が揺れた。
(どうして……そこまで)
彼女も知っている。
愛とは、時に愚かなほどまっすぐなものだと。
「だったら――
壊してあげる。
二人まとめて」
アルメリアが黒い紋章を描く。
祭壇の奥から、巨大な影の怪物が立ち上がった。
咆哮が大地を震わせる。
触手のような影が、湊に襲いかかる。
「湊!!」
レオルドが飛び込み、影を切り裂きながら叫んだ。
「もう無茶すんな!
お前、一人で背負いすぎだ!」
「背負わせろ!!」
湊の声は怒りでも絶望でもなく――
揺るがぬ決意の声だった。
「俺は勇者だ。
だから……守りたいものくらい、守らせろ!!!」
その瞬間。
光があふれた。
湊の腕の紋章が輝き、光がリィナに流れ込む。
リィナの体を蝕んでいた眩しい光が、逆流するように収まっていく。
「これは……!」
リィナの身体が、少しずつ実体を取り戻していく。
⸻
「……綺麗だね」
リィナがぽつりと呟いた。
光の粒が舞い、湊の血の跡さえ包んでいく。
「湊さん。
あなたと出会えて……生きたいと思えた」
「だったら、生きろ。
俺と一緒に」
「はい……!」
その頷きが、世界の何よりも尊かった。
⸻
「そんな力……どこで!」
アルメリアが叫ぶ。
その声は怯えに震えていた。
「勇者の紋章はな……
仲間との絆で、本当の力を発揮するんだよ」
レオルドが不敵な笑みで剣を構える。
「今の湊を止められると思うなよ、巫女様」
「黙りなさい!!」
アルメリアが絶叫する。
影の怪物が再び咆哮し、三人めがけ突進する。
湊はリィナを抱き寄せ、微笑んだ。
「大丈夫。
もう離さない」
リィナは涙を拭い、湊の胸に手を当てた。
「私も……支えます」
「――行くぞ!!」
三人が、影へと駆けた。
光の刃と祈りの力が融合し、
暗闇を切り裂く。
その瞬間、どこか遠くで鐘の音が響いた。
低く
重く
世界が変わり始めたことを告げるように。




