第三話:再び逃亡
飼い主はまるの好きなものを自宅から持ち出した。
おやつ。
おもちゃ。
よだれまみれのタオルケット。
リュックに詰めて再び光の中へ。
──異世界・大広間
飼い主の顔を見るなり、宰相は一言。
「また来た」
「まるを連れて帰るまでは諦めないんだよ」
まるは玉座の前で寛いでいる。
「まる~。遊ぼ~」
紫色のタコのおもちゃを振ってみる。
タコの足がぶんぶん揺れる。
ぶんぶん、ぶんぶん……
まるは顔をそむける。
「まる様の付き人よ……。その不気味な人形はなんだ」
「タコだよ。まるのお気に入りのひとつだ」
「全然興味なさそうだぞ」
「うぅ……まるは気まぐれなんだ」
飼い主はタコを置き、音の出るボールを取り出した。
「これならどうだ」
カラカラと鈴の音が鳴る。
「おぉ…聖なる遺物か!美しい音色だ」
「まるのおもちゃだよ!」
飼い主はボールを投げてみるが、
まるはふーん、と溜息をつくだけ。
「おぉ、まる様のお言葉だ!」
どよめく集団。
「ただの鼻息でしょ!」
おもちゃは効果がなさそうだ。
おやつ作戦に切り替える。
「まる~。おやつだぞ」
カリカリやジャーキーを入れた袋を振ってみる。
カサカサ……
「ほほぅ、酒のつまみによさそうだ」
「犬のおやつですよ」
まるは飼い主の手元を見た!
鼻をひくひくと動かし……
また元の体勢に戻った。
「気まぐれにもほどがある!」
「今のはまる様のお告げ!」
「さっきから解釈がすごいな!」
仕方なく次の作戦。
「まる~。ほら、タオルケットだぞ。角をかじり放題だぞ~」
「おぉ!聖なる衣だな!……くっさっ!」
「ごめんね。よだれまみれだから臭いよ」
「先に言ってほしい」
あれこれ試すが、全然動く気配のないまる。
「うーん。最終手段をとるしかない」
飼い主はポケットから「ちゅるちゅる出せるウェットフード」を出した!
「まる!ちゅるちゅるだぞ!」
まるはぴくっと反応した!
目がキラリと光る!
「ほら、まる~。おいしいぞ~」
まるは立ち上がった!
トテトテ……
ペロッ
「やったあ!まる!帰ろう!」
「そんな!まる様、行かないで!」
まるにリードをつける飼い主。
リード、グイー。
まる、ムニー。
拒否柴発動!
「まる!なんでだ!」
飼い主、愕然。
宰相、どや顔。
「見よ!やはりまる様はここにいるべきだと理解している!」
集団は喜びの声を上げる。
「だめだ!まるは俺と一緒に帰るんだ!」
「まる様にはこの国を救ってもらわねばならない」
「人間の問題は人間が解決しろ!」
「おお!それを言ったら物語が終わってしまう!」
「終われー!」
叫んだところで、飼い主は気づく。
「あれ……まるは?」
「そなたがつないでいたのでは?」
「ああ!首輪がすっぽ抜けてる!」
まる、異世界の中で逃亡!
どこに行ったんだ!?




