第二話:ロイヤルドッグ・まる
光の中を通り抜けると、明らかに物置小屋とは違う空間に出た。
どこかの豪華な広間のようだ。
高い天井。
きらびやかな装飾。
高貴な方が座るであろう玉座。
しかし今は誰も座っていない。
広間には大勢の人が整列している。
立派な服や鎧を身に纏っている。
ちゃんとした身分の人達なのだろう。
大勢が何かに向かってひれ伏している。
誰も座っていない玉座に。
──いや、玉座の横に座っている柴犬にだ。
茶色い毛並み、ピンと立つ耳、くるりと巻かれたしっぽ。
「むふー(鼻息)」
なにやら満足そうな表情。
絶対に、まるだ。
「まる!」
飼い主がまるを呼ぶ。
ひれ伏していた大勢が一斉に飼い主の方を振り返る。
「あなたは……どちらからいらした?」
尋ねてきたのは、玉座に近いところにいた立派な服をきた男性。
多分、宰相っぽい人。
「よくわからないけど、光の中に入ったらここにいました」
「この柴犬様の付き人かな?」
「付き人……飼い主ですけど」
ざわめきが起こる。
「なんということだ」
「まさに予言通り」
宰相がまた尋ねてくる。
「柴犬様の名前は?」
「まるまり……普段はまると呼んでますけど」
宰相が高らかに宣う。
「まる様!真の勇者の名前を持つ柴犬様だ!」
おぉーという歓喜の声が上がる。
「すいません、うちのまるがお邪魔しちゃって。じゃあ連れて帰りますんで。さようなら」
飼い主はまるに向かって歩き出す。
「待て待て。まる様はこの国を救う存在なのだぞ」
「他あたってください」
「他にはいない。選ばれた柴犬だけが光の中を通ってこの世界へ来る」
「知らん。関係ない。まる、帰るよ!」
「ぐぬぬ……せめて話を聞いてほしい」
宰相は勝手に話しはじめる。
昔々、この国には犬の姿をした神がいた。
神の名はマル。
国を危機から救った勇者…いや、勇犬である。
マル神が天に戻る時、勇犬を召喚する術を我らに授けた。
そうして、この国は「まる」という名の勇犬に救われてきた。
「……ということなのだ。だから、このまる様は大事な存在なのだ」
「はい。聞きました。じゃあ、帰ろう」
「ひどくない?」
──後に彼は、歴代トップクラスにドライな飼い主として名を刻むが、それはまた別のお話。
飼い主は、まるに近づき、撫でながらリードをつける。
「よしよし、いい子だ、まる。帰ろう」
リード、グイー。
まるの顔、ムニー。
拒否柴発動!
「ぐっ……まる!」
飼い主、困惑。
宰相、どや顔。
「見よ!まる様はご自身の務めをご理解しておられるのだ!」
まるは欠伸をする。
「おぉ……まる様のご神託である!」
「ただの欠伸だろ!」
「まる様はその意思でここにいる」
「ぐぬぬ……絶対連れて帰るからな!見てろよ!」
捨て台詞をはいて光の中へ戻っていく飼い主。
出入り自由らしい。




