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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第95話 「善意の距離」

それは、好意から始まった。


「辺境の薬草、評判がいいそうですね」


そう言って訪ねてきたのは、近隣領の代官だった。

笑顔は柔らかく、言葉遣いも丁寧。


敵意は、見当たらない。


「我が領でも、医療体制の改善を考えていまして」

「助言をいただければ、と」


善意。

少なくとも、表向きは。


対応したのは、アメリアではなかった。


「具体的には、どの程度をお考えですか?」

薬草管理の担当者が、自然に聞く。


代官は、一瞬だけ戸惑った。


「ええと……」

「まずは、見学を」


「見学は、受け付けていません」

穏やかだが、はっきりした声。


「情報提供なら、文書で可能です」

「用途と目的を、明記してください」


代官は、曖昧に笑った。


「随分、慎重ですね」


「必要な分だけです」


離れた場所で、アメリアはその様子を見ていた。


前に出ない。

だが、線は引かれている。


それは、彼女が直接言わなくても、共有されている線だった。


後日、正式な依頼書が届いた。


内容は、整理されている。

目的も、明確だ。


「……出してきたわね」


「引き返さなかったな」

ルシアンが言う。


「ええ」

アメリアは頷く。

「だから、こちらも対応できる」


返答は、条件付きだった。


薬草の提供ではなく、育成の基本情報のみ。

現地の判断を尊重すること。

成果の責任は、依頼側にあること。


代官は、その条件を飲んだ。


「助かります」

文面は、そう結んであった。


夜。


アメリアは、少し考えてから言った。


「善意って、距離を間違えると厄介ね」


「拒むほどでもないが、近づきすぎると重い」

ルシアンが応じる。


セイリウスは、静かに言った。


「距離を測ることも、成熟だ」


薬草園は、今日も変わらない。


だが――

扱い方は、確実に変わってきている。


誰かの手柄にならず。

誰かに奪われず。


「……これが、続けるってことね」


アメリアは、静かに息をついた。


外との関係は、切らない。

だが、踏み込ませない。


善意に、線を引く。

それもまた、選択だった。

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