第93話 「介入しない日」
衝突は、思ったよりも小さなところから始まった。
薬草の乾燥棚。
担当が分かれたことで、扱い方に差が出た。
「この草は、日陰の方がいい」
「いや、ここまで水分を飛ばした方が長持ちする」
声は荒くない。
だが、譲らない。
アメリアは、少し離れた場所からそれを見ていた。
以前なら、すぐに口を出していた。
正解は、分かっている。
前世の知識も、この世界での経験もある。
でも――
今は、動かない。
「……いいの?」
ルシアンが、やはり聞く。
「ええ」
アメリアは答える。
「今回は、見守る」
セイリウスも、何も言わなかった。
話し合いは、続いた。
途中で、第三者が口を挟む。
「用途は?」
「保存用なら、日陰だろ」
「でも、急ぎで使う分もある」
「じゃあ、分ければいい」
ゆっくりと、答えが形になる。
誰かが、折れるのではない。
やり方が、増える。
夕方。
棚には、二種類の乾燥薬草が並んでいた。
「……これで、いいか」
最初に声を荒げていた男が言う。
「次から、用途を先に決めよう」
もう一人が、頷く。
アメリアは、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
夜。
ルシアンが、感心したように言う。
「介入しなかったな」
「ええ」
「手を出したら、早い」
「でも、残らない」
セイリウスが、静かに続ける。
「経験は、共有された」
「そう」
アメリアは頷く。
「私の知識じゃなく、彼らの判断として」
薬草園は、今日も静かだ。
だが、その静けさは、停滞じゃない。
試行錯誤の、余韻だ。
アメリアは、棚の前で立ち止まる。
完璧じゃなくていい。
時間がかかってもいい。
「……育ってる」
薬草も。
人も。
夜風が、棚を撫でていった。




