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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第89話 「当たり前の、温度差」

王立医療研究院は、王都の外縁にあった。


白い石造りの建物は整然としていて、手入れも行き届いている。

だが、どこか“人の匂い”が薄い。


「……静かね」

アメリアは、そう漏らした。


「研究院だからな」

案内役の青年が淡々と答える。

「効率が、最優先です」


その言葉に、わずかな違和感を覚える。


最初の対面は、円卓だった。


医師。

薬師。

研究官。


皆、実績ある者ばかりだ。

視線は鋭いが、敵意はない。


「辺境での薬草活用について、興味深く拝見しています」

年配の医師が言った。

「特に、統制を置かずに機能している点が」


「統制していないわけではありません」

アメリアは答える。

「最小限にしているだけです」


「それが、こちらには難しい」


その一言で、空気が少し変わった。


議論は、数字から始まった。


収穫量。

保存期間。

治癒率。


アメリアは、正確に答える。

隠すことはない。


だが――

途中で、ある質問が飛んだ。


「その方法、王都全域に展開できませんか?」


アメリアは、即答しなかった。


「……前提が違います」

そう、静かに返す。


「辺境は、距離があり、即応が必要」

「だから、自立を優先した」


「王都は、人が多く、役割が細分化されている」

「同じやり方は、歪みます」


研究官の一人が、首を傾げる。


「効率が、下がるということですか?」


「いいえ」

アメリアは首を振った。

「“人が置き去りになる”ということです」


一瞬、沈黙。


誰も反論しない。

だが、納得もしていない。


それが、この場の温度差だった。


「……なるほど」

最初に口を開いたのは、若い医師だった。

「辺境では、それが“当たり前”なんですね」


「ええ」

アメリアは頷く。

「でも、ここでは違う」


それを、否定もしない。


休憩時間。


中庭で、アメリアは一息つく。


整えられた花壇。

計算された配置。


美しい。

だが、少し遠い。


「疲れましたか?」

声をかけてきたのは、先ほどの若い医師だった。


「いいえ」

アメリアは答える。

「確認できました」


「何を?」


「私の“当たり前”は、持ち込むものじゃない」

「見せるものです」


医師は、少し考えてから笑った。


「……厄介ですね、それ」


「ええ」

「でも、壊れません」


夕方。


初日の対話は、そこで終わった。


評価も、結論も出ない。

だが、互いに一線を越えなかった。


それだけで、十分だった。


宿に戻り、アメリアは窓から王都を見下ろす。


明るい。

人が多い。

便利だ。


でも――

ここは、居場所じゃない。


「……三日でいい」


条件付きの一歩は、間違っていなかった。


アメリアは、静かに灯りを落とす。


明日は、もう少し踏み込む。

だが、線は越えない。


橋を渡っても、

向こう側に住む必要はないのだから。

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