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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第88話 「条件付きの一歩」

朝の薬草園は、いつもより少しだけ静かだった。


アメリアは机に向かい、白紙の便箋を前にしている。

返事を書く――それだけのことが、思った以上に重かった。


「迷ってる顔だな」

ルシアンが、湯を注いだカップを置く。


「ええ」

アメリアは正直に答えた。

「でも、行かない理由だけで決めたくない」


便箋に、ペン先を落とす。


逃げない。

けれど、差し出されるままにもならない。


そのための言葉を、選ぶ。


書いたのは、短い文章だった。


――意見交換には応じる。

――評価・指導・管理を目的としないこと。

――滞在は最短期間とする。

――辺境の運営に関する決定権は、こちらにある。


「……ずいぶん、はっきりしてるな」

ルシアンが覗き込む。


「曖昧に行くより、誤解が少ないわ」

アメリアは言った。

「条件を飲めないなら、来なくていい」


セイリウスが、静かに頷く。

「渡る前に、橋の幅を示したな」


返事を出した翌日。


思いのほか早く、返書が届いた。


封を切り、目を通す。

そこに書かれていたのは――了承。


一切の管理権を求めないこと。

滞在は三日間のみ。

対話の内容は、双方の合意なく公表しない。


「……飲んだわね」

アメリアは、小さく息を吐いた。


「向こうも、本気だ」

ルシアンが言う。


「ええ」

「だからこそ、行く意味がある」


準備は、最低限だった。


特別な衣装も、護衛もいらない。

必要なのは、知識と、境界線。


「三日だけ」

アメリアは、薬草園を見渡しながら呟く。


畝は整い、棚は満ちている。

村も、問題なく回っている。


「留守は、任せて」

ルシアンが言う。


「流れは、変えない」

セイリウスも続ける。


アメリアは、二人に深く頷いた。


出発の朝。


辺境の門を出る前に、彼女は一度だけ振り返る。


守る場所があるから、出ていける。

戻る場所があるから、外を見られる。


「……行ってきます」


それは、宣言ではない。

確認だった。


橋を渡るのは、久しぶりだ。

だが、足取りは軽い。


外へ出る。

でも、溶け込まない。


条件付きの一歩は、少しだけ遠くへ連れていくのだから。

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