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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第84話 「動かされた手」

動いたのは、辺境ではなかった。


それに最初に気づいたのは、ルシアンだった。


「……来てるな」

朝の見回りを終えて戻るなり、彼は低く言った。


「何が?」

アメリアが顔を上げる。


「“許可証”だ」

ルシアンは一枚の紙を机に置いた。

王都の印章。

そして、近隣領の名。


《辺境一帯における薬草流通の一時管理について》


「一時、ね」

アメリアは乾いた声で呟いた。


「こういうのに、終わりがあった試しはない」

セイリウスが静かに続ける。


内容は、穏やかな言葉で書かれていた。

無理な接収はしない。

価格も保証する。

ただし――


「流通経路を、外部が把握する」


アメリアは、紙を置いた。


「……来たわね」

「何もしない姿勢を、“無防備”だと勘違いした」


昼。

村の広場に、人が集められた。


例の調査役とは違う。

今回は、役人だ。

武装も、敵意もない。


「皆さんの生活を、より安定させるための措置です」

役人は、そう説明した。


誰も、すぐには反論しなかった。


だが、沈黙は同意ではない。


「安定って、何だ?」

一人の農夫が、静かに尋ねる。


「今、困ってることはあるか?」


役人は、言葉に詰まった。


アメリアは、一歩前に出た。


「質問を、変えましょう」

彼女の声は、落ち着いていた。


「管理すると言いましたね」

「では、責任は、誰が取るんですか?」


役人は即答できなかった。


「病が広がったら?」

「作物が合わなかったら?」

「誰が、ここに来て判断するんですか?」


「……それは」

「規定に従い――」


「規定は、土地を知りません」


その一言で、空気が変わった。


村人たちは、気づいていた。


今の暮らしが、誰かに与えられたものではないことを。

自分たちで、考えて、選んで、積み重ねてきたことを。


「俺たちは、外に売らなくても回ってる」

「必要なら、頼む先も分かってる」


「管理される理由が、ない」


それは、反抗ではない。

事実の提示だった。


役人は、引いた。


完全ではない。

だが、強行する理由を失った。


「……一度、持ち帰ります」


その背中を、誰も追わなかった。


夕方。

薬草園に戻り、アメリアは深く息をつく。


「ついに、手を動かさせたな」

ルシアンが言う。


「ええ」

アメリアは頷く。

「“何もしない”が、相手を焦らせた」


セイリウスが静かに言った。

「だが、これは始まりでもある」


「分かってる」

アメリアは、薬草を見渡す。


「だから、次は――こちらが選ぶ番」


夜。

静かな風が、畝を撫でていく。


橋は、まだある。

だが、もう“渡らせないための橋”にもなり得る。


アメリアは、星空を見上げた。


守るために、動かない。

選ぶために、動く。


その境目に、今、立っているのだった。

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