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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第80話 「休むことも、仕事」

その日は、朝から体が重かった。


薬草園に立っても、いつものように香りが胸に入ってこない。

土の湿り気も、葉の張りも、理解はできるのに“感じ取る”までに一拍遅れる。


(……疲れてる)


アメリアは、ようやくそれを認めた。


王都。

周辺の村。

宗務院。

領民同士の軋轢。


どれも、ひとつひとつは大きすぎない。

けれど、積み重なれば、確実に効いてくる。


「今日は、作業を減らします」

アメリアがそう告げると、周囲がざわついた。


「体調でも?」

「ええ。私の」


その一言で、誰も反論しなかった。


昼前。

薬草園の奥、木陰に敷いた簡素な椅子に、アメリアは腰を下ろした。


手には、何も持たない。

記録帳も、籠も、置いたまま。


風の音。

鳥の声。

葉擦れ。


それだけを、ただ聞く。


「……珍しいな」

ルシアンが、少し距離を取って声をかけた。


「休んでるの」

アメリアは正直に答えた。

「今日は、薬師じゃなくていい日」


ルシアンは一瞬、驚いた顔をしたが、やがて笑った。

「そういう日も、必要だな」


セイリウスは、少し離れた場所で地面に触れながら言う。

「流れは安定している。

一日くらい、何も起きない」


アメリアは、その言葉に救われた気がした。


午後。

一人の少女が、恐る恐る近づいてきた。


「……あの」

「今日は、お薬もらえますか?」


アメリアは、少女の顔色を見る。

急を要する様子ではない。


「明日でいい?」

そう聞くと、少女は少し考えてから頷いた。


「……はい」

「今日は、休む日なんですよね」


その言葉に、胸がじんとした。


「そう」

アメリアは微笑んだ。

「ありがとう」


少女は安心したように帰っていった。


夕方。

空が赤く染まり始めた頃、アメリアはゆっくり立ち上がる。


体の重さは、完全には消えていない。

それでも、呼吸は深くなっていた。


(……無理をしない)


それは、これまで人に向けてきた言葉。

今日は、それを自分に使う日だ。


「薬師が倒れたら、元も子もないからな」

ルシアンが冗談めかして言う。


「ええ」

アメリアは頷く。

「だから、休むのも仕事」


夜。

薬草園に灯りがともる。


今日は、少ない。

けれど、それでいい。


橋は、常に誰かが立っていなくてもいい。

必要なときに、そこに戻れれば。


アメリアは、夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。


「……また明日」


小さな休息は、確かな回復を連れてくるのだから。

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