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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第75話 「招かれざる肩書き」

朝の薬草園は、いつもより人の気配が多かった。


乾燥棚の前では若者たちが作業をし、奥では年配の女性が薬草を選別している。

それぞれが静かに動き、声は必要最低限。

ここ数日で、この“間”に慣れてきたのが分かる。


アメリアは少し離れた場所から、その様子を見ていた。


(……流れは、悪くない)


そこへ、領兵が足早に近づいてくる。


「アメリア様。来客です」

「……また?」


そう呟いた直後、見覚えのある紋章が目に入った。

王都の正式な馬車。

しかも、調整局直属の印。


「今回は、逃げられなさそうね」


応接室に通されたのは、一人の男性だった。

年齢は四十代半ば。

派手さはないが、視線の鋭さが隠せていない。


「初めてお目にかかる」

彼は立ったまま、名を名乗った。

「調整局、次席官のマティアスだ」


次席官。

“正式ではない正式な提案”どころではない。


「遠路、ご苦労さまです」

アメリアは椅子を勧めながら言った。

「それで、今日は?」


マティアスは腰を下ろし、率直に切り出す。


「君に、役職を用意したい」


一瞬、室内の空気が止まった。


「王都―辺境連絡調整官」

「仮称だが、実務権限は広い」


ルシアンが思わず口を挟む。

「……つまり、王都側の人間になれと?」


「いや」

マティアスは首を振った。

「“王都にも属さない”立場だ」


セイリウスが静かに言う。

「それは、都合がいいな」


マティアスは苦笑した。

「否定はしない」


アメリアは、しばらく黙っていた。


役職。

権限。

責任。


それらが何を意味するか、分からないほど甘くはない。


「質問があります」

彼女は静かに言った。

「その役職で、私は何を“優先”するのですか?」


マティアスは少し考え、答えた。


「安定だ」

「王都、周辺、辺境。その全体の」


アメリアは、はっきりと首を振った。


「それは、できません」


即答だった。


「私は“安定”を最優先にはしない」

「必要なら、不安定を選ぶこともある」


マティアスの眉がわずかに動く。


「人も土地も、変化の途中で揺れるものです」

「揺れを止めたら、今度は壊れる」


沈黙が落ちた。


やがて、マティアスは深く息を吐いた。


「……なるほど」

「君が引き受けなかった理由が、ようやく分かった」


彼は立ち上がり、最後に言った。


「役職は、持ち帰ろう」

「だが――」


アメリアを真っ直ぐ見る。


「助言だけは、今後も求めたい」

「それも、強制ではなく」


アメリアは少し考え、頷いた。


「それなら」

「薬師として、できる範囲で」


マティアスは微かに笑った。

「それで十分だ」


馬車が去ったあと、ルシアンが肩をすくめる。


「断ると思ってたけど、ここまでとはな」


「肩書きが増えると」

アメリアは薬草園を見渡した。

「この景色が、見えなくなる気がするの」


セイリウスが静かに言う。

「だが、王都は放っておかない」


「ええ」

アメリアは微笑んだ。

「だからこそ、距離を保つ」


夕方の風が、薬草を揺らす。

ここは、変わらない。


役職も、名声もいらない。

必要なのは、手を伸ばせる距離と、引く勇気。


アメリアは籠を手に取り、再び畝の間を歩き出した。


スローライフは、守られた結果じゃない。

これは私が選び続けた結果なのだから。

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