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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第63話 「調整室の奥で、歪みは声を上げる」

地脈調整室は、王都の地下深くにあった。


表向きには倉庫扱い。

だが、重い鉄扉の向こうに広がる空間は、明らかに“それ”ではない。


「……空気が重い」

ルシアンが低く呟く。


石造りの回廊を進むにつれ、足元から微かな振動が伝わってくる。

鼓動のようでいて、不規則。

生き物が無理に呼吸をさせられている――そんな感覚。


「地脈を“押さえつけている”」

セイリウスが顔をしかめる。

「制御じゃない。拘束だ」


最奥の部屋に辿り着いたとき、アメリアは思わず息を呑んだ。


巨大な水晶柱。

無数の魔術陣。

それらが複雑に絡み合い、地面から湧き上がる光を一点へと吸い上げている。


「……これが、王都を支えてる装置」


だが、支えているのは都市だけではない。

富、権力、便利さ――

その代償を、地脈と周辺の土地が払わされている。


「誰が設計した?」

ルシアンの声に、怒りが滲む。


「古い賢者の理論を、都合よく切り取ったものだな」

セイリウスは魔術陣を見回しながら答えた。

「流れの“強化”だけを追求している。回復や循環の概念がない」


そのとき、背後で足音が響いた。


「――素人が、よくも口を出してくれたものだ」


現れたのは、王都の高位研究官。

紫のローブに、冷えた眼差し。


「この装置があるから、王都は繁栄している。

多少の副作用など、許容範囲だ」


アメリアは振り返り、真っ直ぐに彼を見た。


「副作用じゃないわ」

静かだが、はっきりした声。

「これは過剰投与。

効いているように見えるのは、初期だけ。

もう、臓器――いえ、地脈が悲鳴を上げている」


研究官は鼻で笑った。

「薬師風情が、国家規模の理論を語るな」


その瞬間。

床が、軋んだ。


水晶柱の光が乱れ、魔術陣の一部が明滅する。


「……何だ?」

研究官の顔色が変わる。


アメリアは一歩前へ出た。

「聞こえない?

さっきから、ずっと」


彼女は目を閉じ、地面に膝をつく。

掌を石床に当て、ゆっくりと息を整える。


――重い。

――苦しい。

――流れたい。


地脈の“声”。


「このまま続ければ、王都は助からない」

アメリアは立ち上がり、告げた。

「暴走は、必ず起きる。

そのとき、装置は逆に街を壊す」


セイリウスが補足する。

「記録も、観測値も揃っている。

隠し通せる段階は過ぎた」


研究官は歯を食いしばり、黙り込んだ。

やがて、苦々しく吐き捨てる。


「……では、どうしろと言う」


アメリアは迷わず答えた。


「止める。

一気にじゃない。段階的に。

流れを戻し、森と周辺へ分配する」


「そんなことをすれば、王都の機能が――」


「一時的に落ちる」

彼女は遮った。

「でも、崩壊よりはずっとマシよ」


沈黙。


長い、長い沈黙の末。

研究官は、震える手で装置の制御盤に触れた。


「……三日だ」

彼は絞り出すように言った。

「三日で、証明してみせろ。

この方法が、本当に“治療”だと」


アメリアは頷いた。


「ええ。

薬師として、必ず」


水晶柱の光が、ほんのわずか弱まる。

それに呼応するように、地下の空気が少しだけ軽くなった。


だが、これは始まりに過ぎない。


王都全体を巡る“処方”は、これからだ。

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